その5
三國は二階にあるトイレで用を足し、特に急ぐ事も慌てる事もなく、二階のロビーに出てきた。すると一階の方で、若い女性たちのはしゃぐ声が聞こえてきた。
三國「・・・?」
少し気になったので三國は、声が聞こえる一階に通じる階段に近づいて、一階を、下を覗き込んだ。するとそこから突然一人の若い女性が現れて、二階へと上がってきた。
三國「・・・!」
三國は下を見ているので女性の動向が見れたが、その女性は顔を下にして、階段を見ていたので、上にいる三國の事は気づいてなかったようだ。彼女は普通のスピードで会談を上がっている。
三國『同世代?でも晴れ着じゃなくカジュアルな服装だ。スタッフの人?役所かな?』
と彼女を見ながらそう思った。彼女はジャケットを着ていてラフなパンツ姿。着物やスーツのような、式典にはあまり合わない服装をしていた。でも当事者、成人でなかったらあり得る感じである。
そんなに狭い幅ではないが、このままだと彼女の動線からしてぶつかると思った三國は、彼女が上がり切る直前に、すうっと身体を横に移動させた。この時に彼女は三國の存在に気が付いた。
彼女「・・・あ!すいません!」
そう言った瞬間に、三國と彼女は初めて目を合わせた。この時三國は何かに少し気が付いた。
三國『・・・あ!・・・もしかして・・・。』
言葉にはしなかったが、三國は心の中で呟いた。でも彼女はそう言っただけで、そのまま向こうに歩いて行った。が、これまた急に彼女は立ち止って、そしてゆっくりと振り返って、三國を見た。
彼女「・・・もしかして、・・・智くん?」
と質問された三國は、同じく彼女に聞き返した。
三國「・・・美緒さん?・・・大和田さんですか?」
すると彼女は頷いて、笑顔で三國に伝えた。
美緒「ああっ!そうっ!やっぱり智くんだ!久しぶりだね!」
やや高めの声で、大和田はゆっくりと三國に近づいて来た。
三國「・・・あ、あの、その、お久しぶりです。」
逆に緊張して、やや低めのトーンで三國は答えた。そして何故か軽く頭を下げた。
美緒「何でよ?何でかしこまってるの?でも本当、中学の時以来だよね。」
三國「あ、あ、はい、そうですね。本当に・・・。」
三國がこうなるのも、男としてなら気持ちがわかるだろう。昔の幼馴染として中学生まで接していた女性が、同じ二十歳で成人となって突然現れた。その時もある程度美形の顔つきをしていたのに、今こうして大人として出会ってみたら、より一層美しく、化粧も映えて子供の頃とは当然成長した姿になっているのだから。あまりの美しい変貌に、三國は驚きと戸惑いを隠せなかった。
美緒「・・・で、ねぇ、今何してるの?」
中学の頃と同じままの口調で聞いて来たので、三國は目線を若干外しながら答えた。
三國「あ、はい、ええっと、・・・大学生で、・・・○○県の方にいます。」
美緒「あ、本当!へぇ~、○○県、凄いね、頭良いじゃん。」
見つめられながらそう言われて、三國は直立不動のまま返した。
三國「いや、全然。そんな事・・・・。」
と三國が言ってる時に再び、階段の下から声が聞こえてきた。三國も大和田もその声に反応して階段を見ると、そこから二人の若い女性たちが現れた。
女性A「ちょっと美緒、何してんの?」
女性B「・・・あ、・・・もしかして元カレ?」
彼女らは二人の様子を見るなり、ニヤケ顔で声を発した。そう言われて大いに戸惑う三國とは反対に、大和田は冷静な口調で呆気なく反論した。
美緒「違うわよ、中学の時の、幼なじみよ。」
と言った後大和田はふと三國を見た。三國は言われるがまま大きく頷いた。
女性A「・・・本当に?」
女性B「まぁいいわ。それより時間がないのよ、早く!」
大和田「ええ、わかってる。」
急かされて大和田はそう答えた後、先に動いた二人の後を追うように、三國を置いて大和田は動き出した。三國はそれを呆然と見ていた。
美緒「ごめんね、急いでるから。今大学でダンスやってるのよ。この後ステージで踊るから、
絶対に見てよね。」
そう言って大和田を含めた三人の女性たちは、三國の視界から消えて行った。
三國「・・・・・・。」
本当に唐突な出会いと別れで、三國の心境は大いに揺れていた。