その45
岸「そもそも、俺は正直試合も大会もないって思っていた。この時この機会しかないみんなの
大切な時間を、俺は簡単に無理だから諦めろって言って、そしてやり過ごそうとしていた。
いつかまた来るから、できるから、若いから次があるって、そうやってみんなを諭そうとした。
でもみんなは諦めずに、何とかできる方法を模索して、提案して、現に大会が行われたよな。
ダメになって普通ならそのモチベーションが下がる筈なのに、みんなはそれを持続していた。
その事にまずは感謝し、また俺自身謝罪をしなくてはならない。誰よりも早くできないから
諦めろと言ってしまった事に。この時点でもう俺はサッカー部の顧問として、いや先生として
みんなよりも早く見切りをつけてしまった事に。本当にすまなかった。」
そう言って岸は三年生たちに深く頭を下げた。三年生たちはそれを見て大いに戸惑った。
三國「・・・いや、良いんです。正直俺たちも、・・・なぁ?」
三國がそう言うと、他の三年生たちも微笑みながら頷いた。岸は頭を上げて、再び話し出した。
岸「まだある。次に出場が三年生だけとなって、このままじゃ人数が足りなかったよな。
でも他の部から助け来て、出場する事ができた。これはうちの学校だけの事であって、
他の学校は三年生だけでなく二年も一年もいた。・・・おかしいだろって思ったと思う。
でもそうしないと試合に出られないから、仕方なくそうしたかも知れない。
けど他所の他の部の者たちも、みんなは快く受け入れて、僅か一か月だけのチーム構成
だったが、最終的には一つになれた、と俺は見てそう思った。こんな学校の、
わがままを受け入れてくれた事についても感謝する。本当にありがとう!」
そう言って岸は再び、三年生たちに深々と頭を下げた。
三國「・・・先生、もう良いですから・・・。」
言った三國も、他の三年生たちも困惑した。そして岸はまた頭を上げて、またまた話し出した。
岸「・・・まぁ、そう言う事だ。・・・確かに結果的には大敗してしまったが、最後までよく
やったと思う。それ以上にいろんな逆境に立ち向かって、そしてクリアしていった事に。
俺自身もこの出来事を通じて、もう一度考え直さなきゃならないと思ったんだ。ダメと
思ってすぐに諦めるよりも、できる限りの中で何とかできないものかと、な。だから
ターニングポイントになったんだ。みんなのおかげでな。本当に本当にありがとう!」
と言って岸が三度頭を下げようとした時、長野がこう言った。
長野「もう良いよ先生、わかったから・・・。」
畑「別に俺たち、そこまで思っても考えてもないから・・・。」
と畑が発した時、岸は途中で頭を上げた。
岸「・・・とにかく、ありがとう!そして、卒業おめでとう!」
岸は満面の笑みで三年生たちに告げると、三年生たちも大きく返事をした。
三年生たち「はいっ!!」
岸「・・・よし!じゃあ解散だ!もう長居するなよ!」
そう言って岸は三年生たちから去ろうとした時、ふと三國を見て合図をした。
岸「・・・キャプテン、ちょっと・・・。」
と小声で周りに気づかれないように呼んだので、三國は徐に近寄った。
三國「・・・何ですか?」
他の三年生たちから少しだけ離れた場所で、岸は三國に告げた。
岸「・・・改めてなんだが、俺がこんな気持ちになったのは君のおかげだ。あの試合の後半で、
君が考え方を変えて、良い方にポジティブにやってくれたおかげで、みんなの気持ちや
テンションを腐らせずに済んだと思う。俺があの時言葉に迷って、何となくその場しのぎの
言い方をしてしまった時に、君だけが純粋に捉えてやってくれたから、正直助かったし、
また嬉しかったよ。この事は俺の教師生活で一番の出来事であり、絶対に忘れられない
事になったよ。ありがとう、キャプテン。」
と言って岸は三國に握手を求めた。三國はその握手に応じた。
三國「別にあの時、自分もギリギリの状態でしたから・・・。
ただ、良い終わり方をしたかっただけで・・・。でもダメだったけど・・・。」
そして二人はふとニッコリ笑った。するとそこにみんなが集まって来た。
吉田「何だ?何かあったか?」
その質問に三國が淡々と答えた。
三國「いや、まぁ・・・。みんなが次にこうしてまた逢う日が来るなら、
・・・多分成人式、なんだろうなって。」
岸「まぁそうだな。確かに。」
それを聞いて岸は再び笑った。
和山「となると、・・・今から、五年後、か?」
篠崎「けど高校からもう、音信不通になるかもよ。」
吉田「そんな、すぐに縁切るのかよ?」
長野「恐らくあの新人たちは決定的だな。だって今いねぇじゃん。」
畑「取り合えずこの話はしておくよ。一応。」
三國「じゃあそれで決定!成人式だな!」
そんな会話をしている中、岸がこの会合の終わりを誘った。
岸「よし!じゃあもうこれで終了だ、いいな?・・・じゃあキャプテン!いつものアレで!」
と岸は三國に合図を送った。すると三國を含めた三年生たちは、岸の前で横に一列に並んだ。
三國「じゃあいいか?・・・以上!練習終わりっ!」
三年生たち「ありがとうございました!!お疲れ様でした!!」
岸「・・・お疲れ様。元気で頑張れよ!」
お互い一礼をして、そしてこの場を去ったのだった。