その44
〖二〇二〇年度 志田原中学校 卒業式〗
この時期当然コロナ禍での開催となった。取り合えず三年生卒業生だけは全員参加が許された。保護者も二名まで来場する事ができた。しかし例年よりも簡素で、時間も短くなって、ただ単に卒業しただけの印というか証というか、経験だけをひとまず味わったような感じであった。
長野「おっ、お前らも来たのか。」
畑「お前たちこそ。」
和山「まぁな。もう二度と来ないかも知れないからな。」
池田「何だよ。遊びにも来ないのか?」
サッカー部の部室前に、先に長野と池田が来ていた。そこに畑と和山がやって来た。
和山「中開いてる?」
池田「いや閉まってるよ。もう二年のヤツらが管理してるしな。」
畑「・・・何か、忘れ物?」
和山「いや別に。・・・落書きでもしようかなって。」
長野「ふっ、なるほどな。」
そんな四人の所へ吉田と篠崎がやって来た。
吉田「おおっ!やっぱり来てたか!」
畑「そっちこそ!」
篠崎「せっかくだからな。ここに来ないとさよならもできない。」
池田「うわっ!キモいセリフ吐くなよ!どうかしたのか!?」
篠崎「何だと!?俺が言っちゃ悪いのか!?」
和山「まぁまぁ、二人とも私立なんだから仲良くしろよ。」
池田・篠崎「ああっ!?何だとてめぇ!」
畑「あ、ミクだ!・・・あっ、先生と、・・・タケシもいる。」
畑が見たのは三國と顧問の岸、そして最後の試合に出なかったサッカー部の大谷タケシが、こっちにやって来る光景だった。畑の言葉を聞いて、みんな一斉に振り向いて、その方向を見た。
吉田「おっ!本当だ。」
池田「タケシもいるじゃん!」
別に打ち合わせてなかったけど、三年のオリジナルメンバーの、志田原中サッカー部員が集結した。そして岸までもやって来た。
岸「なんか、みんな集まってるな。とにかく卒業おめでとう!」
志田原中サッカー部員「ありがとうございます。」
岸「まぁこうして、せっかく集まったから、・・・俺から一言あるんだ。」
志田原中サッカー部員「?」
岸「まだ辞令は出てないが、・・・来月俺はここを出て、○○中へと異動するんだ。転勤だ。」
それを聞いて志田原中サッカー部員全員が絶句した。
岸「・・・ここでの思い出はやっぱり、お前たちだよ。特に最後のあの試合は忘れられない。」
この言葉に胸が熱くなった者がいたが、そうでもなかった者もいた。
篠崎「・・・それって歴史的大敗だって事ですか?」
長野「先生にとって、がっかりしたって事ですか?」
そう言われて岸は、いつもならクールで呆れた、大人として先生としてのセリフを言って、部員たちにマウントを取るのだが、今回はそうではなかった。
岸「・・・そうじゃない。そうじゃなくって、・・・逆によくやったと思ってる。
あの試合は、俺の教師生活において、ある意味ターニングポイントになったんだよ。」
この岸の言葉に、志田原中サッカー部員全員が、一斉に不思議そうな表情をした。