その42
式典もそろそろフィナーレへと向かっていた。ここで突然暗転と共に、大きな音が会場に鳴り響いた。三國は起きてはいたけど意識が思い出の中だったので、暗転になった時点で現在に戻って来た。残りの二人は寝ていたので、この音に飛び上がって驚いた。
三國「!!」
長野「んっ!?何だっ!?」
富田「はぁっ!?どうしたっ!?戦争かっ!?」
二人の様子に三國が宥めて答えた。
三國「落ち着け。今からダンスが始まる。そのプロローグだ。」
富田「・・・ダンス?だったらもう少し控えめにしろよ、いきなり大きな音で・・・。」
三國「とにかくいつまで寝てんだ?もうすぐ終わるぞ。」
富田「仕方ねぇじゃん、昨日ほとんど寝てないんだからよ。」
すると暗転からステージにライトが当たって、そこには五人の女性たちが横に並んで立っていた。
長野「・・・ああ、なるほど。あの中にミクの好きな女がいるんだな。」
三國「おいっ!!」
富田「何っ!?どういう事だ!?」
長野「いや何かついさっき、ロビーで会って告白したんだよな?」
三國「するかっ!!ただ久しぶりに会っただけだ!」
富田「へぇ~、誰?」
長野「お前は知らんと思うが、昔いたサッカー部の先輩の、妹さんだ。大和田美緒、だったよな?」
三國「フルネームで言わなくていい。」
富田「・・・ん?何かどこかで、聞いた事あるぞ?・・・何部に入ってた?」
三國「・・・吹奏楽部だ。」
それを聞いて富田が何かを思い出した。
富田「あっ!そうそう!大和田ね!思い出した!俺のバイト先の先輩と付き合ってるよ。」
これには二人とも同時に驚いた。
三國「はぁっ!?何だと!?」
長野「ほう!・・・でも何で吹奏楽と関係あるんだ?」
富田「もう俺は辞めたけど、前にカフェでバイトしてた時、店のイベントで演奏する事があって、
その時にその先輩と一緒に来てたよ。少し話した時に同じ中学って知って、
そして部活が吹奏楽部って言ってたからな。」
長野「そうか。・・・なるほど。」
三國「・・・・・・。」
富田の発言を聞いて、三國はやっぱりがっかりした。長野はチラッと三國を見た。この時の会場の灯りが暗かったのでよく見えなかったが、三國が落ち込んでると長野は感じて声をかけた。
長野「・・・まぁ気にするな。誰でもある。」
三國「・・・別に。元から何もないんだ、たださっき会っただけだ。」
富田「そう強がるなよ。去年の事だったからな。・・・もしかして別れてるかもよ?」
三國「いいんだよ!もう関係ないんだ。」
そう言って三國は真っ直ぐステージを見た。そこには確かにあの五人の中に、大和田美緒がいた。笑顔で躍動的に、しなやかで仲間たちとの呼吸も合って、激しくも華やかなダンスをしていた。
長野「・・・どこ?どいつ?」
富田「・・・ああ、あの、あの二番目の子だ。」
長野「あっ、あれか?・・・確かに美人だな。ありゃ難しいぞ。」
富田「・・・意外とスタイル良いなぁ。」
三國「・・・・・・。」
でも三國は少し未練があった。でも別に、そうならこのままでいいとも思った。とにかく中学時代から続いてる事柄が、この式典や会場である程度消化できた気分になった。
『ピロリン!』
誰かのスマホが鳴った。
三國「・・・ん?」
長野「誰だ、この音?」
富田「・・・あ、俺だ。」
そして富田は上着からスマホを取り出して、画面を見た。畑からのラインであった。
富田「・・・あ、畑からだ。・・・さっき集まったあの場所で会おうって。」
それを聞いて三國も長野も、自身のスマホを取り出して確認した。
長野「あ、本当だ。今から?」
長野は畑に確認の返信をした。
畑『・・・終わってからでもいい。ただもうすぐ終わるから、俺はもうここを出る。』
長野「・・・なるほど。終わってからじゃ出るのに大変だから、俺たちも出るか?」