その38
高藤「おおーいっ!!俺は全力を出したぞっ!!」
その声は三國だけでなくもちろん、志田原中の選手たちにも喜多ヶ丘中の選手たちにも、その他この場所にいる誰にも声が聞こえた。コロナ禍でお互いの応援・声援がない静けさの中だから、聞こえて当然であった。
高藤「今度はお前らがっ!!全力を出す番だーーっ!!」
周りの選手たちは呆然としていた。ようやく審判が動き出して、高藤の方を向いた。
高藤「お前らの三年間はそんなものかーーっ!!?一点も取れないのかーーーっ!!?」
それを聞いて三國の表情はハッとなった。
審判「ピピピピピーーーッ!!!君っ!!静かにしなさいっ!!」
そして審判は次に、ベンチにいる岸へと目を向けた。岸は苦笑いしてただ会釈を何回もした。
池田「・・・おい、ミク。本当に・・・、ん?」
そう言いながら池田は、ふと三國の表情を見た。その時三國の目つきが、先程の疲れた時とは違った感じに見えた。そしていきなり三國はボールを蹴り出し、池田に渡した。
池田「!!・・・どうした!?何だ!?」
咄嗟にボールを持って、驚く池田に三國はこう伝えた。
三國「こうなったら、・・・一点だけでも取ってやる!」
この後三國は後ろを振り返った。そして高藤に大声で言い放った。
三國「いいかーーっ!!見てろよーーーっ!!俺たちは一点も!!一点も取れずに終わらないっ!!
そんな三年間じゃないからなーーーっ!!」
そして三國は池田からボールを奪って、前へと進み出した。審判や喜多ヶ丘中の選手たちの不意を突いて。
池田「お、おいっ!ちょっ・・・!!」
池田は慌てて三國の後を追った。その様子を見ていた志田原中のオフェンス陣たちは、最初は無論驚き戸惑い、でもすぐに意味を理解した。
篠崎「・・・ったく、どうなっても知らんぞ?」
吉田「・・・マジでヘバッたのか?これがラスチャンなんだぜ。ここしかないんだ!」
そう言って吉田も前線へと走り出した。すると篠崎も渋い表情をしつつも、その後を追った。
長野「・・・だよな。・・・一点さえ取れば、この試合は引き分けだもんな・・・。」
と長野は一人呟いた。しかし近くに何故か富田がいて、長野の独り言が聞こえた。
富田「・・・?・・・何言ってんだ、お前?」
と富田は長野に話しかけた。すると突然長野も前へと走り出した。そして何故か富田も一緒に走り出した。
富田「何だっ!?何があったっ!?」
長野「・・・良いんだよっ!!こっちの解釈だっ!!」
二人は話しながらボールの行方を追った。
富田「・・・なぁ、俺はどうしたらいい!?どうすんだっ!?」
長野「・・・知るかっ!!そんな事、自分で考えろっ!!」
前線について長野は一旦立ち止った。もちろん富田も止まった。長野は富田をチラッと見た。
長野「・・・邪魔になるから後ろにいろっ!!後方支援だっ!!」
ようやく自分の居場所がわかった富田は、笑顔で了解した。
富田「・・よし!!わかったっ!!じゃあ頼んだぞっ!!」
三國に続けと池田・吉田・篠崎・長野が、三年間培った技術とチームワークで、キタ中の選手たちの守備を切り崩そうとしていた。しかし残り時間はもう何分もなかった。