その36
矢西「・・・ごめん。・・・つい、・・・つい、どうしても、・・・本当にもう・・・。」
と泣き顔になりながら矢西は謝罪した。
三國「・・・いいよ、仕方がない。・・・気にすんなよ。」
和山「・・・そうさ、誰だってする事あるんだから。・・・本当に感謝するよ。」
二人の言葉を聞いて、更に表情を崩しながら、矢西はグランドを去って行った。この間着々と喜多ヶ丘中は、PKの準備をしていた。そして三國はキーパーの高藤の所に行った。
三國「・・・どう?自信はあるか?」
今までのディフェンス陣の必死のプレイを見ていたから、この展開になった時から高藤は、その重責と緊張が表情に表れて、顔面蒼白になっていた。
高藤「・・・いや、全然自信がない。悪いけど無理だ。・・・もう先に謝っとく、すまん。」
その口調ですら声が震えて、高藤は立ってるだけ精一杯だった。その状態を見て聞いて、三國はふと笑顔で高藤にこう伝えた。
三國「・・・やる前から謝んなよ。まだ始まってもないし。・・・それに、そもそも四点差だから
この一点で左右する事もないんだからよ。」
それを聞いて高藤は少し驚いた。と同時に心にあった緊張と動揺が、すうっと消えて行った。
高藤「・・・え!?・・・だって、・・・だって、この試合は・・・?」
三國「あ、聞いてたの?・・・確かに別物としてたけど、・・・だったらまだ、まだ諦めるなよ。
・・・お前の全力を、ここで見せてくれ。・・・部は違うけど、今までやって来たって、
その底力をよ。・・・ここしかないと思うから、出番は。」
そう言って三國は高藤から離れようとした時、高藤は声を上げて即答した。
高藤「ああ、わかった!やってやる!・・・見てろよ!俺の全てを出すから、見ててくれ!!」
三國にはもちろん、他の志田原中の選手たちにも、そして喜多ヶ丘中の選手たちにも聞こえた。
三國「・・・ああ、頼むぜ!!・・・見てるからな!!」
と三國は笑顔で返答した。すると他の仲間たちからも、言葉が返って来た。
畑「ああ!頑張ってくれ!!」
吉田「期待するからな!!」
篠崎「・・・ダメ元だけど、見せてみろよ!」
PKの準備が整って、喜多ヶ丘中の選手がボールの前に立ち、審判はホイッスルを鳴り響かせた。この時一瞬だけグランド内、会場内も静寂に包まれた。そしてこの後キタ中の選手が、ボールを蹴った音が大きくこだました。
≪パーーーァン!!!≫
すると高藤は身体を大きく広げて、ボールの進行方向に向かって横っ飛びをした。その方向は間違いなくボールの飛ぶコースで、タイミングもぴったり一致していた。ただボールを捕らえる事はできなかったが、高藤の腕に当たって結果、ゴールに入らずに防ぐ事ができた。
志田原中の選手たち「おおおおおおーーーっ!!!!」
しかし腕に当たって弾かれたボールは、ゴール前へと転がってしまった。それを高藤は確保する事ができなかった。更に高藤の超ファインプレーに見とれていた志田原中の選手たちは、その状況に対応する事ができなかった。この時そのボールに素早く対応したのが、先程PKでボールを蹴ったキタ中の選手だった。
畑「あっ!!しまっ・・・!!」
三國「急げ!!ボールを・・・!!」
その言葉を発したがもう遅かった。そのキタ中の選手は、高藤が倒れている状態の無人のゴールへと、容赦なくシュートを打った。