その35
三國の加入によって、志田原中の守りは前半よりも強固になり、何度も点を取られそうな場面もあったが、かろうじて防げていた。しかしその反面、オフェンスの機能が低下してしまって、その分ボールを喜多ヶ丘中に奪われて、その為ディフェンスの時間が多くなっていた。時間も四十分を過ぎて、三國たちの疲労は限界に達していた。
三國「はぁはぁはぁ、・・・あと、あと何分だ?」
和山「・・・はぁはぁはぁ、・・・あと、・・・五分くらい、・・・でも、アディションが・・・。」
三國「・・・そうか、・・・ああ、もうこうなったら、・・・とにかく、0のままで!」
和山「・・・ああ、もちろんだ!」
本来ならば三國が攻撃の起点として、試合を組み立てる役割なのだが、こうして後半ずっと守りに徹しているから、いざ志田原中の攻撃になっても、すぐにボールを取られてカウンターをくらっている、後半の状況はほぼそんな感じであった。
篠崎「何してんだよ!?ちゃんとしろ!!」
富田「わかってる!!仕方がないだろ!!」
畑「言い争うなよ!!俺に来い!!」
富田「ほら!!頼むぞ!!」
畑「あっ!!もうっ!!・・・池ちゃん!リュウに渡せ!!」
池田「わかった!リュウ!!」
長野「あっ!!トミ!!何でここに!?」
畑「おぃ!邪魔!!」
富田「あっ!!しまった!!」
篠崎「・・・ああ、また取られやがった!!クソッ!!」
三國「戻れ!!戻れ!!死守だ!!死守!!」
吉田「・・・はぁはぁ、そっち頼む!」
矢西「・・・はぁはぁはぁ、・・・わかった。」
三國「・・・お、おいっ!やり過ぎるなよ!・・・ちょっ、おいっ!」
矢西「・・・う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
矢西はもう反則覚悟で、ボールを持っている喜多ヶ丘中の選手に突進した。それに気づいた喜多ヶ丘中の選手は、ギリギリのところでボールを仲間にパスした。がしかし矢西は疲労で行動を止める事ができず、キタ中の選手もかわせず間に合わず、まともに矢西の突進を受けてしまった。そして二人とも互いに吹っ飛んでグランドに倒れてしまった。
審判「ピピピピピーーーッ!!!!」
当然審判がホイッスルを吹きながら、矢西とその選手の所にやって来た。すかさず審判は矢西に向けてポケットからカードを取り出し、大きく腕を上げて掲げて見せた。それはレッドカード。一発退場の意味である。
篠崎「・・・おいおいおい、・・・。」
長野「・・・マジかよ。」
三國「・・・・・・。」
畑「・・・何てこった・・・。」
ここにいる誰もがそれを見て、一瞬だけ静まり返った。しかし志田原中の者たちはそれを含めて、心や精神に大きな動揺が走った。ここで矢西がいなくなって、志田原中は十人で戦わなければならなくなった。更には反則をした場所がペナルティエリア内だったので、喜多ヶ丘中にペナルティキックが与えられたからであった。
畑「・・・今までの、・・・アレが・・・。」
と言って畑は自然とその場にしゃがみ込んだ。また他の志田原中の選手たちも、何とか繋いでいた気持ちの糸が、ぷっつりと切れたような思いに浸って、ただ呆然としていた。
篠崎「・・・五点かよ。」
と篠崎がポツリと呟いた。すると長野が静かに近づいて来た。
長野「・・・まだ決まってねぇだろ。」
と低く思い口調で篠崎に言い返した。
篠崎「・・・けどよ、・・・もうわかってるだろ。」
確かに長野も理解していた。だからそれ以上は言えずに、ゴール前の様子を見つめていた。