その33
後半は喜多ヶ丘中のボールから始まった。と同時にこの時点で、志田原中サッカー部員たちは、ハッと何かに気がついた。それは喜多ヶ丘中の選手たちの顔触れが、前半に戦った選手たちと違っていたのである。キタ中のメンバーがほぼ交代していたのだ。四点差によってキタ中の主力選手たちは控えて、補欠の部員や二年の部員等を投入して、後半戦に臨んでいたのである。
長野「・・・クソッ!!ふざけやがって!!」
長野は怒りを露わにして、ボールを持っている相手選手に向かって、反則覚悟でボールを奪いに行った。が、その選手は長野を難なくかわしてボールを中央に蹴り上げた。それを見ていたキタ中の選手たちは見事な連携をとって、志田原中のゴール前にボールを運び込んだ。
池田「ああっ!!ヤバいっ!!」
篠崎「あっ!!何でそこ空いてんだぁ!?」
まさに絶妙のパスだった。キタ中の選手たちは、慌てて焦ってゴール前だけを固めていた、志田原中の選手たちの裏を突いて、後半開始早々シュートを打った。
畑「あっ!!」
和山「しまったっ!!」
すると突然誰かが素早く反応して、そのシュートを身体で受けて防いだ。するとボールはサイドラインを越えて、再びキタ中のボールになったが、この失点の危機は回避する事ができた。この危機を防いだ誰かとは富田であり、後半から港の代わりに入ったのである。富田からすればようやくの出番で、体力的にも気持ち的にも十分漲っていた。
富田「おいっ!お前らしっかりしろっ!!それでも三年間やってきたのかーっ!?」
富田は大声でそう、周りにいる志田原中の選手たちに喝を入れた。
篠崎「何だと!コラぁ!?」
そう言って篠崎は富田に近寄った。
富田「開始早々これじゃシャレになんねぇぞ!?」
篠崎「うるせぇ!声しか出さなかったくせに、たったこのピンチで・・・。」
この二人の様子を見て、三國が慌てて二人の所に駆け寄った。
三國「・・・おい、言い争うなよ、終わっちまうぞ。」
と三國は冷静に二人を諭した。しかし富田は冷静な口調でこう発した。
富田「もう終わってんじゃん、このモチベーからして・・・。」
篠崎「お前に言われたくねぇよ!後半デビューの・・・。」
と篠崎が熱くなってる時に畑もやって来た。
畑「何やってんだ、もう始まるぞ!」
篠崎は不服そうな表情で、こう言って自分のポジションに戻った。
篠崎「そもそもディフェンスが、機能してねぇだろ、もう。」
それを聞いて三國はチームの守備陣たちを見た。守備の要を担っている和山や吉田は、後半開始早々だが、もうすでに疲労し切っていた。何故なら一か月前にやって来た、メンバーのフォローもして、そしてゴールも守っていたので、いつもの試合以上にスタミナや、そのペース配分がすっかりバカになっていたからだ。
三國「・・・・・・。」
それを見て三國は一つの決断に踏み切った。