その31
矢西・大里・港・富田「・・・・・・。」
本来のサッカー部の連中はもとより、新しくサッカー部に入った連中も、自分たちの未熟さ、何の力にもなっていないこの状況を省みて、ただただ絶望感を感じていた。
畑「・・・・・・後半、どうする?」
どんよりと重たい雰囲気の中、畑は三國を見て尋ねた。
三國「・・・それでも、俺たちが出たいと、臨んだ試合だから・・・。」
と三國が言葉を詰まらせながら話している時、この様子を黙って見ていた岸が、突然みんなに穏やかな口調で問い掛けた。
岸「・・・そう、これはお前たちが臨んだ試合だ。この大会の参加を選んだんだろう?」
部員「・・・・・。」
岸「・・・さて、どうする?・・・後半もこのまま捨てて、このまま引退するか?」
そう言われて長野と篠崎が答えた。
長野「それは嫌です!・・・嫌ですけど、・・・どうしたら・・・?」
篠崎「・・・強すぎる。・・・まさか、こんなにも・・・。」
すると岸がこう切り返した。
岸「強すぎる?・・・強すぎるって何だ?それは向こうが年上だからか?それとも技術的にか?
・・・お前たちの中で強い弱いの考え方は、肉体的な事なのか?」
これを聞いて部員全員の表情が、一瞬ポカンとなった。まさしく意味不明で、何を言ってるのかわからなかった。
三國「・・・あの、・・・何ですか?・・・一体・・・?」
ここから岸が淡々と、自身の考えを述べ出した。
岸「確かに勝ち負けはあるし大事な事だと思う。でも俺としてはそこで学び、見い出す事も
大事だと思ってる。前半は4対0で負けてる。じゃあ後半、後半はどうする?このまま
負けて引退が嫌なら、何か少しでも向こうを上回る、これだけは負けない、これだけは
あいつらよりも勝ってるやるっていう、何かをみんな一人一人が思って考えて、そして
後半に臨むのはどうだ?」
この時三國の脳裏に何かがよぎった。畑も何かに気が付いた。
岸「相手は年上じゃなく、ましてや余裕をかまして年下を出してくるかも知れない。となると
どうだ?年下なのにすんなり負けるのか?言い訳もできないぞ。だったら、この三年間
やって来た事が本当に無駄になってしまうな。それこそ嫌だろう?」
次第に岸の言ってる事が、意味が少しずつ部員たちに伝わり出した。
岸「・・・これから先、お前たちが社会に出て社会人として働く時に、こうした勝ち負けの
考え方をしたら、いつかは心が荒んでいくだろう。それではダメだ。そうならないように
俺としてはこの試合、広い意味で戦いに臨んで欲しんだ。・・・わかるか?」
長野・和山・富田「・・・?」
まだ一部では理解できてない部員もいた。
岸「・・・まぁ良いだろう。ただ、他の部員も入れての、約一か月の急造チームだ。それで
こうなってしまうのは、俺としては悪いが何となく、始めからわかってはいた。」
この言葉に長野がすぐ反応して、岸に強い目線で声を荒げた。
長野「何言ってんすか!?初めから負けるって?それじゃあダメでしょ!?それじゃあ・・・!」
と言いかけてるところで、岸も感情込めて、長野だけじゃなくみんなに言い放った。
岸「じゃあ何故!一年二年を外して、三年だけのチームにしたのかわかるか!?その意味が
何なのかわからないか!?」
この岸の発言に重たい雰囲気が一瞬に消えて、凍り付いた緊張感に包まれた。
岸「・・・今はまだわからなくても、いつかそのうちわかる。その時が来ると思ってる。
・・・もう一度言う、ここからは取った取られたの勝ち負けじゃない。後半はその意味を
考えて、そして自分たちの力を、今までやって来た事を最後まで出し切って、
この試合の幕を閉じてくれ。・・・以上だ!時間だぞ!行けっ!!」
残念ながら控室内の雰囲気は、かなり重たいまま時間を迎えてしまった。出場する選手たちは、何の策も見い出せないままグランドへと向かった。しかしその中の二人だけが、何かを模索していた。
三國「・・・勝ち負けじゃない?」
畑「・・・その意味を考える?」