その29
三國たちも練習をし始めた。約二十分ほど、軽めの準備運動として身体をほぐした。そしていよいよ試合が始まる。ピッチの横にある志田原中チームの陣営で、三國たちは集まって円陣を組んで、試合開始前最後のミーティングを行った。
三國「・・・よし!!いよいよだ!いよいよ俺たちの最後の試合が始まる!気持ちはいいか!!
気合い入ってるか!!全て出し尽くすぞ!!いいな!!?」
三年生たち「おうっ!!!!」
この後再び三國たち選手十一人は、グラウンドに入って行った。ちなみに富田はやはり、ベンチスタートになった。
富田「おいっ!後悔なくやって来いよーっ!いつでも俺は大丈夫だからなーっ!全力だぞっ!!」
と富田はみんなに檄を送った。そう言われて何人かの選手たちは、富田に向かって言い返した。
池田「うるせーっ!言われなくてもわかってるっ!!」
篠崎「『頑張れ』だけ言えばいいんだっ!」
吉田「知ってるから黙って見てろっ!」
その様子を見て他の選手たちは、軽く微笑んで見せた。この緊張感に丁度良いやり取りだった。あと数分で試合が始まる。三國と畑がセンターサークルに入った。
三國「・・・さぁ、・・・いよいよだな?」
畑「・・・ああ。・・・まさかの展開で、試合ができるなんて・・・。」
試合をする選手たち全員は、当然マスク無しで試合を行う。審判たちは主審以外はマスクを着用していた。そんな中主審が時計を見て確認した後、笛を高らかに吹いた。試合が始まった。志田原中からのボールでスタートした。
志田原中は軽快にボールを回して、相手の喜多ヶ丘中の陣地に攻め入った。ところが相手が強豪校ならではの、鉄壁な布陣でボールは奪われて、なおかつ的確なパス回しと攻めによって、開始からわずか八分程度で志田原中は一点を取られてしまった。それを見ていた志田原中ベンチ、特に富田は当然大声で、ピッチにいる選手たちに檄を飛ばした。
富田「おいっ!!!何やってんだよ!!!しっかりやれって!!!」
これにもちろん選手たちの何人かは、大声で言い返した。
池田「やかましいっ!!これからだ!!」
吉田「まだ始まったばっかだ!!黙って見てろ!!」
このやり取りを見て、三國と畑が冷静に対応した。
畑「・・・あいつに構うな。次だ次。」
三國「そうそう。いつもの通り、気持ちを抑えて、もう一度立て直そう。」
再び志田原中からのボール。今度は三國と篠崎から始まって、畑がゲームを組み立ていた。キタ中のエリアにボールを持ち込んで、志田原中の既存の選手たちはみな、三年間練習してきた技術とチームワークで、何とかキタ中の隙を突こうと試みた。だがしかしと言うかやはり、一か月ちょっと前に入部した、新規の選手たちのミスと未熟さが露呈して、そこをキタ中の選手たちが見逃さずにボールを奪い取って、それからの速攻で志田原中はまたしても、一点を取られてしまった。
富田「・・・あかん。あかんわ、これじゃあ・・・。」
このキタ中の鮮やかで見事な攻撃を見て、富田は思わず関西弁でポツリと呟いた。
港「・・・すまん、俺のミスで・・・。」
と落ち込んだディフェンダーの港に対して、和山が気遣った。
和山「お前だけのせいじゃない。仕方がない。気にするな。」
そして畑も港をフォローした。
畑「まだまだ、まだまだこれから!モチベー上げて行こうぜ!」
三度志田原中からのボール。次は畑と池田の二人で始まった。それから三國にボールが渡って、何とか攻撃のタイミングを探り出していた。
富田「くっ!・・・頼むぞ、とにかく、ミスるなよ・・・。」
一瞬張り上げそうになった声を押し殺して、富田は祈るように呟きながら応援した。