その26
それから後日、新しく部員が来てからの事。この日も授業が終わって、放課後からサッカー部は練習を始めていた。
畑「高藤も矢西もよく来てくれたよ。百八十以上の長身が、うちでは二年で一人しかいないからな。」
練習の合間に畑は、高藤と矢西にそう声をかけた。二人はちょっと照れていた。
篠崎「そもそも矢西は実は、俺のスカウト候補に上がってた奴だからな。」
と篠崎が自慢げに語って、その輪の中に入って来た。
矢西「・・・別に、それほどのものでもないぜ。そんなにハードルを上げるなよ。」
と矢西がこれまた恥ずかしそうに、自身の評価を否定した。
畑「・・・まぁ良い動きはしているよ。でもな、正直言ってその背丈があるなら、こっちとしては
キーパーの可能性も外せないんだよ。ガタイも良いし、どうかな?」
と畑が素直な目線で、自分たちのチームの事を思った上で、その案を述べたところ、意外にも高藤がそれに反応した。
高藤「だったら俺がやろうか?バレー部だし、シュートの速さはスパイクくらいだったから、
グランドでプレーするより、そっちの方が向いてる気がするんだ。」
高藤は堂々とそう言い切った。畑も全く否定せずに、高藤に伝えた。
畑「うん、良いと思うよ。そしたらじゃあ、試しにやってみようか。先生に伝えるから。」
そして畑は次の行動で、岸の所に行ってその事を伝えた。そんな畑の言動を見てた富田は、三國を見ながら言葉を漏らした。
富田「・・・何か、畑の方が随分、キャプテンな感じだな。」
もちろん三國はそれが聞こえて、富田にこう返答した。
三國「・・・あいつは戦術家で策士なんだ。だから逆に俺は、いわば仲裁・帳尻・フォローする
立ち位置なんだ。」
と険しい表情をして伝えると、すかさず富田はこう言った。
富田「・・・でもあいつ、ディフェンダーなんだよな?それってミッドフィルダーの役割じゃ
ないのか?それにお前の役割って、マネージャーだぞ、間違いなく。」
三國「・・・・・・そんな事いいから、しっかり練習しろ!」
と言って三國は、この話題を強引に閉めた。でも富田の表情は当然納得してなかった。
岸のGОサインが出たようで、畑はまず高藤に、ゴールの方へと行くよう指示した。高藤は素直に指示に従った。この後畑は突然長野を呼んだ。この時は長野は何で呼ばれたのか、を全く理解していなかった。そして畑と長野が言葉を少々交わした後、ゴールの前で立っていた高藤に向かって、畑が大声で伝えた。
畑「じゃあPKの感じでやるから!!うちのストライカーはこの、リュウだからな!!」
畑は長野の事を“リュウ”と呼んでいる。そんなリュウもこの状況を快く受け入れた。
長野「じゃあいっちょう!!・・・マジで蹴るからな!!」
そして長野はボールをPKの位置にセットした後、そこから後ろに何歩か下がったところで、立ち止まって軽く呼吸を整えていた。