その22
岸「このサッカー部と違って、全く試合すらできずに終わる、部に属した三年生たちがいる。
つい二・三か月前まではお前たちもそうだったろ?でも今はこうして、お前たちの願いに応えて、
市内だけだが大会が行われる。それでも願い叶わずにこのまま引退してしまう、
そんな三年生たちに校長が、せめてもの救いとして、これを提案した訳だ。
それを全く意味がわからないって、全否定する事はできないだろ?
どうだ、それでもわからないか、お前たちは?」
岸は三國たち三年生に熱く説いた。しかしふと長野が素直な気持ちを吐いた。
長野「・・・だから、他の部の人間を入れて、そして試合に出ろって事ですか?」
岸「そうだ。部は違っていても、最後までやり切った、その充実感を味わって欲しくてな。」
それでも三年生たちはこの提案に戸惑っていた。
吉田「・・・それで三年間が、満足した事になるんですか?」
篠崎「・・・気持ちはわかりますけど、・・・何か、こう、・・・。」
岸も確かに始め、これを校長から聞いた時、ちょっと見当違いじゃないかって思った。
岸「・・・確かに俺も最初は戸惑ったよ。でも、特別に行われる大会なんだから、俺としては
そんな拘る事はないと思ってるし、市内だけなら十校ちょっとくらいの参加だろうから、
もうお祭り的な、そんな意味合いだと、正直思っている。」
三國「・・・先生としては、OKですか?」
三國の質問に岸は堂々と答えた。
岸「ああ、俺は構わない。ただ、決定権はお前たち三年生にある。
お前たちが嫌なら無理強いはしない。その意見を尊重して、しっかりと校長に伝える。
お前たち次第だ、どうする?」
そう聞かれて当然、三年生たちは黙り込んだ。すぐに決定できる内容ではないからだ。
岸「・・・そうなるだろうな。・・・暫く向こうで話し合ってくれ。」
岸はそう言って、三年生たちをグランドの端に移動させた。次に岸は、残った二年一年たちに向けてこう告げた。
岸「もし仮に、三年生だけのチームになってしまった時、お前たちには悪いが、
今回だけは我慢してくれ。先輩たちはみんな、本当にもどかしい気持ちでいるんだ。
これから先はきっと、事態は好転すると思うから、だからこの大会だけは是非、
先輩たちに譲って欲しい、頼むな。」
岸はそう言って深く頭を下げた。その行動を見て二年一年たちは、それぞれ静かに頷き納得した。するとグランドの端にいた三年生たちが、再び岸の前にやって来た。
三國「決まりました。一人ずつ発表します。まず自分ですが、大丈夫です。提案に賛成します。」
と三國が最初に自分の意見を述べ、そしてこの提案を呑んだ。それから横に、並んだ順番で三年生たちが、次々発言していった。
和山「自分も全然構いません。何もないできない事を思うと、是非協力したいです!」
池田「俺も同じです。これで向こうが良いんであれば、やります。」
篠崎「特にないです。OKです。」
吉田「俺も良いです、問題ないです!」
長野「やっぱり、何もしないで卒業だとやりきれないと思うので、サッカーで気持ちが晴れるなら、
新戦力として受け入れます!」
畑「自分も同じなので、全員一致となりました。」
三年生一人一人の言葉を聞いて、岸は感謝の笑顔で礼を言った。
岸「・・・みんな、ありがとうな。急に無理な要求をして。本当にありがとう!」
そして岸は再び頭を深く下げた。それを見てサッカー部員全員が、笑顔で反応した。こうしてこの場の雰囲気が、とても清々しく、凄く明るくなった。