その21
あれから数日が経った。マスクの着用は、練習中は外しても良い事になった。しかしそれ以外、授業中でも着用は義務付けられていた。
校長「・・・そうですか。・・・確かに、それは、・・・困ったな。」
教頭「・・・ええ、まぁ、・・・決まった事なんですけどね・・・。」
校長と教頭、二人の年配の男同士が校長室で、とある問題について悩んでいた。
刀根市内だけで大会が行われる、それはサッカー部だけではなかった。他の運動系クラブでも同じ、この条件に当てはまれば、開催が許されたのであった。その条件とは、野外で行われる事、人との距離が程よくあり、広さや範囲がある事であった。なので野球部とかテニス部とか、陸上競技とかも市内だけの大会として、行われる事になったのである。するとその条件にそぐわない、大会が行われない運動部の三年生たち、その一部が保護者・親・PTAを通じて、学校に不満を募らせていた。
校長「・・・目をつぶってやり過ごす事は・・・?」
教頭「昔だったらアレですけど、・・・今の時代ではちょっと・・・。」
昔と違ってちょっとした事でも、SNS等でその情報が漏洩し、周囲の反感によって評価が下がる時代になっている。一つ対応を間違えれば、その後において大きく変化する事もある。
校長「・・・じゃあ、こういうのはどうだろう?」
校長は教頭にとある提案を伝えた。それを聞いて教頭は、当然眉をひそめた。
教頭「・・・それはちょっと、無理があるんじゃないですか?」
校長「でもただ、何にもなしじゃあ、やり過ごす事になるだろう?」
そう言われて教頭は仕方なく納得した。
教頭「・・・わかりました。一応、話だけはしてみましょう。」
そして教頭は大会が行われる各クラブの、その顧問の先生たちを呼んで、校長が提案した内容を、ひとまず伝えてみた。もちろん岸もその時いて、その話を聞かされたのであった。
吉田「・・・なぁ、受験勉強やってる?」
池田「いいや、全然やってないよ。」
吉田「でもまぁ、いいよな。お前成績が良いからな。」
篠崎「心配するな、俺もやってないから。」
和山「お前はヤバいよ、マジで。」
篠崎「何だと?」
畑「でも推薦が使えるなら、案外大丈夫じゃないか?」
長野「サッカーとかで?」
畑「そんな才能があったら、すでにプロ契約してるよ。」
篠崎「あははは、確かにな。」
和山「推薦って成績の事だろ?」
畑「ああ。その・・・。」
こんなやり取りを部室でしていた時、三國が遅れてやって来た。この時も表情が曇っていた。
長野「どうした、また?・・・例のアレか?」
篠崎「ん?例の・・・?」
三國「そうじゃない!また厄介な事になった。先生から話があるから、急いでグランドだ!」
三國はそう告げると急いで着替え始めた。これを見て三年生たちは当然不安がよぎった。
グランドに集まったサッカー部員全員は、岸の登場を待った。そして岸が現れサッカー部の全員の前で、あの校長からの提案を発表した。
三年生たち「ええっ!!?三年生だけのっ!!!?」
三年生のみならず、もちろん二年一年も大きくどよめいた。
岸「そうだ。三年生だけのチームとして、大会に出ようと思っている!」
そう力強く岸は言い放った。校長が提案したのは、大会はないけど何かしら、何かを残したいクラブの三年生の部員を対象に、大会のあるクラブの入部を許して、その大会に参加させるといった事であった。