その20
その翌日。この日の放課後からサッカー部は、三年生を交えて練習が行われる。その前の終わりのHRの時点で、畑と長野はソワソワしていた。
担任「はい、これで今日の授業は終わりです!」
この後この日の日直が号令をかけて、終礼を告げた。次の瞬間長野と畑は、早々に教室から飛び出して行った。
男子生徒E「・・・何であんなに急いでんだ?」
男子生徒F「知らねぇのか?サッカー部は試合があるんだとよ。」
男子生徒E「あ、そうなの?」
女子生徒M「何か十月くらいにあるそうよ。」
女子生徒B「何もなく引退だったから、すごく嬉しいのよ、きっと。」
男子生徒E「へぇ~、こんな時によくやるよなぁ。」
長野と畑の教室は四階にあった。廊下を走る事は厳禁だが、二人は早歩きで階段に向かった。周りの生徒たちはすでにHRを終えて、ほとんどが帰宅する状況だった。
長野が階段を先に降りて三階に着き、この階段の右手側にある、廊下の様子をふと見た。するとその近くで三國が立っていた。この時も三國の表情は浮かない感じであった。それを見て長野は思わず立ち止った。
畑「ん?どうした?」
長野の後にいた畑が、長野の立ち止りを不思議に思った。
長野「あ、あれ・・・。」
長野は首で促した。それを見て畑も長野と同じ方向を見た。
畑「・・・あれ?ミクじゃん。」
この時二人が見た光景は、三國が浮かない表情だった事ともう一人、同級生らしき女子生徒が、周りの喧騒の中、話してる光景だった。三國の教室は三階にあった。
美緒「ごめんね。約束したのに行けなくて。でも最後なんだから頑張ってよ!応援してるから!」
三國「うん、ありがとう。こっちも頑張って絶対勝つから。」
美緒「それじゃあ練習行ってらっしゃい。」
美緒は笑顔で三國を励ますと、一人爽やかに去って行った。三國はそれを切なく寂しく見つめた後、振り返って階段がある方向へと身体を向けた。
三國「!!!」
この時三國が見た状況は、長野と畑が階段の所から、自分をニヤけた視線で見ていた様子だった。三國は渋々階段の方へと向かった。うつむきながら、そして顔を赤らめながら。
長野「なるほど、そういう事か・・・。」
畑「あははは、まぁ、仕方ないもんな。無観客だからな。」
と二人はニヤけたまま三國を慰めた。すると三國は少し苛立った感じで言った。
三國「・・・大和田先輩の妹さんだ。二人で来る予定だったんだ。勘違いするな。」
長野「へぇ~、そうだったのか。でもあの子吹奏楽部だったよな。野球部じゃねぇのか?」
畑「そうだな。うちと野球部はほぼ一緒の日程だったけど、わざわざこっちに来るのは・・・?」
長野と畑は揃って三國を問い詰めた。でも三國は否定した。
三國「兄貴がサッカー部なんだから、その付き添いは当然だろ。・・・もう行くぞ!」
そう言って三國は二人を置いて、一人階段を降り出した。
畑「ん?ワヤンはどうした?」
三國「先に行ってる!」
やがて長野も畑も、三國の後に続いた。
長野「・・・何でワヤンもいないんだ?お前一人でって事は、正しくそうだったって事じゃん。」
三國「うるさい!もういいんだ!。」
長野はからかい三國は苛立ち、畑は二人を治めようとした。
畑「・・・もう止せよ。練習に集中しようぜ。」
長野は畑に向けて、こう言い返した。
長野「だって一人だけ青春してるってズルいじゃん。俺だって憧れてんだぜ。」
畑「まぁまぁ、別に彼女じゃないんだろ?」
長野の発言に呆れながらも畑は、三國に問い掛けた。すると三國は無言だったが、駆け足で一階へと着き、校舎を出て行った。
長野「けっ、いい気なもんだ、畜生!」
そう言って長野もスピードを上げて、三國の後を追った。一人遅れた畑は、二人の様子を見て呟いた。
畑「・・・せっかく試合があるんだから、これも青春じゃないのか。」
そして畑も足早に階段を降りた。