その17
富田の声があからさまに聞こえたので、長野は何かを察して答えた。
長野「・・・おごって欲しいのか?」
富田は一旦躊躇った。そして立ち上がりながら答えた。
富田「・・・まぁ、いい。・・・飯なら頼むぞ。」
長野「何だその予約?」
呆れた口調で長野は答えながらも、富田の動線を見越して、長野も立ち上がった。座席が映画館のように連なって設置されてるので、しかも通り道が反対側よりも、長野の方からが近かった。
富田「・・・どこにある?」
長野「出たらあるよ。」
富田は長野を避けて通り道へと出た。そして徐にこの場を出て行った。その様子を見ながら、長野はふと思った。
長野『・・・あいつ、途中からだったな。・・・クラスが一緒だった訳じゃないのに・・・。』
そして長野は、富田との出会いを振り返り出した。
夏休みが終わって二学期が始まり、長野は何かしらけたような、心の一部が剥がれたような虚無感を感じながら、学校に来て授業を受けていた。そんな九月の中旬頃に、同じクラスだった畑から思わぬ知らせを聞かされた。この時長野は座席に座っていて、上半身を机に覆い被さった状態、いわゆる眠りにつくような体勢で、ボゥっとしていた。そこに畑が慌ててやって来た。
畑「おい!試合ができるらしいぞ!」
長野「・・・ああ?・・・どうぜ二年の試合なんだろ?」
もっと肝心な事を言わずに、端的に伝えた畑に対して、長野は冷めた口調で、別の次元の事だと捉えていた。それを聞いて畑はすかさず長野に言い返した。
畑「違うぞ!俺たちができるんだ!来月、十月にな!」
それを聞いて長野はむくっと、上半身を起こした。
長野「・・・何?どういう事?」
長野の質問に畑は、これは三國から聞いたって事を告げた。
畑「だから詳しくは今日の放課後話をするから、部室に来いってさ。」
今まで虚無感を抱えていた長野に、歓喜の表情が出てきた。
長野「・・・わかった!じゃあみんなにも。」
畑「もちろん!もう伝わってるはずだ!」
長野「・・・よしよし、そうかそうか、・・・なんか、ワクワクしてきた。」
畑「俺なんかドキドキが止まらないぜ。」
こうして二人は、昼休みから午後の授業が終わるまでの間、今までで一番長く感じたのであった。