その16
会館の外には他にも何人か、人が集まっていた。三國と同じく二十歳を迎えた者だったり、その保護者たちも、老若男女問わずにまた、新聞等のメディアの関係者のような者まで。だから外は意外にも賑わっていた。三國はふとスマホを取り出して、時刻を確認した。時刻は十二時三十分。式が午前十一時三十分に始まってから、丁度一時間が経過した。
三國「・・・そろそろ、戻るか・・・。」
そして三國は立ち上がり、会館の正面玄関の方へと向かった。
玄関の所へと行った時、式を運営しているスタッフの何人かと、見知らぬ同世代の男性一人が、何か立ち話をしている。その様子を三國は近づきながら見ていた。
スタッフA「・・・だとしても、感染対策としてやってるので・・・。」
男性「・・・そうですか。・・・はぁ~、わかりました。」
そう言って男性は残念な表情をして、渋々納得した。そこへ三國がやって来た。するとやっぽりスタッフに呼び止められた。
スタッフB「あ、すいません。QRコードを・・・。」
マスク等の縛りは無くなったものの、一応コロナの対策として行われていた。式典に参加できるのは刀根市在住で、二十歳を迎えた者のみ。でも例外として市内に住んではいないけど、刀根市に住民票があれば参加ができる。実際三國や長野がその類だ。ただし成人式に参加する事を前もって、その意思を運営側に伝えておかないと、式典に参加する事ができない。だから三國や長野は、富田や両親から話を聞いて、そして参加の意思をメールにて伝えた。その後参加が可能となった訳で、そのチケット代わりとしてQRコードが二人に届いたのであった。
三國「・・・はい。」
三國は淡々とスマホを弄って、QRコードを出しスキャンさせた。機械がOKの反応をした。
スタッフB「ありがとうございます。どうぞ。」
会館から外に出る事には、別にこういった縛りはないが、再入場となった時にこうした手間が必要であった。だから三國の近くで、その男性は切ない表情をしていた。恐らく自分と同じで、市内には住んでないけど住民票が残っていて、でも事前に応募してなかったって事でこうなったのであろう、と。
富田「・・・ん、う~ん、・・・ん?」
長野「おっ?やっと起きたか?」
富田の寝起きの声に長野が軽く反応した。富田は首を傾げて、身体も腰座りの格好で寝ていたので、まずは体勢を整えた。その時に三國の姿が見えなかったので、長野に尋ねた。
富田「・・・ミクは?」
長野「・・・外にいる。もうすぐ来るだろう。」
富田「・・・そうか。」
長野「・・・それにしても、良く寝てたな。始まって早々だ。」
富田「あ?・・・ああ。・・・あんまり寝てなかったからな、昨日。」
長野「・・・どうして?別に、ヒマだったろ?」
富田「お前たちの迎えに、珍しく早起きしたからな。」
長野「十時じゃん。いつも何時に起きるんだ?」
富田「う~ん、大体昼、十二時前後だな。」
長野「はぁ?そりゃ遅すぎだ。そもそも大学、午前の講義とかは?」
富田「・・・今はもう午前の講義はほとんどない。あっても単位は足りてる。」
長野「・・・・・・それなら、・・・そうなのか。」
富田は二人と違って、刀根市内の大学に通っている。だからこの成人式について、二人よりも情報を得ていた。三國は前日に前乗りしていたが、長野はこの日の午前十時にやってきて、直でこの場所に来たのであった。
長野「・・・じゃあ悪かったな。・・・もっと寝ていいぞ。」
富田「いや、もう、・・・。」
と富田が言ったその時、長野はふとペットボトルのコーヒーを飲んでいた。
富田「・・・俺も喉が渇いたな。」