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その14

 月日は流れてこの日は一学期の最後の日、終業式の日であった。全校生徒が式を終えた後に、各部活の三年生たちが、卒業アルバムの写真撮りに臨んでいた。ただ全ての部活が一か所に集まって、順番通りに写真を撮る形ではなく、部活によってその背景や恰好、ロケーションはそれぞれ異なっていた。それでサッカー部はグランドに集まって、全員公式のユニフォームに着替えて、写真部が来るのを待っていた。


三國「・・・おい、オグがいないけどどうした?」


 と三國は同じクラスである大谷に尋ねた。すると大谷も不思議そうな表情をして答えた。


大谷「さぁ?実は一昨日から来てないんだ。・・・俺もよくわからないんだ。」

三國「・・・一応ラインを送ったけど、・・・返信がなくて・・・。」

大谷「・・・そうなんだ。電話にも出ないし・・・。」


 この会話に突然篠崎が入って来た。


篠崎「どうせあいつはそんなもんかもよ。だってコロナの話かあってすぐに辞めたじゃん。

   まぁ何かあっての事だろうけど、区切りをつけたんだ、きっと。」


 そう淡々とした口調で言った篠崎に向かって、三國は熱く返した。


三國「でもよ、こうして仲間としてやってきたんだぜ。その最後の写真撮りに、

   顔を出さないなんておかしいぜ?・・・あ、もしかして・・・?」


 と三國の表情が急に曇った。それを見て大谷もハッとした表情になった。


篠崎「・・・コロナか?もしかして・・・?」


 篠崎も何となく察した。この三人の話に続々と三年生たちが寄って来た。


畑「・・・確かに最近、見かけないよな。」

和山「本当あれから会ってないもんな。」

長野「・・・それでも電話とか、連絡はするだろ?」

池田「けど感染者はホテルで隔離するって、ニュースで聞いたぞ。」

三國「・・・と言う事は、治療のために遮断されるって事か?」


 とその時岸がスーツ姿で、三國たちの元へとやって来た。さすがにいつものジャージ姿じゃなかったので、そんな岸を見て何人かの者たちが、思わず苦笑した。


岸「・・・おい、笑うな!・・・よし!みんな準備ができたな!」


 と岸はみんなを見渡して、そう言葉を発した。


岸「もう少ししたらやって来るから、それぞれ思い思いのポーズで構えろよ!

  俺はもう何も言わんから。ただし、先々この写真を見て、恥ずかしくなるのは自分だからな。

  よぉく考えて、撮影に臨めよ!」


 岸は少し厳しい口調で言ったが、言った後にっこりと笑った。そんな岸を見て三國は尋ねた。


三國「・・・あの~、・・・お、小椋が来てないんですけど・・・?」


 すると岸の表情が一瞬にして曇った。なおかつ岸は無言になった。それを見た三國や他の三年生たちは、先程よりも神妙な顔つきになった。とそこへ写真部の者たちがやって来た。


写真部A「お待たせしました。準備は良いですか?」


三年生は全員で九人、でも小椋がいなくてこの場には八人が揃っていた。この時ばかりはみんなマスクを外して、整列しての集合写真を何枚か撮った後、それぞれ各人が思い思いのポーズで構えての撮影や、表情を真面目な時と笑った時、はしゃいだ時とかそんなバリエーションをして、この場この時をみんな大いに楽しんでいた。


写真部B「・・・じゃあこれが最後になります!行きますよ!」


 最後は岸を含めての写真となった。時間にして三十分くらい。これにて三年生たちの活動が終了となった。写真部がいなくなった後、三年生たちは再びマスクを着けた。そして岸は三年生たちにこう伝えた。


岸「・・・まぁ、・・・こんな形になってしまったけど、・・・本当に申し訳ないな。」


 岸の涙交じりの言葉に、何人かは戸惑い、何人かは涙を流し、つい先程まであった和やかな雰囲気が、一転して悲しく切ないムードになった。


岸「・・・とにかく、よく頑張ったよ。本当に忘れられない思い出に、間違いなくな。もちろん、

  お前たちの事絶対に忘れないから。」


 そう言って岸がこの場を終えようとした時、ふと長野が言い返した。


長野「・・・先生、俺たちまだ卒業じゃないから、・・・泣くのは早いよ。」


 それを聞いて他の三年生たちは、思わず笑い声をあげた。これによってこの湿った雰囲気が、再び朗らかになった。そして岸もその言葉に救われた。


岸「・・・あ、そうだな。まだ、卒業じゃなかったな。ははは、まぁ、もう少し、あともう少し。

  そしてしっかりと勉強して、目指す高校にみんな受かんないとな。」


 岸が涙を拭いて笑顔で語ると、三年生たちも笑顔で返事をした。

 

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