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その13

 この時三國のスマホがバイブした。取り出して確認すると長野からの連絡だった。


長野『遅いな。何かあったか?』


 このラインのメッセージを見て、三國もラインで返した。


三國『南高のヤツらに会った。しばらく一人にさせてくれ。』


 間もなく長野からの返信が届いた。それは文章や言葉ではなく、握り拳に親指だけ突き立てた、いわゆる“グッド”のスタンプだった。それを見て三國はほくそ笑んだ。そして三國は再び、あの頃の続きを回顧した。


 


 全日みんなで話し合った事を経て、当時中学三年生の三國は、翌日の昼休みに顧問である岸の元へと尋ねた。岸はこの時北側の二階の渡り廊下にいた。岸を見つけて三國は近寄り、そしてみんなで話した事を岸に伝えた。


岸「ダメに決まっているだろ!何で中止になったか、わからんのか!」


 三國の話を聞くまで岸は穏やかであった。静かに話を聞いて、聞き終わるや否や岸は、やや感情を込めて三國に告げた。もちろんその口調に三國は怯んだ。また周りにいた生徒たちも、一斉に二人に注目した。それでも三國は反論した。


三國「・・・でも、小規模で、・・・検査して問題なく・・・。」


 と言いかけた三國を遮って、再び岸は強く言い放った。


岸「大小の規模じゃなくて、感染防止が一番なんだぞ!」


 当然岸も三國もマスクをしている。学校全体がマスク着用を義務化している。そんなマスクをつけたままでも、岸の言葉や感情は三國には十分伝わっている。


岸「俺たちだけが出来ないんじゃなくて、他の部活も、中学生だけじゃなく高校生も大学生も、

  全部が全部、大会自体が中止になっているんだ!検査して大丈夫とかまだ感染してないから

  大丈夫とか、そういう事じゃないんだぞ!」


 ここで岸は一息ついて落ち着きを見せた。ちなみに岸は三十四歳の男性教師で、サッカー経験者である。中学高校そして大学でもサッカーをしていた。なので三國たちの思いもわかっていた。


岸「・・・コロナというモノがまだ何もわかっていない状況で、ふとした軽はずみでやって、

  その後何か起こった時にその責任はどうするんだ?誰が責任を取るんだ?・・・わかるだろ?

  下手な事が出来ないからこそ、運営側も大会を中止にしたんだ。」


 これを聞いて三國は静かに涙を零した。いかに自分が浅はかな考えをしていたのか、を理解したからだ。その涙がマスクの上部で止まってしまって、まるで水たまりのようになっていた。そして何も言えない状態になった。それを見て岸はふと下を向いて、諭すように伝えた。


岸「・・・お前たちの気持ちは当然わかる、痛いくらいにな。でもとにかく今回はどうしても

  ダメなんだ。こっちだけの問題じゃなくて、何より感染してからでは遅いんだ。あらゆる

  条件や可能性を見つけても、できないものはできない。これも社会生活、これからの人生で、

  そういう事に多々直面すると思う。これを機にしっかり理解して、行動するんだぞ。」


 そう言って岸はたまたま上着のポケットにあった、ポケットティッシュを三國に渡すと、軽く頭を下げて徐に、三國の前から去って行った。三國は貰ったティッシュで涙を拭った。と同時にもう一つ聞きたい事が三國にはあった。しかし今の状況ではちょっと思い出せなかったし、感情的にも不安定な状態であった。


岸「・・・あ、そうだ!」


 遠く離れた所で岸が、何かを思い出して声を上げた。すると岸はクルリと振り返って、三國の方へと身体ごと向けた。それを見て三國は一瞬キョトンとなった。岸は三國に少しだけ近づいて、淡々と言葉を伝えた。


岸「そうそうついでに伝えるけど、卒業アルバムの写真撮りが夏休み前の、終業式になったから。

  それには全員参加するように。あとは各自が決めて構わないからな。だから例えば、今日から

  もう練習しない、部活に出ないって決めたら、それでもう引退って事で問題ない。とにかく、

  写真撮りには絶対に参加するように。そうみんなに伝えてくれ。」


 そして岸は再び三國の前から去った。実は三國が聞きたかった事は、ズバリ引退日だった。取り合えず夏休み前の、終業式の日がXデーだと理解した。


 この後三國は放課後、三年生みんなを部室に集めて、岸とのやり取りを余す事無く伝えた。練習前だったので、それを聞いて練習せずに帰宅する者たちもいたが、それでも練習をする者たちも含めて

全員が、やはり納得できない表情をしていた。しかしこのご時世、本当に仕方がない事だと諦めるしかなかったのである。

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