その12
三國が来たのは会館の敷地内にある、市民公園という名の広場であった。学校の運動場として、使用されてもおかしくない程の広さがあって、そもそも長野や富田と共に最初に入った場所である。後に志田原中学校のサッカー部のみんなと集まった場所でもある。
三國「・・・・・・。」
つい勢いでやって来たので、三國はまず辺りを見渡した。逆にすぐ様館内に戻っても・・・、ちょっと中に戻る事は三國の気持ち的にはできなかった。なので三國は何となく辺りをうろつき始めた。やがて公園内にある、一つのベンチへと三國は向かった。そのベンチが三國的には居心地の丁度良い、くつろげる雰囲気や場所だと感じたので、行って着いて横柄に座った。ちなみにそのベンチの大きさは、大人的には二人掛けのサイズだが、それを三國は独り占めするかのように、ドカッとベンチの真ん中に座り、一息ついた。そして持っていたペットボトル、中身はミネラルウォーターのキャップを開けて、ひとまず軽く飲んだ。
三國「・・・ふう。・・・まさか、よりによって、・・・だな。」
そう呟いてしまう程、三國にとっては思いがけない出来事だった。
確かに彼らも同い年で二十歳。同郷だから、もしかしたらいるかもって、そう思ってはいたけど、もしいたとしても、どちらかお互い視界の片隅に映り込んで、人や景色に混じって『もしかしてあれはそうかな?』とか『そう言えばそうかな?』と、そのくらいだろうと予測だけはしていた。ところがあんな風に面と向かって、そしてバッチリ会話するとは、三國は正直思ってもみなかった。その驚きと戸惑いの余韻が、今こうしてリセットされつつあった。
三國「・・・過去は、消えない、か・・・。」
あれは三國が高校二年生の時だった。三年生が引退して、二年生が主として行われた『新人戦』。その公式戦を控えた二週間くらい前の事。この頃はコロナも落ち着きを見せていて、以前のような環境で大会が行われるようになっていた。
顧問「・・・じゃあ今から大会に臨むべく、実力を出すための紅白戦をやるからな!
全員を2チームに分けて、そして試合した結果を反映して、レギュラーを決めるつもりだ!
だから全力でやれよ!」
そして試合が始まった。三國はこの時自分の実力としては、スターティングじゃなくベンチスタートの準レギュラーのレベルと思っていた。やはり高校になると、レベルは違っていた。いくら中学の時キャプテンだったにしても、力の差は歴然とあって上には上がいた。その何人かの内の一人が谷沢であった。奇しくも三國と同じポジションでもあった。
三國「・・・くっ、・・・あっ!」
見事なボールさばきと、周りの状況を判断する感覚が、一回りも二回りも上だと三國は実感していた。当然部員のみんなも、この谷沢の能力は認めていた。だからレギュラーとしてまず、谷沢は間違いないと思われていた。
谷沢「おい!!こっちこっち!!」
三國を抜かして谷沢がフリーになっていた。それを見てボールを持っていた高木は、迷わず谷沢にパスをした。その状況は敵陣へ谷沢が、三國のマークを外して走り込んでいた。高木は走っている谷沢の前へと、ボールを蹴り出した。しかしボールの勢いがそこまでなく、谷沢の走るスピードに届かなかった。なのでボールは谷沢の後ろを走っていた三國の、そのスピードに会う具合になった。
高木「あっ!マズい!」
と叫んだ高木の声と同じタイミングで、谷沢がそのボールを追って身体を反転させた。すると後ろから走って来た三國と激突してしまう。三國もこのスピードを急には止める事は出来なかった。谷沢も谷沢で、この時ボールしか見えてなかったようで、ふと見上げたらそこに、急に三國が現れた形であった。案の定三國と谷沢は激突して、お互い吹っ飛んだ。
部員「・・・お、おい!大丈夫か!?」「・・・やべぇ!やべぇぞ!」「マジか!意識は!」
当然試合は中断されて、みんなが二人の元にやって来た。見ていた顧問もマネージャーも、グランドにやって来た。
顧問「・・・大丈夫か!?しっかりしろ!」
幸い二人とも意識はあった。三國は吹っ飛びはしたが大した怪我はなかった。でも谷沢は右足のスネから血が流れていた。
顧問「・・・止血だ!マネージャー!」
マネージャー「・・・は、はい!」
どうやら三國の履いていたシューズによって、それが谷沢の足に当たって出血したようだ。骨にまで影響はなかったが、深い傷だったので十針程縫う事になってしまった。よって谷沢はその大会に出る事ができなかったのだ。ちなみに三國はベンチスタートで、出場は後半の十分程度だった。