その11
そして長野は持っていたペットボトルの中にある、コーヒーを一口飲んだ。それを見て三國は思わず立ち上がった。
長野「どうした?」
三國「・・・いや、俺も喉が渇いたから。・・・何か買ってくる。」
そう言って三國は再び席を離れて、会場から出て行った。
会場の外に出て一階のロビーに、飲料水の自販機がある。それを三國は知っていたので、迷う事無くその自販機の所へと行った。そして三國は自販機の前に立って、まずは小銭を入れた。しかしここで何を飲もうか、三國はしばし考えていた。すると後ろから小さい声で、こう聞こえてきた。
男「・・・何でも良いじゃん。」
その声を聞いて三國はふと振り返った。そこには同じ新成人らしき男たち、二人がいた。
谷沢「あ、やっぱりそうだろ?」
高木「ああ本当だ。三國だろ?」
そう言われて三國は一瞬固まった。
谷沢「覚えてねぇのか?・・・ま、いいけどな。」
そして三國は思い出した。この二人は南高の時の、サッカー部の仲間であった。
三國「・・・や、谷沢?・・・と、高、木?」
懐かしむよりも驚く三國に対して、谷沢が一言伝えた。
谷沢「・・・それより早く、どれにするか決めてくれよ。待ってんだから。」
すると三國は慌てて自販機の方を向き、思わずミネラルウォーターの、ペットボトルのボタンを押してしまった。間もなく自販機から当然、ミネラルウォーターのペットボトルが出てきた。そして釣り銭も出てきた。それらを三國は取り出して、谷沢と高木に場所を譲った。それを見て谷沢がポツリと、おい、吐き捨てる感じで三國に告げた。
谷沢「・・・水だったらその辺のを飲めよ、タダなんだからよ。」
それを聞いて三國はイラっとして、谷沢を強く睨んだ。そして何かを言おうとした時、そのタイミングで高木が言葉を発した。
高木「・・・なぁ、キツい事言うなよ。めでたい日だぜ。」
それを聞いて谷沢は高木にもキツく、そして声を張って言った。
谷沢「俺はこいつにヤレたんだよ、足を!新人戦の練習で!・・・結果出れなかったんだ。」
次に谷沢は三國を再び見て、睨みながら発した。
谷沢「・・・今でも残ってる、見せてやろうか、その傷!・・・見たくなくても目に入る。
その度にお前の顔を思い出す。・・・ったく、やり返したくてもできずに、お前は
さっさと辞めたもんな。辞めるくらいなら、・・・入部なんかすんなよ。」
そう言って谷沢は自販機の方を向いて、購入しようとしていた。
三國「・・・・・・。」
さっき言われた事について、あの時はさすがに何か言おうと思っていたが、その意味を察して三國は意気消沈した。そんな三國に高木が小声で一言伝えた。
高木「・・・まぁ、わざとじゃなかったって事だけは、あの時のみんなわかってるからよ。」
それを聞いて三國は、背中越しだが谷沢に謝罪した。
三國「・・・本当、あの時はすまなかった。本当に申し訳ないって思ってる。」
すると自販機から飲み物を取り出した谷沢は、振り返って三國に言った。
谷沢「・・・何回謝っても過去は消えないからな。次やったら傷害罪だ。」
三國「・・・ああ、わかってる。本当に悪かった。・・・じゃあ・・・。」
そう言って三國は二人の前から姿を消した。振り返って、後ろを絶対に見ないように。
そして三國はそのままの勢いで、市民会館から出て来てしまった。