その10
長野「・・・おい、どうした?」
その声に反応して、三國は上を見上げた。二十歳になった長野が、突っ立って見下ろしていた。
三國「・・・あ、ああ。」
この時に三國は今現在に返った。そして三國は立ち上がって、長野を通した。
長野「・・・何だよ?またあの女の事でも?」
席に座った時にそう発した長野に、三國は素っ気なく返答した。
三國「・・・違う。・・・いやに遅かったな?」
長野「・・・まぁな。・・・高校の時の連れに、会ってたんだ。」
と長野も平然と返した。
三國「・・・そうか。・・・懐かしかったか?」
長野「・・・いや、そうでもない。そんなに思う程の、仲でもなかったからな。」
三國「・・・なのに?」
長野「・・・まぁ、喫煙所があそこ、一つしかないしな。」
三國「・・・そうか、わかった。」
しばらく間が空いた。この時式典は、同じく二十歳を迎えた者たちが、何かの発表をしていた。
長野「・・・南高の奴もいたぜ。」
三國はそれが質問なのか、単なる出来事の知らせなのか、少し苦慮した。
長野「・・・お前、南だったろ?・・・会わなかったか?」
質問だったと察して、三國はこう答えた。
三國「・・・別に。・・・そんなどうしても会いたいって、なるか?」
それを聞いて長野は、軽く笑って言った。
長野「ふっ、だろうな。・・・良い思い出じゃなかったからな。」
三國「・・・そこまで否定はしねぇよ。・・・ただ、普通に生きてく事はできた。」
その答えに長野は静かに頷いた。そしてまた、しばしの間が空いた。
中学を卒業して三國は、チームメイトと別れて、学力的にはちょっと上の高校へと進んだ。そしてそこでもサッカー部に入部した。あの中学生活の、部活生活の気持ちを胸にして。
しかしそこでは結果として言うと、あんまり充実した部活生活を送る事が出来なかった。今の中学生の時のような、明るく楽しく、情熱が少なからずあった時と比べて。
三國「・・・お前はどうだったよ?今思って。」
長野「・・・俺も、・・・同じかな。」
長野も長野で仲間と別れて、サッカーでのランクが高い高校へと進んだ。でもやっぱりそこは長野にとって、そんなに居心地の良いところではなかった。
三國「・・・さっき、昔の事。中学の時の頃を思い出していたんだ。」
と三國はさり気なく伝えた。顔は舞台を見たままで。
長野「・・・だろうな。俺も時々思い出すよ。あの頃が楽しかったなって。」
三國も長野も高校でサッカー部に入部はしたが、それぞれ対人、仲間との関係、軋轢、葛藤、また自身のレベル、成長具合、支障やその他今後、この後の進路将来とか、いろんな事があって思って、三年間続ける事が出来ずに、中途退部したのであった。
三國「・・・何か、俺たちもうジジィだな。」
と三國が笑って言うと長野も笑いながら答えた。
長野「二十歳なのに、もうジジィか。全く、これからなのによ。」
ちなみに富田はまだ寝ていた。