その1
『二〇二六年度 刀根市 式典 ~二十歳の集い~ 』
長野「・・・結構、来てんだな。」
三國「一生に一度だもんな。」
長野「・・・それでも、来ない奴もいるんだぜ。」
三國「・・・まぁ、どうなんだろうな?」
二〇二七年一月十日、三國智也と長野隆治はスーツ姿で、刀根市の成人式会場である、刀根市市民会館に来ていた。そういう事で二人とも、去年二十歳を迎えて式に臨もうとしていた。
長野「・・・トミの奴はいつまで掛かってんだ?」
三國「しょうがないだろ、どこも満車で探し回って・・・。」
すると長野が何かを見つけた。
長野「ん?・・・あ、あそこに、・・・あれか?」
それに三國が応じて長野が指し示す方向へと顔を向けると、男性らしきスーツ姿の人物が、頭に馬の被り物のような帽子のような、そんなものを付けて二人の方に近づいて来た。
三國「・・・だな。」
二人の所へと着くと富田はこう言った。
富田「よう待たせたな。ちょっと遠くなってしまってな。」
それよりもまず長野が疑問を呈した。
長野「そんな事より何だよ、それ?」
三國も大きく頷いた。富田は頭からそれを取り外すと、ニヤッと笑いながら答えた。
富田「ああ、これは馬だ。だって今年馬年だろ?」
長野「いや、それだったら戌だろ。戌年じゃん、俺たち。」
富田「いや、俺は早生まれだから猪だ。」
長野「そう?じゃあ二十歳じゃないよな。」
富田「いや、この間なった、六日に。」
長野と三國はちょっと頭がこんがらがっていた。
三國「ああもうややこしいな。つまりはそんなつまんない事を、何でしてるんだって事だよ!」
富田「・・・何でって、せっかくの記念なんだから、ちょっとしたおふざけもアリだろ?」
と富田は冷静に淡々と答えた。それでも二人に納得の表情はなかった。
富田「・・・何を怒っているんだ?」
すると長野が別の方向を指差しながら、こう伝えた。
長野「ったく中途半端な・・・、やるんだったらあそこまでやり切って来いよ!」
その差した方向に富田も、そして三國も視線をやった。約100メートル程離れた所で、そこでは全身馬姿の、馬の着ぐるみを着た人間が、その仲間と共にはしゃいでいた。
富田「・・・さすがに、あそこまではできないな。」
と富田は力なく答えた。三國もあれを見て、呆れて言葉を漏らした。
三國「・・・やっぱりいるんだな、今年も。」
そして長野は話を現実に戻した。
長野「・・・それより他は?」
そう言われて三國は辺りを見渡した。それに釣られて富田も周りを見た。
三國「う~ん、見えないな。でも、集合場所はここじゃなくて向こうだ。」
長野「そうか、じゃあ行こう。」
この後三人はその集合場所へと向かった。ちなみに富田は馬の被り物をそそくさと、自身の持っているカバンの中へとしまい込んだ。