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不幸な少女の部屋



薄暗くて、かび臭くて、目の前には太くて頑丈な鉄格子が置かれている。周囲は石の壁で、扉には大きな南京錠で鍵がかかっており、中から外に出ることは出来ない。無論、窓なんてないので、外の景色を見ることは出来ず、光と言えば二つの蝋燭の灯りだけ。



「リリィお嬢様。お食事のお時間です」


「遅い! 一分の遅刻よ! 本当に使えないメイドね。どうやって今まで生きてきたの? 信じられないわ」


リリィはバンッと机を思いきり叩く。すると華奢なメイドの方が大きく震えた。机をたたいた衝撃で、くるん、とカールされた月光のように美しい髪の毛もふわりと揺れる。


「も、申し訳ありません……!」



メイドが運んできた食べ物は、硬い硬いパン。鉄格子の下にある、お皿を受け渡しできる小さな隙間に、メイドは持ってきたそれを置くと、織の中にいるリリィには目もくれずに、足早にその場を去っていった。


リリィは、メイドの足音が聞こえなくなったのを確認して、ゆっくりと立ち上がり、置かれたパンを手に取る。


昨日よりは少し、柔らかい。


そう思ってお皿を持って、部屋の中に置かれている、小さな木製の机と椅子に腰かけて、リリィは手を合わせて「いただきます」と言ってから、パンをちぎりながら口にする。



「はあ」



一口飲み込んで、リリィはため息をついた。



「毎日毎日、メイドたちに怖い思いをさせながら食事を持ってきてもらうのも、申し訳ないわ……。それに怖がらせてしまうし。いったいどうしたら……」



リリィは項垂れた。そんな彼女に寄り添うのは静寂と微かな灯りだけだ。



パンを頬張りながら周囲を見渡す。鉄格子の中にあるのは、硬く冷たいベッドと、今座っている椅子とテーブル。隣の部屋はトイレとお風呂が付いている。蝋燭一つで周囲は石壁のため、今いる場所よりもさらに不気味だ。



環境はかなり悪い。リリィも最初にこの地下に来た時は思わず顔をしかめるぐらいに、匂いも充満している。


パンを食べ終えたリリィはお皿を先ほど置かれた場所において、硬いベッドの上に寝そべった。自分の部屋に置いてあったベッドとは違う感触に、最初は慣れなくて寝れなかったのを今でも覚えている。


ここは言わば、牢獄だ。


悪人が入る場所に、公爵家令嬢は住んでいる。それはリリィが性格の悪い令嬢だからだった。メイドたちに悪質な嫌がらせに、親への虚言、学校での悪行が問題となり、リリィは牢獄で反省をしろと言われて、ここに入れられた。——もちろん、それらの行動は見せかけで、リリィは普段から素行が悪いわけではない。ここに入るために、わざとやったのだ。


メイドたちが自分の部屋を掃除しようものなら、虫を部屋いっぱいに散りばめる。


姉のシャンディが両親の悪口を言っている。


学校では両親の悪口を言う。


そんなことをすれば、周囲の人間から嫌われていくのは、リリィも分かっていた。だからわざと、悪役を演じているのだ。


理由はひとつ。


自分が、不幸体質を持っていたから。



リリィは自分の近くにいる人に災いをもたらす存在だった。リリィがキッチンへ行けば食器棚が倒れたり火事が起きたり、家族で庭を歩いていればどこからともなく植木鉢が落ちてきたり、一番は、リリィが産まれると同時に、実の母親が死んだことだった。


この世界には魔法がある。だからリリィの父親は何度も腕のいい医者に、治癒魔法をかけるように頼んだし、呪い屋に呪いがかけられていないか確認をしてもらった。もちろんリリィに呪いなんてかかっていないし、治癒魔法でリリィの不幸体質が治ることもなかった。


それどころか、リリィに関わった医者や呪い屋が、逆に1か月の間風邪を引いたり、骨折をしたり、不幸が訪れてしまい、二度と来るなと言われる始末。父親もさじを投げた。


「お前のせいで……! お前のせいで、母親は死んだんだ! お前なんかいなければ……!」


自分が生まれたことで、母親は死んでしまった。そのことを父親はリリィをひどく責めていた。リリィは何度も謝る。


「ごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」



自分に近づくと、悲劇が起きてしまう。誰かを傷つけてしまう。



そう思ったリリィは、自分に誰も近づかせないために、わざと嫌われることをしていたのだ。


リリィが父親や姉にいじめられているのをみて、心配して声をかけてくれる優しいメイドもいた。だけどことごとく、彼らにも不幸が降りかかってしまった。



みんなが自分を嫌いになれば、誰もリリィには近づかない。だからリリィは12歳のころから悪役令嬢を演じ、4年目を迎えようとしていた。



いつか城から出て、森のはずれなんかに家を建てて一人で暮らすことが夢だ。


そこにはふわふわのベッドを置いて、枕元にはたくさんのぬいぐるみを置く。窓辺にはレースのカーテンをつけて、近くに花を置いてその香りを楽しむ。



薄暗く、黴臭い部屋で、リリィはいつも妄想していた。



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