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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ラジオの箱

作者: 毒腹




古いラジオデッキを拾った。

六畳一間の木造アパートに持ち帰って、暇潰しに聞いてみることにした。

毎日1人の自宅に帰って繰り返す日々に少し花を添えたかったのかもしれない。

特に趣味もなく、唯一の楽しみは安タバコを吸って缶ビールを飲むくらいだったがラジオを拾ってからはそれらと共にラジオと話をするようになった。

勿論、独り言である。

怒りを煽られることもあれば、憐れみを抱かせるような話しもあった。

自宅にはテレビもなかったため、外の情報を得られるものと言えば、職場で回し読みする新聞かそれくらいだった。

毎日、同じ1日を繰り返していた。

定年して職を失って仕事道具なども処分してからは部屋は相当雑風景になったがラジオだけは自宅の中心にあるテーブルの上に動かされることなく乗っていた。

安タバコを咥えてビールを飲みながらラジオを聞くことが永遠になった。

飽きることはなかった。そんな感情も忘れてしまったのかも知れない。工場勤務と同じだ。朝起きて、散歩に行って、惣菜を買って帰ってラジオの電源を入れる。

そうしていると段々と自分は刑務所の囚人でラジオは囚人を動かす看守のように思えてきた。

何故だろう。毎日毎日、飽きもせず。

段々と馬鹿馬鹿しくなってきて、ラジオを捨てた。

捨てたはずだったが気がつけばラジオが部屋の中心にある自室で目が覚めた。

まるでこの世界は自分とラジオだけのような気がしてきた。

何故だろう。自分は翌日もラジオをゴミ捨て場に捨てることにした。捨てたぞ。もう本当に捨てたからな。そう思った。

しかしまた翌朝目が覚めるとラジオは何事もなかったように部屋の中央にあった。

捨てたのは夢だったのか。

今度こそ本当に捨てなければならなかった。

捨てる前にラジオを聴いて、これが最後だとラジオを捨てた。

今は夢ではないと確認するために自身の頬をつねり、夢ではないと何度も振り返って捨てたことを確認したりもした。

捨てた。今度こそ確実に。

翌朝、目を覚ますとラジオは部屋になかった。

テーブルの中央に長年定位置として置かれた跡だけが残っていた。

アイツとの長年の付き合いは本当に終わってしまったようだ。

特にやりたいこともなく部屋で死んだように横たわっていた。

手を伸ばしてもラジオデッキはない。

無意識に伸ばした手を彷徨わせて、何も考えるなと自分に言い聞かせた。

音のない空間は居心地が良かったのだが、それも数日ほど過ぎると夢現の中でラジオのざらついた音が聞こえてくるようになった。

捨てたはずなのだが夢の中では存在していて、ラジオを聴いている自分がいた。

どう言うことなのか。自分にはそれが必要なのかもわからない。

家を出ると巨大なラジオが高層ビルのように街中に聳え立っていた。ラジオの広告塔のような人々が笑顔で道ゆく人に何かを勧誘している。

自分が不可解な世界に困惑しながらその前を通ると今まで通行人の人々に笑顔で声をかけていた人々がキッと鋭い目をして睨みつけてきた。


「オマエに教えることはねーよ!」


赤い唇がそう罵って互いの手を握り合って行こうと言って歩き去って行った。

この世界はどうやら自分が捨てたラジオが牛耳る世界になってしまったようだった。






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