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王都で焼肉屋やろうとしてる俺に後輩がケチつけまくってきてムカつくんだが

 あいつと飲むのも久しぶりだな……ワクワクする。

 そんなことを考えながら酒場のテーブルで頬杖をついてると、後輩がやってきた。混雑してるのに、するすると俺のところまでやってくる。


「お久しぶりです、先輩!」


「おう!」


「相変わらずデカイっすね! 酒場入ってすぐ分かりましたよ!」


「お前は相変わらずちいせえな。ま、座れや」


 後輩がちょこんと椅子に体を乗せる。

 まもなくウェイトレスが酒を運んできた。


「乾杯!!!」


 俺は豪快に酒を喉に流し込む。一方、後輩はジュルジュルと酒を飲む。いつ見ても辛気臭い飲み方だ。口には出さないけど。


「で、俺になんの用です? 先輩」


「ああ、俺さ……焼肉屋始めるつもりなんだよ。だからお前にも伝えようと思ってさ」


「へえ、焼肉屋っすか! どんな?」


「そらもちろん肉は牛系で、毎晩のように客で賑わう店にしたいと思ってる!」


 俺が胸を張ると、


「へ、へえ~……」


 後輩は何やら煮え切らない返事をした。こいつの性格や立場ならてっきり「そりゃすごい! 応援するっすよ!」なーんて言ってくれるのを期待してた俺にとっては少し不満だった。


「なんだよ……なんか文句あるのか?」


「あ、いや……」


「なんだよ、何か言いたいなら言えよ」


 すると、後輩は少し考えてから、


「予算は……大丈夫なのかな、と思って」


「予算?」


 なんだそんなことか、と俺はすぐさま回答を始める。


「金なら平気だ。ある大商人から融資してもらえることになってる」


「融資……」


「なんだよ?」


「いや、大丈夫なんすか? もし高利貸しだったりしたら……借金で首が回らなくなる先輩なんて見たくないっすよ」


「首が回らないとかお前に言われたくねえよ。大丈夫、信頼できる商人だ。俺をハメたり騙したりする奴じゃねえよ」


「……ならいいんですけど」


 予算については問題ない、と答えたのに後輩はまだ不満げだ。


「じゃあ……店の立地はどうなんですか?」


「そりゃもちろん、王都のど真ん中よ! 王都に俺のビッグな焼肉屋を打ち立てる! 最高だろうが!」


「最高ですけど……家賃も高そうですね」


「そりゃまぁ。だが、そういうとこケチったって商売は上手くいかねえだろ。必要経費ってやつだ必要経費」


「……」


 まだ後輩は何か言いたげだ。


「客層はどんな想定をしてるんで?」


「今や王都は色んな奴が住んでる。金持ちもいれば庶民もいるし、俺らみてえな魔物だって堂々と暮らしてる。貴族や騎士だっている。だからあえて客層は絞らねえ。色んな奴が来て、肉食って酒飲んで楽しんでくれる場になればいいなって思ってるよ」


「そうなればいいですけどね」


 相変わらず魚の小骨がのどにつかえたような話し方だ。そこは「きっとそうなりますよ!」でいいだろうが。


「あと……そうだ。焼肉といえば当然、火がいりますよね。それはどうするんです?」


「それがさ、いい魔法アイテムを見つけてさ。ほんの少しの細工ですぐ火を出す火炎石! これを上手く店に組み込めば、いつでも鉄板を熱々にできるぜ!」


「ただ……火災が不安ですよね」


「まだ店も開いてないのに縁起でもないこと言うなよ」


「すいません、つい……」


 重箱の隅を連続で突っついてくるような後輩にだんだん腹が立ってきた。


「火災も問題ねえよ。近くに水魔法の専門家がいて、そいつと契約するから。どんな大火事が起きたってすぐ消し止められる」


「ならいいんですけど……」


 まだ何かあるというのか。


「働き手はどうなんです? 確保できてます?」


「従業員はこれから雇うよ。なにしろ王都だし、条件よくすりゃ沢山集まるだろ。つうか、今日お前を呼んだのもそのこともあるんだ」


「というと?」


「お前、俺の店で働かねえか? やっぱ店始めたら猫の手も借りたいほど忙しくなると思うしさ。あ、いやお前に手はねえけど。お前は俺と種族こそ違うけど大事な後輩だ。信頼もできる。だから、手伝ってくれねえか?」


「……」


 後輩は肯定とも否定とも判断しがたい沈黙をした。

 まだ俺の焼肉屋に対して不安があるということなのか。


「ま、この場で答えてくれとは言わねえよ」


 酒を飲む。後輩も俺が飲んだのを見て酒を飲む。


「まだ気になることがあるのか? こうなったらとことんだ。聞きたいことがあるなら言ってくれ」


「それじゃあ……肉の品質は大丈夫なんですか?」


「問題ねえよ。評判のいい肉牛農家と契約して、質のいい肉を提供してもらえる」


 その時のことを思い出しながら、


「うまかったぜ~、肉。お前みたいに柔らかくてさ……口に入れた途端とろけるの! 肉汁も出まくり! 俺は確信したね。店は絶対上手くいくって!」


「食べたんですか」


「食べたよもちろん」


「あ……そうなんですか」


 俺はさらに続ける。


「店名も決めてんだ。ずばり、『ウシ焼きい~モォ~』! あ、これ石焼き芋や“いい牛だ”みたいな意味や、牛の鳴き声がかかってんのね」


「ウシ焼きい~モォ~……」


「なかなかイカすだろ?」


「ええ……。いいネーミングだと思いますよ、うん」


 後輩は何やら言いたげだ。なのに言わない。俺は元々短気だし、流石にそろそろ限界を迎えていた。角のあたりが熱くなってきた。

 勢いよくテーブルを叩く。周囲の客がビクッとなるが、俺は気にせず続ける。


「お前、いい加減にしろよ! さっきからやたらケチつけてくるけど全部建前で、ようするに俺が焼肉屋をやること自体が不満なんだろ!? なんでそう思うのかはっきり言えよ!」


「ケチつけてるわけじゃ……ないんすけどね」


「じゃあ、なんだよ!?」


「抵抗はないのかな……と思って」


「抵抗?」


 思わぬ単語が出てきて、俺はきょとんとしてしまう。


「抵抗ってどういうことだよ? スライム」


「つまりですね……自分と似た動物を食わせる商売をやることに抵抗はないのかなって思ったんですよ。ミノタウロス先輩」






楽しんで頂けたら感想等貰えると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ふふ、「魔物」のあたりで確信しました。 「読めないオチ」にこだわる必要ないと思うんですよね。  意外、かつ、腑に落ちる秀逸なオチはもちろん最高ですが。 「オチを読み切った快感」を奪うこ…
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