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最悪 5

 豆鉄砲を喰らったような顔で動けずにいると、突然耳元で蚊の飛ぶような高い音が響いた。咄嗟に手で辺りを払うが手応えはない。どうした、という宍戸井さんの問いに、いえ、とだけ答えて首を振る。音は止まない。

『二つ先の信号で降りて』

「――っ!?」

 脳内に直接音声が響いている。俺は身を竦ませて左耳を押さえた。それは間違いなく、地下室で聞いた機械音声だった。あいつか。あいつが俺の体にハックしてきたのか。

『早く、次の信号』

 耳の奥がぞわぞわとする。直接鼓膜をなぞられる気持ち悪さに嗚咽が漏れた。方向性の分からない音というものにこんなにも拒否反応が出るなんて。宍戸井さんが眉をしかめて体を捻り、俺の顔を覗き込もうとしているのが分かった。

「おいどうした。調子悪いか?」

『早く降りて』

 宍戸井さんの声に、あいつの機械音声が容赦なく重なる。

「二ツ森?」

『二ツ森、早く』

 ――二ツ森。

 は、と呼吸の乱れた犬のような声が漏れた。くそ、と悪態をつきたいのを必死で押さえて、前方二人の座るシートの間に無理矢理割り込んだ。

「降ろしてください!」

「え、何でよ? 駅前はまだ」

『早く』

「いいから早く! ここで降ろして!!」

 美吉野さんは戸惑いながら、パトカーを路肩に寄せる。おい、と慌てた宍戸井さんがそれを制したが、美吉野さんはまあまあと落ち着いた様子だった。

「降ろせって言うんなら何か理由があるんでしょう。ほら、気を付けて」

「おい、二ツ森!?」

「すみません!」

 不服そうな宍戸井さんが何かを訴えてきたが、構っていられなかった。俺はお礼もそこそこに、後部座席から飛び出して目の前の路地へと駆け込んだ。

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