73話 侵略
「さて、もう一度だけ聞きます、この森へ来た目的は?」
すると帝国の隊長らしき人は、プルプルと身体を震わせている。
「さっきから・・・」
と帝国の隊長が言葉を続ける。
「さっきから下手に出ていればいい気になりやがって! なんだお前ら! 調子に乗りやがって、やれ引き返せだ! やれ目的を言えだ! 黙ってそこをどけろよ!」
帝国の隊長は本性をあらわにする。その顔からは驚く程に怒っているのが分かる。
先程までの丁寧な口調の人はそこには無かった。
「大体なんだ神託って! 人間のお前ならまだ分からなくも無いが! 亜人種にクソモク族、こんな奴らが神託なんて受ける訳が無い! 嘘をつくのも大概にしろ、お前らこそ目的はなんだ!?」
「あんた・・・ふざけるのも大概にしなさいよ・・・亜人種じゃない! 私は・・・私たちは誇り高きエルフよ!」
亜人種? クソモク族? なんか凄く差別的で癪に障る言い方だ。
ロルエさんは口に出てしまったが、恐らくモクゴクさんも相当頭にきている。頭の煙がごうごうと蠢いているのが見える。
「自分たちは確かに神託を受けここにいます。最終警告です、今すぐ引き返しなさい!」
「・・・仮にお前らゴミが本当に神託を受けていたとして、なぜ俺たちを止める? 森の動物を狩ることになんの問題がある?」
やっぱり森の動物たちを狩ることが目的だったらしい。
「お前らは肉を食ったことがないのか? お前らは動物を殺したことがないのか? なんでこの森だけ優遇する?」
「殺したことは・・・確かにあるわ、食べたこともある」
僕も食べたこともある、殺したこともある。けど・・・けど・・・
「だったら問題ないよなぁ? さっさと避けろ」
「けどね! あんな無益で森を破壊するだけの行為は許さない! なにより・・・この森は特別なのよ!」
「無益? 破壊? 特別? あぁもしかしてお前ら・・・預言を信じているたちだろ?」
預言? 神託の事ではなさそう? 特別ってなんのことなんだろう。分からないことが多いが今はどうでもいい。ただ動物たちを守りたい。
「あんなもの本当なわけないだろう、嘘だ嘘! まぁこう言ってても埒が明かない」
「やるっていうの!?」
と言って後ろに控えている人達に手で何か指示を出しているように見える。
すると兵士たちの中央から巨人族が前に出てくる。映画とかに出てきそうな巨人だ、腰に布を巻いているだけの丸腰の巨人。身体中に傷と泥がついていて、なんかみすぼらしく見える。
「おい、木偶の坊! 蹴散らせ」
『ゔぉぉぉぉ!』
巨人族がいきなりこちらへ走り出し、手を振り下ろしに来る。
「ちょっとちょっと! いきなり攻撃なんてふざけないでよ!」
「ヒナタさん!」
「はい!」
これは恐らく巨人を止めてという合図だろう。ちゃんと戦闘するのはこれが初めてだが、今はそんな事を考えている時間はない。
僕は急いで巨人より一回り大きく変身する。
『ドゴン!』
地鳴りのような音が鳴り、何とか振り下ろした腕を止めることが出来た。けどやはり意識がボーっとする。
「モクゴクさん! ロルエさん!」
「任せてください!」
「任せなさい!」
モクゴクさんの体の中からオニが大量に出て、帝国の人たちを取り囲む。
『うわぁぁ! 鬼虫だ!』『火魔法だ! 燃やせ!』『木偶の坊は何してる!』
「そのまま動かないでください! 動いた瞬間」
「殺します」
とモクゴクさんが帝国を牽制をしてくれる。ロルエさんも風魔法? を発動させ、僕たちを守る壁を風で作っている。エルフだからやはり得意なのだろう。
「ゔぉぉぉぉ!!」
けれど巨人だけは止まってくれない、なんだか言葉が分かっていないような、気が狂っているような、激しく暴れる。
「ちょっと! ちょっと! 止まって!」
僕の方が一回り大きいからなんとか、押さえつけれているが、すごい力だ。でもなんだろう、目の焦点も合ってないし、なにか違和感がある。
「モクゴクさん! 止まってくれないです!」
「なん・・・!! もしかして・・・」
「フッフッフッフ、アッハッハッハッハッ!!」
いきなり帝国の隊長が笑い始める。
「馬鹿かお前らは!? 巨人族操るのに服従の薬を使わないわけないだろう?」
「どこまで・・・どこまで馬鹿にすれば気が済む!!」
モクゴクさんもついに怒りを口に出してしまう。
「ヒナタさん!」
「はい!」
「そのまま取り押さえててください!」
「はい!」
僕は振り払われないように巨人を押さえつける。一瞬でも気を抜くとすぐ振り払われそうだ。
「ロルエさんはその方を気絶させることは出来ますか?」
「任せなさいって! 私を誰だと思ってるの!」
「お願いします!」
「集い集え闇の精霊たちよ、この者に深き眠りをファンシング」
こんな魔法の詠唱って初めて聞いたかも、かっこいい!
ロルエさんが掌を巨人に向け、紫色の煙が巨人の顔を包む。
「ゔぉぉ・・・ぐぴーぐぴー」
さっきまで暴れていた巨人が静かに眠りにつく。
「ロルエさんありがとうございます!」
「あいよ!」
「モクゴクさん! 次はどうすれば」
「そのまま待機でお願いします」
モクゴクさんはオニに囲まれている帝国の人たちに近づく。
「この巨人の方を置いて引き返してくれますか? 受けてくれるならこのまま五体満足で帰します」
「ちょっと優しすぎるんじゃない?」
とロルエさんも近づく。
「これでいいんです、これ以上やるとこの人たちと同じになってしまう」
「・・・あっそ」
ロルエさんはどこか不服そうな顔をして後ろへ下がる。
「そんな・・・こんなあっさり計画が」
「さぁはや・・・」
「なわけないだろ、クソモク族ごときが!」
『ドゴン!』『ボゴン!』
とすごい音と同時に赤い光が、神託で見た光が、背中にある森から感じる。
「アッハッハッハッハ!! まさか本当に俺たちだけだと思ったのか? ざ〜んねんでした〜!」
舌を出しながらこちらを煽ってくる。でもどうやって! いやそれよりも!
モコとキキョウは! モコとキキョウはどうなったんだ! 大丈夫なのか!?
「ヒナタさん! ロルエさん! ここは任せて行ってください!」
「分かったわ!」
「・・・」
僕は眠っている巨人を放し、変身を解き、ロルエさんと共に森の中へ入る。
モコ、キキョウ、無事でいてくれよ。
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※モクゴク視点です
自分のミスだ、自分のミスで今こうなってしまった。
ヒナタさんとロルエさんを森へ行かせたあと、ニヤニヤしているこのクソ野郎へ問い詰める。
「本当になんなんですか! 目的は!」
「いいよ教えてやる、よく聞けよクソモク族」
「俺たちはなぁ、黒龍を作り出すために来た」