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愛する猫と異世界へ  作者: 絵濡亥 家尾
リュクシルン国 王都
63/80

61話 怒り

『ガルルル』『グルルル』


 モコとキキョウは、いつの間にか変身しており、2人組みを威嚇するように唸っている。

 唸り声は地響きより低く、聞くだけで背筋に針を突き立てられていると感じる。


「あ、あぁ、あぁぁ」


 2人組みは、もう声すらまともに出せていない。片方の痩せている方はほぼ失神している状態に近い。


 今のうちにミミくんを保護しないと


「ミ、ミミくん、こっちにおいで!」


 ミミくんは、小走りでこちらへ来る。


「怪我はない?」

「う、うん」


 ミミくんはそう答えるが、腕には掴まれた時に出来たであろう赤い跡がついている。


 モコとキキョウは未だに威嚇をしており、2人組みはもう気を保つのもやっとの様子だ。


 モコとキキョウが人に対して、ここまで明確に殺意を向けるのは初めてじゃないだろうか?

 僕のために怒っているのは、嬉しい、確かに嬉しいのだが・・・なんか嫌だ。


「モコ! キキョウ! もういいから! ね」

「ガルルル・・・ペロ」「グルルル・・・」


 モコとキキョウは、声をかけると僕の血が出ている鼻を舐めてくる。

 やっぱり僕のために怒ってくれていたのか。

 だが声をかけても未だに怒りを鎮めてはくれない。恐らくこの人たちがどこかに行くまでこの怒りは止まないだろう。


「はやく! どこか行ってください!」

「・・・あ、あぁ」


 と2人組みは人混みに紛れて消える。


「モコ、キキョウ、もういないから、もう大丈夫だから・・・ね」

「・・・」「・・・」


 ふたりは煮え切らないようだが、一応変身を解いてくれた。


「僕のために怒ってくれてありがとう」


 とモコとキキョウの頭を撫でる。


「・・・にゃ」「・・・」


 やはりまだ完全には怒りが収まっていないようだ。


 周りからも、注目の目を浴びている。

 この目はどの目だろう。

 異物を見るかのような目なのか、ただ単に好奇心なのか、はたまた悪役に映っているのか、分からない。

 誰かが何かを言うとそれ色に染まる雰囲気だ。


「ミミ! ミミ! ミミじゃないか!!」

「ミミなの!? やっと見つけた!」


 声の方を見ると人混みをかき分けて、こちらへ走ってくる。

 ミミくんと同じ耳の男性と、一際背が高く耳が垂れている女性が来る。


「お父さん・・・お母さん!!」


 ミミくんもその2人を見つけ走り出して行ってしまう。

 多分、本当の両親なんだろう。良かったね見つかって。


 ミミくんと両親は抱き合い、その場に座り込むようにしている。

 近づいてみると


「あなたですか!? うちの子を保護してくれたのは!?」


 と父親と思われる男性から手を握られる。


「は、はい」

「ありがとう・・・ありがとう・・・」

「私からもありがとうございます・・・」


 涙を零しながら感謝される。なんか照れくさいな。

 周りの人もこの状況を理解したのか、「スカッとしたぞ!」「偉いな! 坊主!」「猫ちゃんかっこいいな!」などと賞賛の声を送ってくれる。


「いえいえ、では僕はこれで」

「ちょっと待って! せめてお礼を!」

「大丈夫ですよ」

「いや! させてくれ! お願いだ!」


 頭を下げるまでお願いされる。

 ここまでされて断るのは逆に失礼な気がする。


「じゃあちょっとだけ」

「そうか!」


 と言って近くの『タルヒンズ』というレストランのようなところへ入る事になった。


 中へ入ると、お祭りの仕様なのか、シヴァン様の顔写真とおめでとうメッセージがたくさん貼られている。


「改めて、本当にありがとう! 俺はクルト! そしてこっちは」

「アイザです、今回はミミを保護してくれてありがとうございました」

「ご丁寧にどうも、僕は日向です。まぁほとんどはこっちのモコとキキョウのおかげですけど」

「モコちゃんとキキョウちゃんって言うのか、ありがとう!」

「にゃ」「みゃん」

「好きな物頼んでいいからね」

「あ、ありがとうございます」


 好きな物と言われてもメニューを見ても何も分からない。

 とりあえず『ガチャガタン』というのを頼んでみた。

 モコとキキョウにはお店の人に聞いて、特別に作ってもらう事にした。


 料理が届くまでの間、すごい感謝を何回も言われた。

 そして


「ヒナタさんは良い人なんですね」


 と言われた。良い人? 確かに迷子の子を保護はしたが、どういうことだろう?


 聞いてみるとこの世界では、人間と獣人の間に差別みたいなものがあるらしい。

 獣人は人間のなりそこない、などという人が少なからずいたらしい。


「最近は獣煌じゅうこう様のおかげで多少は無くなったんだが、未だに一定数差別をする人がいるんだ」


 獣煌様っていうのは、獣人の国の王様らしい。名前かっこいいな! その人のおかげで今は差別が少ないのか。


「でも未だに差別があるんですね」

「多少はあるさ、でもほとんど無いって言ってもいい」


 結局は人それぞれということなのかな?


「・・・だから本当に君たちには感謝しているんだ! ありがとう!」

「いえいえ、ほら料理が来ましたよ! こんな陰気臭い話やめて、美味しいもの食べましょ?」

「うん、君は本当に優しいんだな」


 ちなみにガチャガタンは、かぼちゃのパイのようなもので、かぼちゃの甘みがダイレクトに伝わってきて美味しかった。


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