60話 迷子の子犬人
どこからか子供の泣く声が聞こえるがどこにいるのか分からない。
僕もデパートとかで迷子になったことあったなぁ。
まぁ多分近くで、お母さんとお父さんが探してるから大丈夫だと思うけど
『滅多にないけど人攫いなんかもある』
というリュジンさんの言葉を思い出す。
万が一のことを考えると放っておくのは心配になってきた。
とにかく声の聞こえる方へ行ってみよう。
声を頼りに人をかき分け、声の主に辿り着くとそこには、壁を背に泣いている、灰色でピンとした犬の耳を生やした、子供の男の子がいた。
「・・・ひぐ・・・ひぐ」
とりあえず声をかけてみようかな?
でもなんて声をかければいいんだろう? 「僕、大丈夫?」「どうしたの? 迷子?」う〜ん、悩んでてもしょうがない! とりあえずしゃがんで声をかけてみよう!
「ねぇどうしたの? もしかして迷子?」
声をかけると、男の子は耳をぴくぴくとさせながら、指と指の隙間からこちらを見てきた。
「ズズ、う、うん・・・おとうさんとおかあさん・・・迷子」
男の子は涙目で鼻水をすすりながら、迷子だと言うことを教えてくれるが、多分・・・迷子はこの子だろう。
子供のこういうところ可愛いよなぁ。
「そっかぁ、じゃあお兄さんと一緒に探そう?」
「・・・ほんと? でもいいの? お兄さん、人だよね・・・」
人? 確かに人間だが、それがなんだろう?
「うん、いいよ!」
「・・・ひぐ、ありがとう・・・」
「どういたしまして!」
ちゃんとお礼言えてて偉いな。僕がこのくらいの時なんて多分、言えてなかったと思う。
「そういえばお名前なんて言うの?」
「ぼくミミ」
「ミミくんね、僕は日向、そしてこっちはモコとキキョウって言うんだ、よろしくね」
「にゃん」「・・・みゃん」
「う、うん」
あれ? ちょっと歯切れが悪いぞ? もしかして猫が苦手なのか? まぁそんな人もいるよね。
それよりもどうやって探そうかな、迷子センターとかないよな? 交番もないかな?
どのみちこの子の親の特長を知らないとどうしようもないな。
「お父さんとお母さんの特長は分かるかい?」
「とくちょう・・・?」
「う〜んと、お父さんとお母さんは目立つ格好とかしてる?」
「えっとね、おとうさんのお耳はぼくと同じで、おかあさんはね・・・大きい!」
「・・・大きい?」
「うん、おっきいんだ!」
「そっか・・・」
お父さんはこの子と同じ耳ということは、灰色でピンとしてるのかな?
お母さんは大きいのか、周りを見渡してみても、それらしき人はいない。
「みみくんはどっちから来たの?」
「う〜んと、あっち」
「そっか、じゃあそっちに行ってみようか!」
「うん」
ミミくんの来た道を帰ってみても、それらしき人を見かけることはなかった。
ミミくんが疲れてそうだったので、目立つ噴水のところで待つことにした。
「・・・」「・・・」
何か話さないと、えーっと、えーっと
「ミミくんはお父さんの事すき?」
「おとうさんは、よくふざけておかあさんに怒られてるけど・・・好き」
「にゃぁん」「・・・みゃん」
「そっか! じゃあお母さんは?」
「おかあさんは、厳しくてすぐ怒るけど好きだよ」
「じゃあ早く見つけないとね!」
「うん!」
「お〜いそこの人、もしかしてその子迷子の犬人か?」
「? 誰ですか?」
話しかけてきたのは、男の大人2人組だった。
片方は太っていて、貼り付けたような笑顔をしている。
もう1人は、心配になるくらい細く、手をこすりながら話しかけてきた。
「あぁごめん、怪しいものじゃないんだ、ただお兄さんの代わりにその子の親を探してあげようかなって」
「なんでですか?」
『滅多にないけど人攫いなんかもある』
怪しい、すごく怪しい、そもそもなんで僕の代わりに探すんだ?
「いや、お兄さんは祭り楽しみたいでしょ? そんな犬人なんかといたら楽しめないでしょ?」
「いやいいです、あっち行ってください」
なんか嫌な言い方だな、癪に障る、そんな感じがする。なによりミミくんをそんななんて言った人なんかには任せられない。
「そんなってなんですか? いいからあっちいってください」
「いいからいいから、お兄さんは祭り楽しんでよ、せっかくのシヴァン祭だよ?」
と無理やりミミくんの手を掴もうとする。
「やめてください!」
僕はその手をミミくんから遠ざけ、ミミくんを連れてその場を離れようとする。
「ミミくん行くよ!」
「いたっ!」
するとミミくんの手をもう一度無理やり掴んでくる。
「離してください!」
「いいからこの犬人寄越せよ!」
「やめてください!」
「さっきからうるせぇなガキ!」
『ドスッ』
いきなり殴られ、僕は地面にドサッと尻もちをついたように倒れてしまった。
『ポタ、ポタ』
「いったぁ〜」
鼻からは血が出ている。大丈夫かなこれ? 鼻折れてないこれ?
モコとキキョウもこっちを見ている。
次の瞬間、僕は鳥肌が止まらなくなった。
過去にも感じたことのあることのある、息をすることすら許されてないような空気。
しかし、キキョウの時より、さらに息が詰まりそうになる圧倒的強者のオーラを纏う姿が目の前にあった。
『ガルルル』『グルルル』