52話 美味しい料理とシヴァン様の思い
ダンスの時間までまだ余裕があるので、とりあえず美味しいものを食べておこう。
パーティの会場には、あちらこちらに丸テーブルが置いてあり、近くにはシェフの姿をした人が取り分けているのが見える。
どうやらテーブル毎で置かれている食べ物が違うらしい。
とりあえず近場のテーブルに行くことにした。
「モコ、キキョウ、おいで」
「にゃ」「みゃ」
近場のテーブルには、様々な種類のお肉が並んでいて、中には水のように透明なお肉もあった。
猫カラコンで覗いたが、全部大丈夫だったので、近くにいるシェフに取り分けて貰うことにした。
「すみません、取り分けてもらって大丈夫ですか?」
「はい! どれにしますか?」
一通り食べてみたいので、小さめに全部貰うことにしようかな?
「少なめに全部ってお願い出来ますか?」
「はい! 出来ますよ!」
「じゃあそれでお願いします」
「かしこまりました!」
そうして、お皿に盛り付けてもらう。一つ一つは少なめでも、結構な量になった。
モコとキキョウには、さらに小さめのお皿に盛り付けてもらった。
「いただきます」
「にゃん」「みゃ」
最初は気になっていた、水のように透明なお肉を食べてみる。
フォークで刺すとほんとに水に刺したように感覚が感じなかった。フォークから抜けないか心配しながら、口に運ぶと、口に入れた瞬間に水の様に喉を伝う、口の中に残るのは肉の旨味と程よい塩加減。これはちょっとクセになりそうだ。
次は、なんかすごい紫色のお肉。
これ食べても大丈夫なのかな? まぁ多分不味くはないだろうと思い口へ運ぶ。
柔らかくて味は・・・うん、クセが強いかもね・・・これを好きな人もいるもんね。
まだ猫たちが喜んで居るので良かった・・・
他にも、まん丸のお肉、真っ赤なお肉などがあってそれらは普通に美味しかった。
結構食べたと思ったのだが、まだお腹に空きが結構ある。
次は何を食べようかな?
でもこの後にダンスがあると思うとそんなに食べない方が良いのかな? でも何か食べたいな。
・・・デザートくらいなら食べてもいいかも。それに食べないと損だもんね。
そう思いデザートが置いてある、テーブルに移動する。
テーブルには、カラフルなデザートが所狭しと並んでいる。
無難なショートケーキのようなものから、宝石のようなデザートとは思えないものまである。
「すみません、全部少しずつ取り分けてもらって大丈夫ですか?」
「はい! 結構多いですけど大丈夫ですか?」
「はい! 大丈夫です!」
「かしこまりました!」
お皿に盛り付けてもらうと言われた通り、結構な量だ。
モコとキキョウには、食べられるものを別に皿で盛り付けてもらった。
まずはショートケーキみたいなものから食べてみよう。
見た目は普通のショートケーキなのだが、味は元の世界のものより、甘い、 すごく甘い! もう甘味の暴力と言ってもいいほどだ。けれどこれを欲していた気もする。
苺も元の世界の苺より、一層酸っぱく、一層甘い! 文句無しに美味しい!
次は気になっていた、宝石のようなデザート、形はダイヤモンドのような形、透き通るような水色。本当の宝石と見間違えるように綺麗だ。他にも色とりどりの宝石がある。
でもこれって手掴みで食べても良いのかな? 明らかにフォークは刺さらない気がするのだが。
「すみません、これって手で掴んで食べていいんですか?」
とシェフの耳元でこっそり聞いてみる。
「は、はい! その食べ方で大丈夫です・・・」
シェフの人は顔を赤くして答えてくれた。
「ありがとうございます」
そうして宝石のようなものを手掴みで口に放り込む。
宝石は口の中で飴のようにゆっくりと溶け始め、上品な甘みが口に広がり、花のような、桜のような香りが鼻に抜ける。
「ふふ」
と声が漏れてしまうくらいには美味しい。
口元も勝手にニヤついてしまう。
「おぉ〜」「笑った、笑ったぞ」「綺麗だな」「まるで夜の女神だ・・・」
周りからまた注目を浴びている気がするが、デザートが美味しくてそれどころじゃない。
モコとキキョウも口元を汚してデザートを頬張っている。
「モコ、キキョウ、美味しい?」
と頭を撫でながら聞くと
「にゃん!」「みゃ!」
「そうかそうか〜」
とてもいい声で答えてくれた。
美味しいものとこの笑顔が見られただけで来た甲斐があった。
そういえばこの後はダンスがあるのかと思い出し、シヴァン様の方を見てみると、ジーッと私の方を見ていた。
もしかして・・・ずっと見られてた? と思うとちょっと恥ずかしいが、可愛いな。
シヴァン様も私の視線に気づいたらしく、小さく手を振ってみると『ぴょこぴょこ』と効果音が聞こえそうなほど小さく、ぎこちなく振り返してくれる。可愛いなぁ。
「・・・にゃ」「・・・みゃん」
「え? どうしたの?」
モコとキキョウがどうやら拗ねてしまった。拗ねても可愛いなぁ。
「ねぇ〜こっち向いてよ〜」
『・・・ぷい』
ふたりとも顔を合わせてくれなくなっちゃった。これもまた猫の可愛いところだよね。
――――――――――――――――――――――――
※ここからはシヴァン様視点になります。
僕の10回目の誕生日が来た、毎年沢山の人が僕を祝ってくれて、本当に嬉しいことだ。
でも今回の誕生日は、いつもの誕生日とちょっと違った。
その人はルクレシオン辺境伯と一緒に来た。
夜の女神を彷彿とさせる綺麗な黒色の髪。
吸い込まれそうになる星彩のようなオッドアイ。
その姿を見て一目惚れをしてしまった。
周囲の人たちも目を奪われるように彼女を見ていた。
どうやらルクレシオン辺境伯の連れで、マリーさんの姉になる予定らしい。
名前を聞くとヒナタさんと言うらしい。
その後は無意識に視線を向けていたらしく、ヒナタさんを困惑させてしまった。
その後は、父上にも後押しされ、勢いのままにダンスに誘ってしまった。
すると彼女は「私なんかで」など謙虚な姿勢を見せてくるが、気持ちを素直に伝えると、次に彼女はダンスを踊った事がないと言う。
それでも大丈夫だと伝えると、快く誘いを受けてくれた。
早くダンスの時間にならないかな〜とソワソワしていると、父上、母上がニコニコしながらこちらを見てくる。
「な、なんでしょう? 父上、母上」
「ふふふ」
「シヴァン?」
「な、なんですか?」
「楽しみだな!」
「うん!」
そして無意識にまたヒナタさんを目で追ってしまう。
美味しそうにお肉を頬張っているヒナタさん、紫彩肉はお口に合わなかったらしい。
次にデザートを頬張っているヒナタさん、とても美味しそうに食べている。特に貴花蜜飴が気に入ったらしく、笑顔を見せてくれる。もっと間近で見たかった。
そしてこちらの視線に気づいたらしく、可愛らしく手を振ってくれる。
手を振り返したが上手く振れていただろうか?
これほど時間が早く過ぎないかと考えたのは初めてだ。