50話 王への謁見
日も暮れ始め、赤色の空と青色の空がぶつかっているように見え、とても綺麗だ。
「ヒナタちゃん! ヒナタちゃん!」
「・・・あ、はい」
リュジンさんが僕の名前を呼んでいたみたい。
空を見てて、ぼーっとしていた。
リュジンさんはふふっと笑いながら、こちらを見てくる。
「そろそろ行くよ?」
「あ、そうなんですか、分かりました」
そろそろ行く時間らしい。この姿でいるのにもちょっとは慣れた気がする。
椅子から立ち上がると、アロンさんが、門の方から歩いてくるのが見えた。
そうして、リュジンさんの傍に立つ。
「リュジン様、馬車の準備が出来ました」
「ありがとう、すぐ行くね」
「かしこまりました」
アロンさんは、そのまま立ち去ろうとするが、私と目が合う。
「リュジン様、そちらの方は?」
「ん? あぁヒナタちゃんだよ!」
「え? でも、え? 女性? え?」
アロンさんがすごく困惑している様子が目に見えて分かる。
「あ〜お前、女の子だったんだな・・・そうか」
「いや! 違いますから! いや今は違くないんですけど!」
「大丈夫だ、分かってるから・・・」
肩をぽんぽんとされるが、その手には慎重さがにじみ出ていた。
ほんとに分かってくれたのかなぁ?
「さ、ヒナタ・・・さん、馬車はこっちです」
「あ、はい」
アロンさんに、馬車があるところまで案内される。
馬車は、この前見たものと似ているが、より一層の豪華絢爛になっていた。
馬車の御者のところには、グレンさんが座っていた。
「あ、ヒナタちゃん殿」
「こんばんは、グレンさん、ところで誰から聞きました?」
「それは、マリン嬢から直接」
「やっぱりそうですか・・・はぁ」
やっぱりあの人か。
「やっぱりあの人かってなんですか? ヒ〜ナ〜タちゃん!」
「うわ! びっくりした!」
騎士姿のマリンさんがいきなり背中に現れた。
そして最初に会った時より、だいぶ変わってない?
本性がちょっと出ているような気がする。
「こらこら、ヒナタちゃんをいじめないの、マリン」
「は〜い奥様」
「カイナさん・・・」
カイナさんがマリンさんを制止してくれた。なんて優しい人なんだ。
「さ、ヒナタちゃん、猫ちゃん達も乗って乗って」
「あ、ありがとうございます」
「にゃ」「みゃん」
馬車の中は、ちょっとした部屋のような空間が広がっていた。
「あ! お姉ちゃん! こっちこっち!」
マリーちゃんが自分の隣の席を手でぽんぽんと叩いている。
「モコとキキョウもいい?」
「いいよ! 猫ちゃんはこっち!」
さっき叩いていた席とは反対の席を叩く。
私たちはマリーちゃんに言われた通りに座る。
最後にリュジンさんが馬車の中へと入ってくる。
リュジンさんが私の目の前に座る。
「出発します」
とグレンさんの声が聞こえてきた。
その声が聞こえて間もなく、馬車が動き出すが揺れはほとんど感じなかった。
「ところでヒナタちゃん・・・」
「? はい」
「そこに座るということは、そういう事だよね」
「・・・いや、ほんとに何言ってるか分かんないです」
この人は本当に何を言ってるんだろう?
しかし、リュジンさんは不敵に笑っている。
「ふっふっふ、マリーもお姉ちゃん、欲しいよね?」
「え! ヒナタちゃん、マリーのお姉ちゃんになってくれるの?」
「ゔぅ」
なんて卑怯な手なんだ! しかしそんな眼差しで見られると、断りづらい、もうお姉ちゃんになっても良いのではないかとも考えてしまうほどに。
「・・・今日だけ・・・今日だけお姉ちゃんになります!」
「にゃ!?」「・・・みゃあ」
言ってしまった、モコは驚き、キキョウも何か呆れているようにも見える。
だってあんな目で見られたら、言いたくもなる。
「やった! やった!」
この笑顔が見れるなら、言って良かったかもしれない。
「じゃあここにサインをお願い! ね! 1回だけ!」
リュジンさんは何か言っているが、もう無視した方がいいだろう。
そのまま、リュジンさんを無視し続け、みんなと話していると、馬車が止まる。
「着きました」
グレンさんの声がまた聞こえ、馬車の扉が開く。
「じゃあ行こっか!」
「はい」
リュジンさん達が先に降りる。
「ヒナタちゃん、お手を失礼します」
馬車から降りる時にマリンさんが手を貸してくれる、なんかちょっといい気分かも・・・
馬車の外に出ると、お城が間近で見える。
綺麗な白色のお城なんだが、様々な色にライトアップされていて、とても壮麗に見える。
「ヒナタちゃん、行くよ」
「あ、はい! モコとキキョウもおいで」
「にゃ〜」「みゃ」
お城の前には、何人もの騎士が立っていて、お城への道を囲んでいる。
お城の中へと入っていくと、中央にある大きい廊下にはレッドカーペットが敷かれており、左右には多くの柱がある。
そして階段の数もすごく多い、段数じゃなくて階段自体の数が多い。
そのまま真っ直ぐ歩いていくと、1つの大きな扉が開いているのが見えてくる。
「ヒナタちゃん、モコちゃん、キキョウちゃん、楽しんで!」
「はい!」「にゃん!」「みゃ!」
扉をくぐると、とても広い空間が眼前に広がっていた。
まず目についたのは奥の玉座、恐らく座っているのは、王様であろう。両脇には王妃様、王子様と王女様らしき人が座っていた。
天井には、沢山のシャンデリアが光っているのだが、空間の中央には一際光る巨大な剣が宙に浮いている。周りのシャンデリアの光を霞ませる程輝いている。
床は真っ白なんだが、自分の顔が反射して見えるくらいにピカピカだ。
「じゃあヒナタちゃん! 僕たちは陛下に挨拶しに行くよ」
「え!? 私も行くんですか!?」
「そりゃそうだろう、ほら早く行くよ!」
確かに、言われてみたら行かないと失礼かもしれない。
「じゃあ付いておいで」
「はい! モコ、キキョウ、離れないようにね」
「にゃん」「みゃ」
こうして、王様に謁見をすることになった。