19話 幼子の境遇
「にゃ〜さっきぶりだにゃ〜日向くん!!」
ニールちゃんが笑顔で片手を振ってくる。
もう片方の手には、子猫が抱かれている。
多分ニールちゃんはこっちの聞きたいことを全部分かっているのだろう。
「さてさて〜聞きたいことがたくさんって顔にゃ〜ね〜」
「はい!まずこの猫はなんなんですか?なんで瘴気が!」
「待つにゃ待つにゃ、ちゃんと1つずつ説明するから、落ち着くにゃ」
ニールちゃんは、こちらを制止するように肉球をこちらへ向ける。まぁ可愛い肉球。
「全く君は、猫が絡むと落ち着きが無くなるにゃんね〜」
当たり前だ!猫が絡むことで落ち着ける人間がいるわけがない!
ニールちゃんが笑顔になる。
「フフ、まぁそこを僕は気に入ってるにゃんけどね。」
「ありがとうございます!」
猫の神様に気に入られるのは素直に嬉しい、そのうち肉球を嗅がせてくれるんじゃないだろうか?
「絶対にイヤ」
あちゃ考えがバレてしまった。
「まぁ無駄話もこの辺にして、まずこの猫の生まれから話していくにゃ」
「お願いします」
ニールちゃんはため息を吐くと、真剣な顔つきになる。
「この猫は、元々は普通の魔猫として生まれたんだ。
魔猫って言うのはまぁ普通の猫と、さほど違いはない。なんなら人間の言葉を理解し元々は共存していたんだ。
ただ!ちょっと特殊な魔石をたまに持っている“特別な個体”がいるという“噂”がたった。それが問題だったんだ。
その魔石を欲しがる人間が多く出てきたんだ。その中には、その魔石で何が出来るのかもよく“分からない”が希少ならという理由で、欲しがる者もいた。
魔猫は元々戦闘能力は高くない、だから昔に乱獲されることも多くあったんだ。」
ここまででも大分ハードな内容だ。辛い。こんな可愛い子を狩るなんて・・・
「もちろんその行為を反対する人達も居た。元々魔猫を従魔として飼っていた者、猫に種族が近い者、魔猫を単純に好きな者、大半の人間が反対したことで乱獲されることもなくなった。
と思われていたが、ここ最近、また魔猫の魔石を欲しがる人間が“少数”だが出てきた。
そして秘密裏に魔猫が被害に遭うことが少なからずあったんだ。」
1回やめようってなったのに、また魔石を欲しがる人が出てきたのか・・・
「その被害にあった、魔猫の家族が運良く街の外に出て、森の奥に逃げることが出来たんだ。
しかし、逃げる際に1匹の魔猫が殺されてしまったんだ。
それがこの猫の父さん。」
ニールちゃんは腕の中にいる子猫に視線を落とす。
「森の奥には、そういう風に運良く逃げてきた魔猫が複数いたんだ。
前にも言ったことがあるけど、瘴気は負の感情から生まれる。
みんな怒っていた。怒りという言葉では表現が生ぬるい程の怨みの強さが森の奥に孕んでいたんだ。
そして、その瘴気を一身に背負って、産まれてきたのがこの猫ってこと。」
僕もその猫に視線をおとす。こんなに無邪気に寝ている子猫がそんな物を背負っていたなんて・・・
「酷い話でしょ?
ただ産まれてきただけなのにね。
幸せを知らないんだ、愛情もね・・・」
確かに酷い話だ、元をたどれば人間が悪いのに、その事すら知らずに復讐のために産まれてきた子。
「でも、この猫は優しかった。“特別”だったんだ。
どれだけ強い瘴気に身を晒されても、自分を持っていたんだ。生まれたばかりなのにね・・・
ただ徐々に徐々に蝕まれていったんだ。
そこで無意識に“助け”を求めていた。
そのあとは想像通りだよ」
そのあとは僕達に会って、現在に至るということだろう。
身を埋め尽くすほどの怒りと怨みを、産まれながらに耐えてきたんだろう。
「まぁ、この猫が会ったのが君で良かった。」
でも救えたのは、たまたまだ。
あのスキルがなければ救えなかった。
そういえば、僕が瘴気を吸い取ったが、大丈夫なのだろうか?
また瘴気に侵されたりしないのだろうか?
「それは安心して欲しい。
瘴気の質、負の感情の数は地球は桁違いだからね。
かと言って魔猫たちの怒り怨みが弱いという意味ではないからね。
しかも日向くんの精神の器は、地球の頃よりさらに大きくなっている。だから安心して欲しい。」
ニールちゃんがそういうなら、おそらく安心だろう。
「にゃて!この猫をこれからどうする気にゃ?」
「どうするって飼うつもりですが・・・」
ニールちゃんが先程までの真剣な顔ではなく、笑顔を見せてくる。
「にゃら!名前を決めないとにゃ!」
名前か・・・名前
モコの時はモコモコだからモコにしたんだったっけ?
「にゃん!」
はい可愛い〜
この猫は、黒の中に赤い線が入っている短毛で目が右が緑で左が紫のオッドアイ、紫の目が特に綺麗だ。
そういえばこの猫は、愛情を知らないとニールちゃんから聞いたな。
なら愛情を知って欲しい!幸せになって欲しい!そういう意味を込めて名前はこれにしよう
「キキョウ、、キキョウにします!」
「にゃ〜いい名前だにゃ〜」
ニールちゃんがニヤニヤしている。
「にゃて!そろそろ起きるにゃ〜よ〜」
「はい、今回もありがとうございました」
「にゃん!」
「照れくさいにゃ、早く起きるにゃ」
ニールちゃんが頬を赤く染めていた、とても可愛い。
もっと眺めていたかったが、ここで僕はまた意識を離した。
「フフ、日向くんなら幸せにしてくれる、僕は信じてるよ
そしてキキョウちゃん、幸せなるんだよ」
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