17話 黒き獣に救いを
「ガルルァァァ!!!!」
内蔵が震えるほどの叫び声。
目の前の黒き獣は、陣形を崩していた僕たちを見ていた。
すると黒き獣はまっすぐ“ナタリーさん”へ歩を進める。
悠然と歩を進める。
周りにいる“人間”など気にも触れず、ゆっくりと歩む。
それが“強者”の“在り方”であるかのように、あまりにも自然に近づく。
しかし、それを止めれる者は誰もいない。先程の咆哮にみんな心を縛られたかのように、ただ眺めることしか出来なかった・・・ある1人と1匹を除いて。
「ガルルァァァァ!!」
黒き獣はナタリーさんをその強靭な爪で引き裂こうとする。
「ガキィィン」
「グルルルァァ!」
いつの間にか、僕は手に持った短剣で黒き獣の爪を止めていた。
身体を動かした記憶はない。ただ何とかしなくちゃという考えが、身体を勝手に動かした。
ほぼ奇跡に近いだろう。しかし確かに止めることが出来た。
するとすぐにモコが黒き獣に体当たりをし、僕から黒き獣を離す。
それを合図に、ベルンさんの号令をかける。
「トールとガリス、ライガンは前線を張れ!
サインとアナリアは援護!セリアは聖魔法で回復を!ヒナタはナタリーを頼む!」
『了解!!』
皆さんが黒き獣を抑えている間に、僕とモコは完全に腰を抜かして動けなくなっているナタリーさんを連れて、みんなの後ろに下がる。
「大丈夫ですか?」
と僕がナタリーさんに声を掛ける。
「あ、あぁ、ありがとう。」
ナタリーさんは多少、放心状態だが恐らく大丈夫だろう。それよりもベルンさん達が心配だ。
ベルンさん達は黒き獣に押されてはいないが押してもいない。
何故だろう、何かおかしい気がした。
間近で見た時は気づかなかったが、遠目でじっくりと見ると黒き獣は、何かを気にかけている様な、苦しんでいるようにも見える。
『・・・離・て・・・近・・ないで』
黒き獣から声が聞こえた気がした。聞いたことあるような声が聞こえた。
『や・て・・・わた・・・おかし・・の』
『ごめんなさい』
黒き獣から涙が流れたように見えた。
泣いているのか?
そう考えていると、攻撃が激しさを増した。
ガリスさん、ベルンさんが吹き飛ばされる
「クソ!ヒナタ!俺が言ったこと覚えてるか!?」
トールさんからこちらへ声が投げかけられる。
逃げろという意味だろう。
しかし、ここで僕が逃げれば間違いなく、トールさん達は死ぬだろう。でもモコと加勢したとしても勝てる見込みがない。
どうすれば、どうすればいいんだろう・・・
『・・助けてよ・・こんな・・したく・・・ないよ・・・』
また、黒き獣から声が聞こえる。
そうだ、あの日夢で聞いた声だ、苦しそうな悲しそうな声。助けてあげたい!
『・・・みゃ〜みゃ〜・・・』
黒き獣から弱々しい子猫のような声が聞こえる。
助けてあげたいがどうすればいいんだろうか。
僕にそんな力はない・・・
『助けてあげたいのかにゃ〜?』
ニールちゃん!!
なんで!?いや今は考えている暇はない!
どうすれば助けてあげれますか?そもそもあれはなんなんですか?
『にゃ〜歴とした猫にゃんよ〜、ただ瘴気によって巨大化、凶暴化してるにゃんけどね』
瘴気・・・でもなんで猫に瘴気が・・・いや今はどうでもいい!
どうすれば助けてあげられますか?
『自分のスキルをもう一度思い出して見るといいにゃ〜、後はほんの少しの勇気だにゃ!』
自分のスキル・・・あれか!!
ありがとうございます!!
『頑張るにゃ〜よ』
はい!
さて、僕の数少ないスキルの1つを使えば何とかなるかもしれない。
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スキル 猫吸い
猫の匂いを吸うことで体力が回復した気がするだろう。猫の悪い所などを吸い取ってあげられるかも・・・
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これだ!恐らく、悪い所が瘴気に当たるのだろう。
僕に瘴気が溜まるのかもしれないがそんなのどうでもいい!
目の前に苦しんでる子猫がいるんだから助けてあげたい。
後は少しの勇気・・・大丈夫できる、大丈夫だ!
問題はどう近づくかだ、正面から行っても恐らくなぎ払われるだろう。
「グルルル」
モコが近くに擦り寄ってくる、でかくなっても可愛いなぁ。
・・・モコ!そうだ!モコのスキルにうってつけの奴があったはずだ!
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スキル 気配消し
気配を完全に消すことが出来る。
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「モコ、頼んでも良いかい?」
「ガウ!!」
モコはいい返事を笑顔で返してくる。ほんとに可愛い。
モコに頼んで背中に乗ると、
「お、お前何をする気だ、や、やめろ、ほんとうに、死ぬぞ」
ナタリーさんが心配してくれる。多分この人、根はとてもいい人なのだろう。
「大丈夫です、モコ頼むぞ!」
「ガウ!」
モコはすぐに黒き獣の後ろに着くことが出来た。
後はほんの少しの勇気だけ・・・
大丈夫できる、子猫が頑張ってるんだ、僕も頑張れる!出来る出来る
「出来る!」
僕は黒き獣の背中に乗ることが出来た。
「ガルルルァァァ!!」
すぐに僕を振り落とそうと暴れるが、僕は絶対に離れない、離れてなるものか!
「何やってんだ!ヒナタ!離れろ!」
トールさんが何かを言っているが、何も聞こえない、聞こえない。
「スキル!猫吸い!」
僕は黒き獣の匂いを嗅ぐ、野性味が溢れているが、優しい太陽のような匂いもする。しかし、鼻の奥に痺れるような感覚がある。恐らく瘴気だと思う。
けれどここで辞める訳にもいかない!僕は懸命に匂いを嗅ぎづつける。
「ガルルァァァ」
匂いを嗅ぎづつけると、痺れるような感覚も消えていき、とてもいい香りがする。
すると徐々に黒き獣は小さくなっていき、最後には黒に赤のラインが入っている、オッドアイの子猫が僕の腕の中にいた。
「みゃ〜みゃ〜」
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