11話 疑い
「ちょっとそこのお兄さん! 待ってもらってもいいかな?」
その言葉に呼び止められ、後ろを振り向くと
鎧に身を包んだ白髪短髪の女性が立っていた。
「さっき隣で見てたんだが、マッドウルフの魔石を9つ出していたね。」
確かに僕は、9つの魔石を出した。しかしそれがなんだと言うのだ?
「いや、君みたいなヒョロい男にマッドウルフ9匹が倒せるのかなって、もしかして盗んだんじゃないかと思ってね」
どうやらこの女性は、僕が出した魔石を盗品じゃないかと疑っているらしい。
確かに僕は弱い、けど初対面で盗品を疑うのはどうだろう?
「はい、確かに僕は弱いですが、そこにいるモコがとても強いんですよ」
「モコ? あぁそこにいる猫か、でもただの猫にそこまでの力があるとは思えないな」
まぁモコは見た目はただの可愛すぎる猫だから、そう思うのは当然といえば当然だ。
正直、目立ちすぎている今の状況でモコを変身させたくはないんだけどなぁ。
ガリスさん達がこの場にいたら証明してもらえて、ありがたいんだけどなぁ〜
などと考えていると
「ちょっとそこの騎士の姉ちゃん!それは流石にねぇんじゃあねぇの?」
先程知り合ったばっかりの冒険者のトールが横から援護射撃をしてくれた。
そしてこの女性が騎士だということも分かった。
「君には関係ないだろう、邪魔をしないでもらいたい」
「関係ない? 確かにヒナタとはさっき知り合ったばっかりで、俺には関係は無いかもしれないが、ヒナタがそんなことする奴に俺はどうしても見えなくってな! お前らはどうよ!」
トールがそう言うと周りにいる冒険者の人達も「俺もそう思う」「私も」「あちきも」という声が聞こえてくる。
すると女騎士は小刻みに震えながら
「これだから冒険者は、嫌なんだ!」
どうやらこの女騎士は冒険者が嫌いらしい、ではなんでここにいるんだろう?
「なんの騒ぎだ!」
すると奥の扉から、二人の男が出てきた。
1人は、体は小さく髭を伸ばしたおじいちゃんなのだが、よく見ると筋骨隆々である。
隣には全身を鎧に包んだ、凛としたオーラの金髪イケメンの男も出てきた。
「ギルドマスター聞いてくれよ!」
とトールがおじいちゃんに話しかける。
どうやらこの小さいおじいちゃんがギルドマスターというらしい。
「まーーーーたトールがなんかやったのか、はぁ」
「いや、今回俺悪くねぇから! 今回は!」
いつもはトールが悪いのか。
そこからはトールとその周りの冒険者の証言もあり、女騎士が一方的な言いがかりを付けたと言うことになったのだが、
「いやでも! この人がマッドウルフ9匹も倒せると思えません!」
女騎士も引き下がらない。
するとギルドマスターと一緒に出てきたイケメンが口を開いた
「ナタリー今回は君が悪い、ちゃんとそちらの男性に謝罪をするんだ」
「でも団長! 自分には倒せると思えません!」
「ナタリー!!
自分が前回の遠征の時に倒せなかったからと言って、八つ当たりするのはやめろ、騎士として恥ずかしくないのか!! 」
とてつもない威圧感がナタリーと呼ばれている騎士に向けられているのが分かる。
もしあそこが僕だったら間違いなく失禁しているだろう。
そしてナタリーが僕に絡んでくる理由が分かったような気がした。
「申し訳ございませんでした」
不貞腐れたように俯きながらこちらへ謝罪をしてくる。
まぁ正直、僕もそちらの立場だったら疑うかもしれない。
「うちの騎士が失礼をかけた。本当に申し訳ない」
とイケメンが頭を下げる。
「いえいえ、こちらもそんなに気にしてませんから大丈夫です」
「そうか、しかし君は凄いんだな、マッドウルフを9体なんて、期待の新人じゃないか!」
イケメンって改めてずるいと思った。謝罪も出来て、そのうえでケアまでしてくれるのだから。性格までイケメンかよ。
「ところで君の職業を聞いてもいいかな?」
イケメンが何故か職業を聞いてきた。恐らくナタリーを納得させるために聞いてきたのだろう。
「テイマーです、僕はテイマーです。」
「テイマーなのか! じゃあ従魔はそこの猫ちゃんかな?」
「はい! そうです!」
「そうかそうか、という事は猫がマッドウルフ9体を圧倒したということかな?」
イケメンも内心こちらを疑ってきているのか? どうしよう、モコに変身させるのが1番早いが・・・
「あれ? ヒナタさんじゃないか!」
このタイミングでガリスさん達が扉を開けて入ってきた。
「え? 何この感じ、ヒナタさんなんかしたのか?」
これまでの経緯をガリスさん達に話す。
「なるほどなぁ・・・ヒナタさん、モコちゃんを変身させるのはダメなのか? 」
本人は小声で行ったつもりなのだろうが結構声が大きい。
周りのみんなも「変身?」という感じになっている。
「そうですね、というかそれしか無いですね。」
まぁ確かに、結局モコに変身してもらうのが1番早かったんだ。
モコには申し訳ないが変身してもらおう。
「モコ、お願いできるかな?」
「にゃおん!」
モコは任せて! という感じで返事をしてくれる。
モコの体が光を放ち、光の中から大きな虎が姿を現す。
「グルルル、ガウ!」
やっぱり、こっちの姿もカッコイイ!クール!でかい肉球可愛い!
周りの反応を見ると冒険者達はザワザワと騒がしくなった。その中には少し“畏敬”の目もあったが、ほとんどは
「可愛いのにかっこいいのかよ!」「もふもふしたい!」「大好きだよ〜モコちゃーん」
などともはやアイドルになるんじゃないかというレベルだ!
ほんとにいい人ばかりでありがたい。
ナタリーの方を見ると腰を抜かして、震えている。確かに怖い人には怖いかもしれないが、この可愛さとかっこよさが分からないのは残念だ。
ギルドマスターとイケメンは、モコを見て何かを話している。
「ちょっと、そこのえっと」
「ヒナタです」
「ヒナタ君、ちょっと奥の部屋に来てもらってもいいかな? ギルドマスターもいいですか?」
「いいじゃろう」
イケメンに誘われ、モコとギルドマスターを含む3人と1匹で奥の部屋に誘導された。
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