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有能すぎて魔法を使った事にも気が付いてもらえないせいで何もしてないと勘違いされた付与術師、追放されそうになったけどその場で論破する

「デューイ、お前を追放する!」


「……あ?」



 我ながら間抜けな声が出た。


 追放? 今、そう言われたのか?


 場所は、冒険者組合(ギルド)に併設される酒場。

 俺達パーティは、仕事の前と後にこの酒場に詰めるのがお決まりだった。



「リック、聞き違いか? もう一度言ってくれ」


「追放って言ったんだよ! 役立たずの蛆虫野郎が!」



 リックと俺は、もう十年来の付き合いになる。

 一緒に冒険者として活動を始め、仲間もできた。もう間も無くAランクパーティとしての申請を出せるというところにきて、突然そんな事を言われたのである。



「おいおい、なんの冗談だ? 俺が何をしたって言うんだよ」


「無能には分からねえのか?」


「リック、ちゃんと説明してあげなさいよ。馬鹿でもわかるように言ってあげなきゃ可哀想じゃない」



 そう言うのは、魔法使いのバーバラだ。

 俺の事を嫌っているのは知っていたが、ここまで露骨に態度に出されたのは初めてだ。



「然り。身の程を教えてやるのも弱者への優しさというものだ」



 分厚い鎧に身を包む戦士のゴードンもバーバラの言葉に同意する。

 俺たちは今まで、この四人で活動してきたというのにだ。



「……それもそうか。おい役立たず! 教えてやるよ! 手前はな、()()()()()()()()()追放するんだよ!」


「? 何もしなかった……?」



 いったいどう言う事だ?



「……ここまでニブいと、いっそ哀れになるわね」


「然り……」


「チッ、いいかお前はな! 何もしないクセにうちのパーティに寄生してるお荷物野郎だって言ってんだ!」


「はぁ?」



 話が見えない。噛み合ってない。



「俺はいつもバフをかけているじゃないか」


「ほら、それだ。んなみみっちい事は『何かしてる』には入んねぇんだよ!」


「アタシたちはね? もうそろそろAランクになろうってパーティなの。ちょっと力が強くなる程度の手助けは必要ないわけ」


「然り。ワシらの実力を思えば、それは何もしていない事と同義」



 話にならない。

 コイツら、もしかして自分の実力を知らないんじゃないのか? 俺は()()()バフをかけてるんだぞ?



「おい、落ち着けよ。お前ら昨日の酒がまだ残ってんじゃねえのか? 落ち着いて話しゃ妙な勘違いもなくなるって」


「うまく言い逃れようったってそうはいかないぜ! お前唯一の特技がその口達者なんだからな!」



 ……取りつく島もないとはこの事だな。


 となれば、真面目に話しても仕方ないか。



「お前らよ、この前のヴォルケーノ・ゴーレムは覚えてるか?」


「ワシがトドメを刺した魔物であるな」


「そうだ。初めは全然攻撃が効かなかったっていうのに、なんで最後の一撃だけ効いたんだと思う?」


「……何が言いたい」


「俺がバフを重ねがけしたんだ」



 もしそうじゃなけりゃ、ゴードンがヴォルケーノ・ゴーレムなんか倒せるわけがない。



「天空城を落とした時はどうだ?」


「……アタシが撃ち落としたヤツ?」


「ああ。お前の最大射程を遥かに上回って狙撃できた理由を、考えた事があるか?」


「な、なんだってのよ」


「俺が射程にバフをかけたからだ」



 でなけりゃ、豆粒程度にしか見えない城になんてバーバラの魔法が届くはずがない。



「ついこの前戦ったヒョウモンクラーケンとかもそうだ」


「……俺が八つ裂きにしてやった時だろうが」


「それだ。なんでお前にあいつの毒が効かなかったのか、お前に分かるか?」


「テメェ、その口を閉じろよ……」


「俺のバフでレジストに成功したからだ」


「黙れって言ってんだぜ!!」



 リックが、とうとう剣を抜いた。

 二束三文の鉄屑じゃあない。空から降ってきたとの逸話を持つ鋼を鍛えた、いわゆる流星剣だ。



「おいやめろ、危ないだろ」


「テメェのそのすかし顔がムカつくんだよ!!」



 リックはテーブルを乗り越え、一飛びで俺に肉薄した。



「こら君たち、よさないか」


「ッ!?」



 近くで呑んでいた客のうち一人が、リックの腕を掴む。

 剣を持っている手である。下手をすれば、自分の腕が落とされていたかもしれないのにだ。



「チクショウ! なにもんだ! 邪魔すんじゃねえ!!」



 背後から近づかれ、相手の顔を見れないリックは、体もかというほどに大暴れする。しかし、それが意味を持っているようには思えなかった。

 リックは、まるで磔にされているかのように全く動けていないのだ。



「り、リック! マズいよ!」


「然り! お、落ち着くのだリック!」


「あ!? なにが……っ!?」



 ようやく自分を取り押さえる人間の顔を見たリックが、驚愕のあまり固まってしまう。

 それもそうだろう。俺も驚いた。まさか、こんな大物が出てくるなんて。



「Sクラスパーティ『ヴァイオレット・ノイド』の参謀ッ! アルバス・アルカエストだとォ!!?!?」


「ああ、そうさ。そろそろ手を離してもいいかい?」


「は、はいィイ!!」



 Sクラスパーティといえば、国内に二つしかないトップチームだ。

 当然実力も折り紙付きであり、求心力だけでいえば王族にも匹敵する。


 冒険者にとって、それほど絶対的な存在である。



「すまないね、盗み聞きするつもりはなかったんだが、聞こえてしまって」


「いえいえ! こちらこそすみません! この無能野郎が聞き分けがなくって!」



 ドラゴンに睨まれた雛鳥のように怯えきったリックは、何度もペコペコと頭を下げ続ける。

 先程までの態度を知っている身としては滑稽だ。



「デューイ君をパーティから外すと聞こえたけれど?」


「え!? は、はい! 冒険者ならよくある事ですよ、へへへ」


「ふむ。つまりウチに引き入れてしまっても問題ないと?」


「……は?」



 フリーズ。

 リックとバーバラとゴードンは、俺の方を見て完全に固まってしまった。

 なんだよジロジロ見やがって、気持ち悪いな。


 だが、驚くにはちょっとばかり早かったようだった。



「待ちなよアルバスさん。ソイツは聞き捨てならんぜ」


「おやぁ? 『ワイルドガード』のデュオスさん」


「デューイさんは俺達が目を付けてたんだ。いきなり横入りは困るね」


「おい! デューイがフリーになるってのは本当か!? ぜひウチのパーティに!」


「デューイさぁん、私たちのパーティとかどうかしらぁ?」


「ぎ、組合(ギルド)の職員なんて安定してますよ! いかがでしょうか!?」



 なんか、面倒な事になってきたな。



「な、な、なんだこの騒ぎはよ!!」


「おう、リック。気が付いたか」


「デューイ! テメェ説明しろ!!」


「いや、説明って言われても……」



 別に、ちょっと顔が広いってだけだ。

 顔繋ぎは冒険者として当然の仕事のウチの一つだからな。


 混乱するリックに、集まった冒険者のうちの一人が話しかけてくる。

 仮にもBランク冒険者であるリックは、それなりに知られた顔である。



「おいリック、知らねえのか? デューイっつったら、この国一番の付与術師じゃねぇか! お前たちがBランクパーティトップの成績を残してるのも、全部デューイのお陰だってのによ!」


「は、はぁ!?」


「デューイ君、今までは『もうパーティがあるので』と断られていたが、これでもう問題はないだろう?」


「お、お前、ヴァイオレット・ノイドから勧誘されてたのか!? リーダーの俺を差し置いて!」


「え? デューイ君がリーダーだとばかり……」


「私もぉ」


「俺もだ」


組合(ギルド)の資料を確認します……うわ、ホントだ」


「マジじゃねぇか……」



 みんなの言葉を聞いて、リックのコメカミに青筋が浮いた。本気でキレている時の反応だ。



「デューイ! やっぱテメェはここでぶっ殺す事に決めたぜ! 援護しろバーバラ、ゴードン!」


「え、アタシいいわ……」


「ワシも……」


「役立たずが!!」



 デューイがもう一度流星剣を抜く。今度は、誰も止めないだろう。



「よせ、リック。もうお前は俺の仲間じゃない」


「だからどうした! テメェを殺して、テメェの無能さを証明してやるよ!」


「分からないのか? 仲間じゃないんだ」


「だから……っ!?」



 リックがバランスを崩し、膝をつく。

 そして、剣を取り落とした。まるで、疲れ果てて握っていられなくなってしまったかのように。



「な、何が……??」


「バフを解いたんだ」



 リックはすぐに立ち上がるが、自分の両手を見て不思議そうにしている。

 そこに、普段の力がないからだ。



「バフ、だと? 馬鹿言うな! 今の力は、普段よりもずっと弱い! ……そうか、デバフだな! テメェ、デバフ魔法が使えたのか!!」


「違う、バフだよ。もう仲間じゃないから、解いたんだ。普段の力より弱くて当然さ。お前のバフを解いたのは、実に十年振りだからな」


「はぁ!?」



 仲間になったその日から、俺はパーティ全員にバフをかけていた。

 一秒も欠かさず、寝ている間でもだ。



「言ったろう? 『俺はいつでもバフをかけている』ってな。()()()()だ」


「な、なな、そんな事、で、できるわけが……」


「やってたんだ。仲間だからと思って。どんな不意打ちにも耐えられるようにってな。でも、もう仲間じゃないから解いたんだ」



 そして、もうコイツらにバフをかける事はない。


 膝をついたり剣を落としたりしたのは、急に力が抜けたためだ。

 別に日常生活に支障はないだろう。



「で、まだやるのか? 言っておくが、お前らにバフをかけなくていい分、俺は自分にバフをかけるぞ?」


「……っ! クソ!」



 三人揃って、逃げるように酒場から出た。


 彼らの実力は、平凡な冒険者のそれだ。俺がいたから、Bランクパーティになれていた。

 もうそれを望めない彼らは、平凡に生きるしかない。

 自分の身の丈に合った生き方ならば、命に関わる事もないだろう。



「で、お集まりの皆さん」


「おお! そうだ、デューイ君。ぜひウチに」


「いや、ウチに!」


「私たちのパーティに!」


組合(ギルド)に!」


「頼むよ、デューイ!」


「ぜぇ〜んぶお断りします!」


「はぁ??」



 今回の件でもう懲りた。

 冒険者ってのは野心家ばっかりでいけない。俺には、もっとゆったりとした生活が合ってるんだ。



「田舎に帰る事にしたよ。冒険者はもう引退」


「も、もったいない!」


「もう決めちゃったもんね〜」


「えぇ〜!!」



 俺の引退は、どうやら結構騒ぎになったらしい。後から聞けば、せっかくの有望な新人だとか、未来を担う新星とか言われてたんだと。恥ずかし。


 ま、もう冒険者じゃない俺には関係ない話だけどな。

急にテンプレ書きたくなる事があるんですよ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 常にドーピングをしていたも同然なのに強化されている事を教えていなかったのは、子供への優しい虐待と同様で痛みや苦労を教えていなければ傲慢になるのは当たり前なのではないかな? [一言] こ…
[一言] バフをかけっぱなしっていう事はこの人がいないと戦えない身体になってしまったという事。 この人仲間にすると骨抜きにされてしまうという事ですね。 ある意味忌避すべき人ですね^^;
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