表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

昔話をする人は死亡フラグだったかな

 死亡フラグという言葉がある。


 故郷に帰って幼馴染と結婚するという人物は基本的に殺されるし、「冥土の土産に教えてやろう」と親切にいろいろな事情を教えてくれる人もだいたい殺される。映画や小説ではこのような条件を満たすとなぜか死んでしまうというジンクスがある。かくいう私――一条院楓いちじょういん・かえでも「こんな殺人犯がいる場所にいられるわけないじゃない! 私は部屋に戻らせてもらいます」と言って見事に死亡フラグを踏み抜いて死んだのだが、死亡フラグは一つではない。一つのフラグを回避しても第二第三のフラグがやってくるのである。


 なぜこのような話をしているかと言えば、おもむろに昔話をする人がいた場合、それは死亡フラグなのだろうか。安達の殺害方法が暗礁に乗り上げたあと、最初に口を開いたのは大沢一おおさわ・はじめであった。彼は教師らしからぬ情けない表情でため息を吐くと「こんなときに委員長ちゃんがいてくれたらなぁ」ともらした。


 委員長ちゃんという聞きなれない言葉に桜崎小春さくらざき・こはるが反応する。


「先生のクラスの委員長って高坂先輩じゃありませんでした?」


 高坂は丸縁メガネのいかにも真面目君である。別段、可愛らしいタイプでもない。むしろ、委員長君というあだ名がふさわしい坊ちゃん刈りの男子生徒である。彼を指して委員長ちゃんというのはいかにもおかしい。


「委員長ちゃんは俺の前の学校の生徒だよ。超有能で彼女に任せておけば体育祭から学園祭。学生の進路指導から恋愛相談までバッチリだった。楽だったなぁ。彼女がいてくれたらきっと殺人事件も解決してくれたに違いない」


 他力本願の極みのような発言に少年探偵団の三人――上川、結城、御堂が顔をしかめる。シェフの斎藤やメイドの川部、執事の光岡は何とも言えない表情で同じ大人の発言に応じた。唯一、興味を示したのは小春だけで彼女は興味深いとばかりにうなずいた。


「そんなに有能なら先生は本当にいりませんね」


 笑顔で悪意のない同意を向けられて大沢は少しだけ複雑な表情を見せた。


「……まぁ、俺がいるかいないかは別にして。委員長ちゃんがいてくれると、とても楽だった。例えば、体育祭ではクラスの人間をなだめ、すかし、挑発して玉入れや綱引き、騎馬戦と言った集団競技を総合優勝に導いた。学園祭では得意の中華鍋を振るって学園祭三日間で千二百食の炒飯を作った」

「得意の中華鍋って何ですか?」

「彼女の実家は中華料理屋なんだよ。これがまた古くて壁は黄ばんでるし、床は油でヌルヌルする。もう見た目としては最低なんだけど、餃子と炒飯だけは美味いんだ」


 余計なお世話に違いない。

 委員長ちゃんから言わせれば、家でも学校でも炒飯ばかり作らされてやってられない気持ちだったに違いない。それでもクラスのために働くあたり彼女の面倒見の良さはなかなかの評価に値するに違いない。きっと彼女は素晴らしく有能で美しく気品にあふれているに違いない。


「ほかの料理は?」

「ほか? 頼む人いたかなぁ? 基本的に委員長ちゃんの店って言えば餃子定食一択だからその他なんて食べたことないや。まぁ、でも委員長ちゃんなら何とかしてくれたと思うんだよね」


 私は思う。この人は美食家を気取ったりするのをすぐにやめるべきだと。


「えっ? いまの話の中に殺人事件を解決できるようなエピソードありました?」

「今のところはないね。というか別に委員長ちゃんは殺人事件を解決したことないよ。ただ、面倒ごとの解決が上手かったなぁって話だよ。とくに恋愛関係のもつれを解決するのが得意でね」


 大沢は何かを思い出したかのように笑うと小春が少し気味が悪そうに「なにに笑ってるんですか?」と訊ねた。大沢はニヤついていた口元を少しだけ引き締めた。


「ある女生徒に彼氏がいたんだ。彼氏はなかなか聡明で優しい性格だったんだけど、それが物足りなかったのか女生徒は彼氏とは別の男子生徒とも陰で付き合うようになった。それがどうやら、同じクラスの男子ということまでは分かったんだけど、それが誰かは分からない。彼氏は疑心暗鬼になってクラスの雰囲気がひどく悪くなってしまったとき委員長ちゃんが見事に間男を探してくれたんだ」

「どうやって見つけたんですか?」

「いや、それがひどい力技だったんだ。クラスの男子生徒をそれぞれ捕まえてお前が間男だろって締め上げていったんだ。それはもうひどい詰問で間男じゃない生徒が危うく自白しそうになるくらいだった。六人目で間男を見つけた彼女は女生徒の前に間男と彼氏を並べてどっちかを選びなさいってつるし上げて見事解決したんだ」


 果たしてそれは無事の解決だったのだろうか?


 修羅場を強制的に作り上げただけではないかと思わなくはないが、物事としては解決するだろう。誰一人幸せにならない形で。いや、一人だけ幸せになるものがいる。大沢だ。彼だけは生徒たちの阿鼻叫喚を他所におとなしくなったクラスが帰ってくるのだからよかったことだろう。


 しかし、大沢の言うような委員長ちゃんがこの場にいたとして殺人事件を解決できるのかは疑問である。

 容疑者である彼らをひとならべにして「お前がやったんだろう」と締め上げればいいのかもしれないが、そんな方法で犯人を見つけたと言えばいろいろな方面から怒りの声が満ち溢れるに違いない。


 解決するならばスマートにするべきだ。

 だが、スマートにやった結果、さらに被害者が増えた場合、いったい何を押してスマートというべきだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ