表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

少年探偵団は団子に負ける

 現在進行形で私――一条院楓いちじょういん・かえでが元婚約者である上川俊也うえかわ・しゅんやに未練があるかと問われれば、ないと答えるほかない。だが、過去においては彼に美点を見出したことも事実である。


 ただ、どのようなことも行き過ぎれば毒となるのと同じで、私と彼との関係に大きな齟齬を生じたのもその美点であった。正義感――これほど難しいものはないかもしれない。不変のように見えて千差万別の七色のこの感情は立場や見方ひとつで大きく変わってしまう。


 私が桜崎小春さくらざき・こはるを異常だと感じて遠ざけることは一つの正義感からである。だけど、彼の正義感は一条院が小春を不必要に嫌い、ないがしろにしているように感じられたのだろう。結局はなにを正義だと感じるのかだった。


 すれ違った正義感ほど互いを傷つけることはない。だからこそ私は彼の口から婚約破棄が出ることも予想していた。そして、この先にあるだろう二人の結末についてもおおよそ予想がついてしまう。正義感には常に敵が必要であり、悲劇のヒロインにも敵役が必須なのである。だが、私はいま死んでしまった。


 どんな物語でも敵を倒してハッピーエンドになるのものである。


 しかし、私が別の誰かに殺されてしまったのなら彼らはどうするのだろう? なにを敵にして正義感と悲劇を満たすのだろうか。


 私は上川たちが探偵団じみた正義感で、安達を殺した毒物を探すことは、失った敵――一条院楓をおぎなうための代償行為のように見えて仕方がなかった。だから、その試みがあっという間に成功してしまったことを残念に思った。


「これって……」


 最初にそれを見つけたのは、結城俊ゆうき・すぐるだった。彼が見つけたのは小さな白い皿にのせられた小ぶりの団子のようなものだった。なにかに齧られた様子はなかったが部屋の床、それもベッドの下に隠すように置かれている姿はいかにも怪しかった。


 結城が爆弾でも触るように慎重に小皿を引き出すと上川は黙ってうなずいた。そして、この部屋を誰が使っているか確認した。大沢一おおさわ・はじめは私たちが通う学園の教師である。そして、政治家の息子として私や上川とも付き合いのある名家の血族でもある。その彼の部屋から見つけられた怪しい団子が何なのか上川たちにはすぐに判断がつかなかった。


「御堂。食堂に行って光岡を呼んできてくれ」


 上川が言うと御堂は結城に行かせろと言いたげに結城を睨みつけたが、リーダーの命令には逆らえなかったのかすぐに食堂に向かうと執事の光岡を連れてきた。光岡は小皿に乗った謎の団子を覗き込むとはっと驚いた顔をした。


「若様。これは殺鼠剤いりの団子です。本来なら来客が来る前に撤去されているものですが……」

「撤去ということはこれは元からこの屋敷にあったものなのか?」

「ええ、そうです。この別荘は年に一、二度しか使われません。それでもいつでも使えるようにと最低限の食料や飲料が保管されております。そのため、ねずみが悪さをしないように部屋には殺鼠剤が置かれているのです。ですが、別荘を使用するときには管理の者が来客が食べたりしないように片付ける決まりになっているのですが」


 歯切れが悪い言葉に上川はすぐに気づいたのか、結城と御堂にすぐに自分たちの部屋と殺された安達の部屋を探すように命令した。困惑した顔で部屋に戻った結城と御堂はすぐに自分たちのベッドの下から同じ団子を見つけた。


 そして、安達の部屋でも同じものがベッドの下にあることを確認した。


 こうなれば毒について分かることは一つだった。慌てた様子で光岡が生存者の部屋を回って五つの皿を回収すると数は八つになった。さらにそのあと食糧庫からも発見されたため、殺鼠剤いりの団子は最終的に九つ見つかった。どの団子も齧られたような様子はないが、使う分だけちぎって丸めなおせば区別はつかないに違いなかった。


「これはどういうことなんだ?」


 御堂が苛立たしい様子で尋ねると、結城が少しひるんだ調子で「凶器は誰もが使える状態だったんだ。僕も君も上川君だって誰かに毒を使える状態にあったんだ」と答えた。それは彼らが考えていた結果とは全く別の事実であった。


 彼らは犯人が毒を持っていると信じ切っていた。


 だから、生存者を強引に食堂に押し込めて、部屋の中を探した。だが、見つかった毒は誰か一人だけが持っているものではなかった。すべての人間が等しく毒を持っていた。この事実は誰でも安達を殺せたということであり、同時にまだ毒を保有している人間がいるかもしれないことを示していた。


「犯人は分からないままなのか」


 唖然とした様子で上川が左右に声をかける。右にいた結城は「そうなるね。それどころか。すべての生存者が犯人である可能性を持っている」とあたりを警戒するような厳しい声を出す。


 左にいた御堂は引き攣った顔で「もしかして、安達のやつが間違って団子を食べて死んだんじゃないのか?」と問いかけるがそれが無理筋なことは御堂にも分かっていたらしく、皿に乗せられた団子に食べられた形跡がないことを上川に指さされてすぐに「だよな」と肩を落とした。


 それは少年探偵団たちの最初の敗北だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そもそも警察がきて捜査活動をいずれ行うと仮定すると、少年探偵団あるいは青年探偵団の行動は邪魔でしかないのでは? 別荘の中を犯人を探して調べ回るんだから指紋や毛髪といった犯人特定につながる情…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ