富山
1971年 7月3日
朝を迎え外を見ると雨が上がってまだ雲があるものの少し日差しが
見えている。
オートバイのエンジンも打って変わり好調で気持ちよく穴水の
ユースホステルを出た。
この日は「M氏」と合う予定でしたが約束の時間よりまだ間があったので
富山に着くと「ヤマハ」の営業所を尋ねオートバイをみてもらうことにした
のですがそこで思いがけない人物に出会った。
私は以前書いたように高校を卒業すると愛知県にある「フジパン」に就職した
のですが、その時の同期入社で同じ女の子を好きになり共に振られてやけ酒を
飲んだりして苦楽を共にした「Y君」が、なんとその富山の「ヤマハ」の
営業所で働いていたのです。
彼は私より前に「フジパン」をやめていたのですが富山にいるとは
思ってもいなかったし彼にしても私がオートバイに乗って富山に来るとは
思ってもいなかったであろう。
なんという奇遇、「ヤマハ」のオートバイを買わなかったなら、
北海道へ行こうと思わなかったなら、大雨に会いオートバイがトラブルを
起こさなかったなら、「M氏」が富山に来いと言わなかったら、どれ一つでも
欠けていたら彼と会うことはなかっただろう。
不思議な縁のめぐり合せとしか言いようがなかった。
再会を喜び合いオートバイを見てもらったが原因が分からずに
ディストリビューターを交換して貰った。
積もる話もあったのだが、「M氏」との約束の時間が迫っており
「Y君」と別れた。
待ち合わせ場所に行くと「M氏」が笑顔で出迎えてくれた。
家が路地に入っていてわかりにくいので出てきてくれていたのだ。
家に入ると「M氏」の奥さんが料理を作って用意してくれていたが、
仕事に行っていていなくて、その代わり娘さんがいたが人見知りするのか
黙ってぽつんと座っていた。
「M氏」が奥さんと別れた原因はギャンブルだったらしい。
「トヨタ」の寮でもよく正社員の部屋まで麻雀に出かけていって、
いつも
「勝った勝った」
と言って帰ってきていました。
東京でタクシーの運転手をやっていた時にイカサマ麻雀を仕組まれ、
大負けをしてしまい、お金が払えずタクシーを担保に取られた事も
あったという話や、又、一発勝負で有り金全部勝負したら裏目で外れた話、
お金が無くて若い燕になった話などを聞き、泊まっていけと言われたが、
迷惑をかけてはいけないと思い、ていねいにお断りし、お礼を言って
「M氏」の家を後にした。
この日は泊まる場所を決めていなかったので、行けるとこまで行って、適当な
所でキャンプをすることにした。
国道8号線を走り続けて柏崎から海岸線に入りテントを張れそうなところを
探し、風をしのげそうな場所を見つけてテントを張った。
よく考えてみたらこれがオートバイでの旅では初めてのキャンプになった。
一人きりだったのでかなり不安であったが疲れていたのですぐに
眠ってしまった。