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第91話 娘達の極秘ミッション

 未来からやってきたレム家長女・ケイトです。

 実は大分困った事になっていまして……


――ベリアーノ市・第3区レム屋敷周辺――

 

 尊い。実に尊い。

 やはり若き日の両親の姿というのは尊いものだ。

 二人の元気そうな姿を堪能したあたしは家から離れて数分の所で妹・リリィと合流した。


「どうだった……?」


 リリィは不安げな表情を浮かべている。


「ん。元気そう。とりあえずお父さんとお母さんがあたしの事に気づきはしたけれど誰なのか忘れている様子が確認できたわ」


「ってことはその辺の影響は大丈夫って事よね」


「でも、ここから先の未来は干渉が難しくなっていくと思う。あたしもどの段階までいられるかがわからない」


 両親に起こった現象は歴史の修正力が働き始めた結果だ。

 実はあたし達の名前は3人の母親がそれぞれ考えつけ合ってくれた名前だ。

 それぞれに意味や思いが込められている。

 

 あたし達はそれを事前に名乗ってしまったわけでその辺の名づけエピソードがどうなるかという心配があったがどうやら大丈夫そうだ。

 それに伴い、あたし達に出会った記憶も薄れて行っている様だ。

 そしてそのきっかけは……


「まだ自覚はしてないと思う。でも母さんのお腹にはあたしが居る状態だと思うわ。昔の記憶との差異はどう?」


 計算すればいいのだがそういった事はリリィの方が早い。


「そうね……元の記憶より少し早い。誤差としては一ヶ月程度だけど」


 多分、あたし達の存在が色々と発破をかけたんでしょうね。

 これは誕生日が変わるわね……

 今までは『あたし』が同じ時代に存在していなかったので干渉しやすかったが今後はそうはいかない。

 お腹の中にいる『あたし』がある程度まで育てば完全に干渉できなくなるだろう。

 時間的な猶予はあまりない。


「どうする?アリスを連れてくる?」


「ダメよ。あたしに関する記憶は消えていてもアリスに関する記憶はまだ若干残っているかもしれない。それにそう易々と何度も時間を移動できない」


 リリィは生まれたのがあたしと数か月しか違わない。でもアリスは2歳も下の子だ。

 十分に可能性はある。


「そうか……厄介な事になったわ」


「ひとつはあんたが蒔いた種だけどね」


「うっ……ご、ごめん」


 珍しくリリィがすぐ謝る。

 元の時代に戻った後、変化が起きていた。

 本来歴史には修復能力があるのでよほど大きなことをしない限り強烈な変化は起きない。

 遡ったあたし達には修正前と修正後、両方の記憶が残ってしまう副作用があるがまあそれは仕方がない。

 あたし達の接触による影響は最小限で済んだはず……だったのだが……とんでもないことが起きていた。


 いとこの存在が消えていた。

 どういう事か?

 エミィおばさん、つまりメイママの妹さんが未婚だったのだ。

 まあ、あたしとは血の繋がりはないが『家族』という繋がりはある。

 この世界ではそう言う繋がりの方が重要なのだ。勿論、血の繋がりも大事だが……

 元居た時代ではエミィおばさんは結婚していたはずだ。

 それが未婚……あたし達は顔を真っ青にした。


 色々聞いてみるとあたし達が知っている歴史と辿ってきた歴史で大きな差があるポイントに気づいた。

 それはメイママとエミィおばさんの和解した時期について。

 本来なら二人の和解はリリィが生まれる時だ。

 妊娠がわかった時に再会し、出産の際に『シャイナス』であるおばさんが立ち合いそこから和解。

 

 だが、新しく修正された歴史では妊娠がわかる前に再会して和解している。

 変化は主にリリィ周りで起きていたので妙に思い問い詰めたところすぐにゲロった。

 

 以前この時代に来た時、メイママに将来済む家についての情報を教えた、と。

 本来、あの家に住むのはもう少し後の出来事。確か春先であったはず。

 だが不用意に情報を与えたことにより予想より早く家を持ち、そしてエミィおばさんと再会、和解してしまった。

 

 思うに本来ならその時期にエミィおばさんは旦那さんに当たる人と出会ったりしていた可能性もある。

 ちなみに『お父さんが注射大嫌い』という情けない情報も追加されていた。それは別に知りたくなかった。


「どうにか修正しないと。下手をしたらあんたの存在に影響があるかもしれない」


 リリィ周りを中心に影響が出ている。

 下手をすればほころびが大きくなっていき最終的には妹が消えるかもしれない。

 いや、今こうやって目の前に居るのなら生まれるのは確定では無いのかと思えそうだがそうとも行かないのが修正力恐ろしいところだ。あたし達を過去に送ってくれた大賢者様はそう言っていた。

 今は大丈夫でも時間と共に影響が出るかもしれない。

 

 あたしは腕に嵌められたブレスレットを見る。

 埋め込まれた宝玉は緑色。

 これは大賢者様に貰ったもので歴史における自分の存在が安定していることを示しているらしい。

 一方で同じブレスレットを嵌めているリリィの宝玉は黄色。

 やや不安定という事らしい。

 即ち、何かの拍子に存在が消える可能性もあるという事だ。

 現にいとこは既に存在が消えている。


「ケイト……私……」


 リリィがいつになく不安な表情を見せる。


「大丈夫よ」 


 存在が消えてしまう。

 そんな事は絶対に許されない。

 小さい頃から喧嘩ばかりしているがそれでも大事な妹だ。

 エミィおばさんが結婚すればいとこも戻って来るはず。


「どうにかしてエミィおばさんを結婚させないと。だだ……」


 重大な問題がある。


「エミィおばさんの旦那さん、どんな人だったか覚えている?」


 リリィの顔が恐ろしく険しい者へと変化する。


「どうしよう。そう言えば会った事ない」


 やはりそうか。

 エミィおばさんには何度か会ったことがあるしいとことも何回も遊んだ。

 だが彼女の夫については会ったことが無かった。

 そもそも、気に留めもしなかったのだ。


「実は私、父様がそうだって思っていたから……」


「あのねぇ……と言いたいところだけどあたしも5歳くらいまではそう思っていたわ」


 何せ物心ついた時から母親が3人いた。

 そして3人ともが分け隔てなく接している。

 一応、呼び方で変化はつけているがあたし達も全員を母として慕っていた。

 そういった家で育ったものだから家によく出入りしていたエミィおばさんもそのクチだと思っていた。

 その事をおばさんに話すと随分と笑われ『私にはそう言うのは無理ね。独占欲が強いから』と否定された。


「もしかしてあたし達が会っていた段階ですでに離婚していたのかな、おばさん」


「どうかしら。ナダ共和国で離婚って結構凄い事よ?」


 ナダ共和国では離婚という言葉の意味はかなり重い。

 夫か妻に『相当』重大な過失が無い限りはそうそう離婚には至らないものなのだ。

 ちなみにメイママとエミィおばさんが離れ離れになった原因はおじいさんの浮気による『離婚』が原因だ。

 ナダ共和国において浮気はかなりの『悪行』なのだ。


「もしかして死別していたとか……或いは……ワンナイト?」


「え!?何かエミィおばさんのイメージじゃないよ。それなら死別の方じゃあない?」


 あたしもそれには同意だ。


「くっ、こんな事ならもっと家族周りを色々知っておくべきだったわね」


 とんだ失敗だ。


「ケイト、どうする?ほとんど難易度SSのクエストよ?」


「それでもやるしかないわ。まずはおばさんを見張りましょう。そこでそれっぽい男性と接していないか見極めるのよ」


 とここまではリリィ関連だがもうひとつ、不安要素がある。

 それはあたし達全員が招いたミス。

 実は結婚の順番があたし達の影響で変わってしまったのだ。

 本来なら2番目の妻はアリスの母、つまりリズママのはずだった。

 リズママが先に結婚し、少し経ってからメイママが追いかける形で結婚。

 だがあたし達が目撃したプロポーズでは順番が変わり、しかも同日結婚となっている。


 まあ、それでもリズママとの間にアリスが出来るのは結婚してから結構経っての事だったから問題ないと思っていた。

 だがもしかしたらこれも何か変化が起きているかもしれない。

 それこそ、リリィとアリスの順番が変わっている可能性だってあり得る。

 もしかしてリリィの存在が不安定状態なのはそれが原因かもしれない。

 とは言え今できることはエミィおばさんに関する事だ。

 出来ることから一つずつやっていこう。

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