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第89話 イシダ・シラベは様式美を大切にする

――メール湿地帯・遺跡リング――


 俺はユーゴ。本名は団勇吾、高校2年生だった。

 幼馴染で片思い中であった的場巴を思い切って遊園地デートに誘った帰り、黒ずくめの怪しい男たちを見つけた。

 その男たちの怪しげな取引現場を目撃した……というわけではなく普通に帰っていたがそこで暴走したトラックが子どもに突っ込もうとしていた。

 俺は子どもを助けに走りそして……見事に死んでしまった。

 まあ、軽率な行動だったかもしれないが言うじゃあないか。『誰もが勇気を忘れちゃいけない』って。

 俺の勇気ある行動が神様の目に留まったのだろう。


<団勇吾。私は君の勇敢な行動を見た。自分の危険も省みず、子供を助けようとした君に感動した>


 神の眷属と呼ばれる存在の手によって俺は異世界転生されることとなった。

 異世界へ行く際、何か特典を付けてくれるという事で俺は『異世界で楽に生きていける強い武器が欲しい』と願った。

 結果が魔剣フッケバインだ。

 

 異世界転生した俺はたまたま近くに居たパーティに拾われ彼らと一緒に旅をすることとなった。

 頼れるリーダー、剣士のパオロ。

 姉後肌のランサー、リオネッタ。

 エロ聖職者、トロメロ

 お転婆魔法使い ティニア。


 俺達は冒険をしていく過程でこのナダ共和国に革命を起こし政権を転覆させようとするテロ組織、ナダ解放騎士団と幾度か剣を交えることとなった。

 その辺りから徐々に剣の魔力に取りつかれていた、

 やがて色々な事情で仲間が抜けていき俺とティニアだけがパーティに残った。

 ナダ解放騎士団は……気づいたら壊滅していた。特に決戦とかはしていない。

 その頃には俺は魔剣の悪影響で完全に嫌な奴になっていたと思う。

 弱気を助け強きをくじく正義の味方からはかけ離れた名声などを求める輩になっていた。


 そして今、そんな俺は同じく転生者だというナナシさんによって叩きのめされ正気を取り戻せたわけだが……

 


「これが私の新たな研究成果。『魔獣融合化』よ!!」


 ナダ解放騎士団の中枢にいた幹部のひとり、イシダ・シラベ。

 こいつが突然現れて何というか……モンスターに変身しやがった!?


◇ナナシ視点◇


「四ツ角魔獣クアドラトロンと襟巻竜サンザードの融合合体モンスター。その名もサンドラトロンよ!!!」


 サンドラトロンと融合したイシダが誇らしげに高笑いを上げる。


「これは……合体怪獣というやつだね」


 そう言えば転生前にイシダの家に招かれたことが一度あったのだが家のあちこちに怪獣フィギアが飾られていた。

 あー、確かにこいつ好きそうだよな、こういうの。


「お兄さん、知っているの!?」


「その界隈では有名だよ。基本的に超強い」


 合体すると強くなるというのはある種の常識だ。


「さぁ、この世界に新しく誕生したモンスターの威力を見せてあげるわ!!」


 襟巻が太陽の光を受け光るとサンドラトロンの口から熱線が放たれる。


「メイシーお願い!黒曜壁(デシルト)!!」


「はいっ!!」


 アンジェラに防御障壁魔法である黒曜壁(デシルト)をかけてもらったメイシーがマーナガルムの大楯を構え前に出て熱線を防ぐ。

 メイシーは周囲の空間把握能力に優れており状況を見ながら最善の行動を取る事の出来るスキルがある。

 今もアンジェラの掛け声で何を求めるかを素早く察して前に出てくれた。

 ならば俺も負けてはいられない。


「メイ、少し踏むぞ!!」


 俺は少しジャンプしマーナガルムを足場にさらに飛び上がる。


「え!?ちょっと何を!!?」


「こうするんだよ!!」


 俺はフライングボディアタックを敢行。

 だがあっさりとキャッチされ地面に倒される。

 奇襲失敗か。


「うぇぇぇっ!?お兄さんってば何でいきなり飛び込んでいるのさ」


「さ、流石ナナシさん。あたしが作戦を考えようとしてる矢先に飛び込んでいく……」


 いや、ここは接近戦を挑むのが俺のスタイルだしな。

 それに多分遠距離からちまちまやっても倒せない相手だと思う……

 とか考えていたら倒れていた俺に踏みつけ攻撃が来る。

 一発目は被弾。


「ぐうぬっ!!」


 体重がしっかり乗せられており中々に強烈だ、

 サンドラトロンは大きく跳びあがり2発目を見舞おうとする。

 俺は素早くブリッジで起き上がると肩車をするように相手に組み付く。

そして片腕を頭に回すとそのままサイドに正面から顔面を叩きつけた。


「ちょっとティニア、あの人何で怪獣相手にプロレスをしてるんだ!?」


「プロレス?よくわからないけどユーゴもああいうのでやられたからね?」


「まあ、そうだな……」


 何だか外野が騒がしいようだね。

 そんな事を考えながら俺はサンドラトロンの喉元に何度のチョップを打ち込む。

 このまま一気に押し通す……と思った瞬間。

 サンドラトロンの襟巻から閃光が放たれ目が眩んだ。


「バカめ。調子に乗るからこうなるんだよ、七枝がぁーーーっ!!」


 おぼろげな視界の中、サンドラトロンが爪でこちらを斬り裂こうとしているのが見えた。

 だが正確に見えないので迎撃が難しい。

 そこへリゼットが割入って紅色刃で攻撃を受け止めていた。

 そう、俺は一人で戦っているわけではない。


「ありがとうリズ。そして……」


 俺はサンドラトロンに組み付くと何度も膝蹴りを食い込ませていった。


「これ以上は好きにさせやしないぜ!!」


 更にローリングソバットで蹴り飛ばす。


「七枝ぁぁ―――っ!!」


 キレた。

 こいつ、昔から急にキレるから嫌いなんだよなぁ……

 サンドラトロンが襟巻を広げ太陽エネルギーを吸収しようとする……が。


「な、何だ。上空に濁った水の……膜?」


 サンドラトロンの頭上に広がる水の膜が太陽光線の吸収を阻んでいた。


水障膜(アクラ・フィルス)!エネルギーの吸収はさせやしない!!」


 ナイスアシストだ、アンジェラ。


「くっ、溜まっている分だけでも熱線は撃てる!!」


 やぶれかぶれに口から熱線が放たれる。

 だが……


「マーナガルムフォーム!!!」


 メイシーとの絆である鎧形態に変化するとマッスルポーズを決め熱線を弾く。

 うん、素晴らしい。


「何よ、それ……そんなの、本気でズルいじゃん!!」


 とは言っても俺の能力ってこういうものだからな。

 苦情は受け付けない。

 俺は地面を踏み砕きながらサンドラトロンに駆け寄り組み付くとその襟巻を力任せに引きちぎる。

 やはり襟巻と言えば取らなければいけない。これはある意味様式美だ。

 更に2発、3発と顔面にパンチを入れると後ろへ跳び距離を取る。

 両手を大きく広げ金色の球体を作り上げた。


「ガルムレッキングゥゥゥゥゥ!フィストォォォォォォォ!!!」


牙を剥くエネルギー体の狼が駆け抜けサンドラトロンに直撃。

サンドラトロンの動きが止まり、そしてゆっくりと前のめりに倒れ同時に爆発した。

イシダ・シラベ、やはりこいつ散り様まで完璧に考えて盛り込んでいるというわけか。

だって別に爆発する必要はないし。


「ナナシさん、倒した!?」


 アンジェラが駆け寄ってくる。

 俺は爆炎をしばらく凝視し……


「いや、恐らく本体は逃げているな。あいつはそう簡単に終わらない」


 これで終わるなら楽なのだが本当にあいつはそう言う奴だ。

 某黒光りする虫よりもしぶとくて厄介だ。


「まあ、何度来ても倒してやるがな」




◇イシダ視点◇


 はぁ、やっぱりあの七枝という男は期待通りの事をやらかしてくれる。

 様式美にこだわる私が満足するあの立ち回り。

 襟巻を引きちぎられた時などは思わず絶頂してしまいそうになった。

 最後はエネルギー技で締めるのも非常にポイントが高い。

 私もそれに応えるべく、敢えて不要な爆破演出をして撤退させてもらった。

 とてもいいデータが集まった。

 これを基に次の融合魔獣を作り上げてみよう。


「んふふふ、やっぱりあいつって最高に面白いわ」


 正義と悪。決して交わらない平行線を歩いているが通じるものもまた存在する。

 ボロボロになりながらも満足した私はメール湿地帯を後にした。


読んでくださってありがとうございます。


面白い、続きが読みたいと思った方は是非、評価とブクマをよろしくです。

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