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間話 異世界でクリスマスを過ごした件・新婚編

今回は本編から少し離れた間話。

シーズンもののエピソードです。

 クリスマス。

 それは転生前の世界では聖夜と呼ばれていたり、大みそかに並ぶ一年最後の大イベントだ。

 まあ、転生前の俺、七枝良哉には縁遠いイベントで毎年大抵仕事であったと思う。


 さて、この異世界にもクリスマスは存在する。

 一年最後の月となる『碧猪の節』。その20日から25日の10日間がクリスマス期間となる。

 そして最終日25日はこの世界の主神と言われる女神の降臨日、として祝われている様だ。

 他の転生者に話を聞いているとこの異世界に普通の手順で転生してくる場合に出会うのが女神の子どもみたいな存在らしい。

 

 恐らく俺はイレギュラーな転生をしたのだろう。

 そんな高尚な存在に会った記憶は一切ない。


 そんなクリスマス期間であるがこの世界ではどのように過ごすかと言うと『家族や友人と過ごす』ものである。

 この期間はギルドの依頼も激減し、受付も午前中で閉まる。

 要するに『働くな、家族といろ』という事だ。

 まあ、『碧猪の節』に入ってからは報酬も普段より少し多めになる傾向がある。

 というわけで仕事が減るまでの間にある程度稼いでおこうというのがこの月の過ごし方だ。


 

 さて、俺はこの世界に来てから4年弱経っている。

 クリスマスをどのように過ごしていたかという、実はほとんどをアンジェラと過ごしていた。

 1年目~2年目はオーガスの事件で更に記憶を失って旅をしていて落ち着けはしなかった。

 3年目あたりになるとアンジェラとは恋人のような関係だったのでサートス村で一緒に過ごしていた。

 そして今年……そう、今年は急に家族が増えた。

 まずアンジェラと正式に夫婦になり、その後リゼットとメイシーとも結婚してベリアーノに引っ越した。

 というわけで今年は4人で過ごすことになる。


――ベリアーノ市3区――


 商業区である3区の裏路地にその秘密の店『マーレ&エブニー商店』はあった。


「よく来たな、ナナシ」


 メガネをかけた初老の店主、エブニーはナナシを確認すると胡散臭い笑みを浮かべ3つの包みを棚から取り出す。


「あんたの依頼通りの品だ。割高になるが構わんかね」


「済まないな。どうもこの世界のクリスマスは慣れないよ」


「元居た世界と同じだと考えない事だ。この時期の利便性は大きく低下する。来年からは気を付ける事じゃ」


 店主のエブニーもまた、異世界転生者である。

 以前、ある以来で知り合い友人になった。


「お前さんみたいなのはこの世界じゃあ変わり者だ。だがまあ、せいぜい頑張る良い」


「ああ、ありがとうさん」


 俺は店主に礼を言うと店を後にした。


――ベリアーノ市・第3区レム屋敷――


「ただいまー」


 エブニーの店で購入した品を手に戻るとリビングで妻たちが腕を組んで待っていた。

 やはり急に出かけたことを咎められることなった。

 まあ、この世界においては『不要不急の外出』にあたるものな。


「お兄さんさ、クリスマス時期に何処へ行っていたのさ?」


「必要な物品は買い揃えているはずです。この期間は大手を振って暖かいところで引きこもりが出来るというのに」


 ああ、そう言えばメイシーは元引きこもりだったな。


「あのね、ナナシさん。この時期なんかお店もほとんどやってないでしょ?ギルドだって緊急クエストでも発生しない限りはほとんどお休みに近いし……ていうかその包みは何?」


 アンジェラが荷物に気づく。


「ああ、これね。いや、この世界の習慣には合わせようと思うのだが俺が元居た世界の習慣をどうしてもしたかったんだ」


「習慣?」


 リゼットが恐々聞いてくる。

 どうもこの間のこたつ騒動が尾を引いているのかな。


「あれでしょうか?皆で筋トレする習慣があるとか?」


 いや、そんな習慣は俺の世界にはない。

 確かに良く腕立てと化しているけどさ……


「この1年、俺は最高に幸せだった。世間から冷たい目で見られ続けた幼少期、そして大人になってからも仕事ばかりでずっと孤独だった俺は君達と出会って家族になれた。皆には本当に感謝している」


「感謝だなんて、あたし達の方こそよ」


「それでな……俺の世界ではこの時期に大切な人に贈り物をする習慣がある。アン、メイ、リズ……受け取ってくれないか?」


「「「!?」」」


 驚いている3人にそれぞれに包みを渡す。

 この世界にはクリスマスに贈り物をする文化は無い。

 だが俺は敢えてそれを行おうと思う。

 アンジェラには赤いマフラーとペンダント型の魔道具。

 メイシーには黄色いマフラーと大楯に装着する為のプレート。

 リゼットには青いマフラーと青色の鍵。


「これ……あれじゃないの?あなたが記憶を取り戻した時の……」


「専用アイテムはクリスマスの思い出がよみがえった時に出て来たんだ。3人分ね。それとマフラーについては店が開いてなかったから知り合いに頼んだ」


 クリスマス期間に店がほとんど営業していないという事を失念していた。

 前の世界だと割とギリギリでも間に合っていたがこれには本当に慌てた。

 そこで色々な商品を取り扱っている胡散臭い転生おじさんを頼ったわけだ。


「本当。何をこそこそしているかと思えば……あなたには驚かされてばかりね」


「贈り物の習慣は確かにありませんでしたがこれは……確かに素敵ですね」


 メイシーがぎゅっとマフラーを抱きしめている。


「ありがとう、お兄さん。大事にするね……ってあれ?でもボク達お兄さんに何も贈るもの無いよ?どうするアンジェラ、メイシー!?」


「いやいや、もう素敵なものを貰っているから大丈夫だよ」


 そう、『家族』という大切なものを……


「ま、まさか新婚で私達の〇〇を貰ったというのがとか……」


「こら、メイシー!台無しにするんじゃない!!」


 いや、本当それな。

 台無しじゃん!!

 これからもこうやって毎年過ごしていきたい。

 そんな異世界でのクリスマスだった。


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