第87話 肉体言語VS魔剣
――ベリアーノ市郊外――
◇アンジェラ視点◇
何かがヤバイ。
そう感じたあたし達はユーゴが行っているであろうメール湿地帯へと向かう事にした。
移動は最近、ナナシさんが出してくれた魔法の絨毯改め『魔法の絨毯・改』。
この間、卵を味付けご飯の上にかけた料理を出した時に『オムライスだ』と言った拍子に出現してくれた。
彼は「新しく戻った記憶がオムライスって……』と落ち込んでいたが魔法の絨毯を喪った私としては嬉しい限り。
絨毯には『改』という文字が刻まれておりこれはどうやら彼の世界の言葉で改良版であることを示す文字らしい。
改良点としては積載量が明らかに増えている点。
スピードに関しては残念だが初代の方が出ていたと思うが他の皆は喜んでいた。
初代のスピード、良かったのに……
「…………何よこれ」
パーティに加わったティニアは魔法の絨毯に乗ってか「何これ」とか「こんな魔道具みたことない」とか何度も言っている。
まあ、確かに珍しいのかな。
「ティニアさん、ユーゴさんは2年前にあなたが居たパーティに合流したのですよね?という事は他にもメンバーが居たと思うのですが……」
「うん、ウチ達のパーティはウチのほかにリーダーの戦士、ランサー、プリーストが居たの。で、ユーゴを加えて冒険をする過程でこの国を密かに転覆させようとしている組織『ナダ解放騎士団』っていう危ない連中と戦うようになったの。ちなみにソニアは最近は言ったメンバーなの」
ナダ解放騎士団。
いかにも危なそうな名前ね。
「ナダ解放騎士団は身体の一部をモンスターと合体させる特殊な魔道具を持っていて戦いは熾烈を極めていったの。それで……」
そうなんだ……
その過程で仲間が散っていって残ったのはユーゴとティニアって事だったのね。
「剣士のパオロは敵の女性幹部と恋に落ちて駆け落ちをしたの。ランサーのリオネッタは指名手配されている泥棒だったらしくて途中で捕まってしまって離脱。プリーストのトロメロはサキュバスのお店に行ったきり帰って来なかった……何でもNG行為をしちゃったらしくて怖い人に追いかけられているのだとか…………」
「えーとごめん。何だか皆ロクでもない理由で離脱しているよな、それ……」
ナナシさんも流石に呆れていた。
多分、剣士の人が一番まともな離脱をしていると思う。
「ていうか、そんなガタガタな状態でナダ解放騎士団との戦いって」
心配するリゼットにティニアは親指を立てて……
「意外と何とかなった。ある日突然、壊滅してくれたから」
あたし達の知らない所でそんな戦いが起きていたとは……
というか『ナダ解放騎士団』とはまた大層な名前だなぁ。
「というわけで、ウチと彼は途中からずっと2人で戦って来たの。でも段々と彼が粗暴になってきて、魔剣も肌身離さない感じになっていって……」
ナナシさんの読み通り、原因は魔剣フッケバインにありそうね。
要するには『魅入られた』という事。
そんな風に話をしているとメール湿地帯が見えて来た。
湿地帯に突入して間もなく、目に見えて分かる異常があった。
あちこちに浮くワニの死体。そのいずれもが切り刻まれていた。
そして湿地帯に巨大な円形の台座、まるで闘技場の様なものが出来ていた。
ここは遥か昔、闘技場があった場所とされておりそれが遺跡として残っている場所がある
そしてその中央に立っているのは……
「ユーゴ!!」
ティニアの呼びかけに魔剣の使い手はゆっくりとこちらを見上げニタリと笑う。
「よぉ、来ると思ったぜ。転生者ナナシ!」
この男、ナナシさんが転生者だと知っている?
「フッケバインが囁くんだよ。あんたを叩き切れってな。そうすれば俺の目的達成に一歩近づくってなぁ」
「随分と物騒な事を囁く魔剣だね。ところで君と一緒に居たソニアと言う女性はどうした?」
「そんな事はどうでもいいだろ?なぁ、相手してくれよ先輩さん!」
まあ、これまた凶悪な面構えになっている事。
「絶対これ何かある……罠だと思う」
「そうね、ティニア。明らかにナナシさんを誘っている。これは何かあると思うわ。ただね……」
あたしは絨毯の上でストレッチをするナナシさんを指さす。
予想はしていたけれどワクワクしている感じが伝わってくる。
「えーと、あれは何を……」
「お兄さんはやる気満々だね」
「まあ、今更驚くことでもないですね」
「ええっ!?ちょ、この夫婦何でそんな冷静なの!?」
うーん、まあティニアが驚くのもわかるけど何というか……
「慣れ……かな?」
「慣れるの!?」
そう、慣れなのだ。
リゼットもメイシーもうなずいている。
「それじゃあちょっと行ってくるわ」
そう告げるとナナシさんは魔法の絨毯から闘技場目掛け飛び降りていった。
「望み通り来てやったぞ、ユーゴ君。彼女らには手出しさせない。1対1で行こうじゃあないか」
「カカカ、あんた馬鹿だろ?素手で魔剣に敵うと本気で思っているのか?」
「知っているかね?勝敗を決するのは、武器の性能差ではないぞ?」
◇ナナシ視点◇
恐らくこれは何かしらの罠があるだろう。
不自然に姿が見えないソニアの存在がそれを物語っている。
きっと何か悪だくみをしているのだろう。
とは言え魔剣の使い手と戦える機会など早々無い。
それにどちらにせよ彼を正気に戻しティニアの元に返すには一度叩きのめさないといけない……と思う。
正直ちょっとワクワクしてきた。
「行くぜぇぇ!!」
魔剣を構え、ユーゴが突撃してくる。
「気を付けて。魔剣フッケバインは鉄をも斬り裂く切れ味だから!!」
上空からティニアの声が響く。
まあ、それくらいでないと緊張感もない。
俺はユーゴが剣を振るカウンターとしてその鳩尾にカウンターで膝を突き刺す。
「がふっ!」
「まだ行くぞ!!」
そのままローリングソバットを叩き込もうとするとが剣で受け止められこちらがバランスを崩す。
「む?」
「甘いんだよ、おっさんが!!」
俺の背中目掛け魔剣が振り下ろされる。
素早く前へ出て避けるが背中を少し斬られる。
チッ、少し貰ったか。今のは不用意な行動をした自分のミスだ。
「ほらほら、気を付けないと真っ二つだぞ!!」
勢いづいたユーゴが剣を振るってくるがそれを空中で回転しながら蹴り上げ組み付く。
「な、何をする気だ!!?」
そしてユーゴの右腕を左足でフックし、左腕を手前に勢いよく締め上げる。
「ぐぁぁぁぁぁ!!?」
「たっぷり味わってもらおう。これぞナナシ式変形卍固めだ!!」
◇ティニア視点◇
「ちょっと何あの人!魔剣使いのユーゴに組み付いて変なことしてるけど!?」
もう意味が分からない。
どう考えても魔剣使いのユーゴの方が有利なはず。
それなのにこの人は正面からそれに挑み挙句、変な技をかけている。
「あれは関節技ね」
「ええ、関節技ですね」
「うん、関節技だね。それにしてもお兄さん、凄く綺麗に極めたなぁ」
奥さん3人は驚くどころか感心している。
どうもこの人たちも普通ではない。
そうこうしていると激痛により、ユーゴの手から剣が落ちた。
「クソ!剣が、剣がぁ!!」
「まあ、落としたくらいで正気に戻るとも思っていないよ。だからちょっと痛い授業料を払ってもらう事にしよう」
そう言うと彼はユーゴの腕を背面に「く」の字になるように自分の腕を絡めて曲げる。
うわ、痛そう……
「くっ、こ、こいつ何を!?」
「え?ちょっと、あの人何を……」
そしてそのまま勢いよく回転すると背面から後方に叩きつけた。
「えぇぇぇぇ!?な、何あれ!?」
あたしの驚愕に金髪の奥さんは首を傾げる。
「いや、何って……投げですよね?」
「だよね。投げただけだよね。え、何か不思議だった?」
ボクっ娘奥さんも『それが何か?』といった表情。
最後の砦とばかりに赤髪の奥さんを見るが……
「大丈夫。ああいうのって我が家ではもう日常の光景だから。それにしてもいい投げだったわね……」
日常の光景!?
本当にこの人達、何なの!?
「がはぁっ!!」
呻き声をあげ、ユーゴは白目を剥いて気絶した。
技を解いたナナシさんは腕を高々と挙げ勝利を宣言。
「えぇぇっ、か、勝っちゃったぁぁ!!?」
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