第86話 魔剣の転生者と追放魔法使い
俺はナナシ。
異世界に転生し何やかんやあったが大事な女性3人と結婚し生活している。
さて本日だが……朝から凍り付いたぜ。
――ベリアーノ市・第3区レム屋敷――
その日の朝、起きて来た俺は歌を口ずさみながら厨房に立つアンジェラを見つけた
ああ、やはりいい尻だ。リゼットやメイシーも中々いい尻なのだがアンジェラはその丸みと言うか、何とも言い難いぐっとくるものがあるのだ。
そんな感じでひとしきり感動した後、俺はある事実に気づいて凍り付いた
厨房に立っている。即ちアンジェラは今、『料理』をしているのだ。
後から来たリゼットも「おは……」まで言って凍り付いた。
「なぁ、リズ。これはどういう事だ。何故アンが厨房に立っている?確か今日の当番はメイだったよな?」
「そ、そのはずだけど……」
基本的にアンジェラは食事担当に割り振られない。
コランチェに住んでいた時からそうであったがともかく料理の腕がよろしくない。
鍋を爆発させたり、サラダが溶けていたり訳の分からないことになる。
だからサートス村にふたりで住んでいた時も料理をするのは俺だった。
「二人共おはよう。もうすぐ出来るから座って待っていてね」
それぞれアンジェラと挨拶を交わす俺はリゼットにと耳打ちする
「あ、あれかな……メイが寝坊したとか?」
「多分そういう事かな……」
何てことだ。
ゆうべはメイシーの所で休む日であったが読み切りたい本があったので一緒に過ごすのは別の日にしてもらい自室でゆっくり読書に耽っていた。
そういう事は時々あるのだが、それがまさかこんな事態を生むとは……
「おはよーございまーす」
眠たそうに眼をこすりながら降りてきたメイシーはやはりアンジェラを見て凍り付く。
「……二人共、その……すいませんでした……」
「いや、構わないさ。こういう事だってある」
こうして今日の朝はアンジェラ特製、ハードポテトサラダとスープに見せかけたサラダ、そしてパンというメニューが振舞われた。
何故かサラダが2品あるがひとつは何故かスープ状になっているのでまあ、いいのだろう。
パンは既製品で良かった。うん、本当に……本当に良かった。
――ベリアーノ市第4区・冒険者ギルド――
◇アンジェラ視点◇
クエストボードの前であたし達は今日受けるクエストを吟味していた。
気を付けないとナナシさんは『面白そう』ととんでもないクエストを受けようとする癖があるので見張りが必要。
今日はあたし達が3人で脇を固めている。
この辺は結婚前から何ら変わらない習慣だったりする。
「これなんかどうだ?必殺ワニの討伐!面白そうだぞ」
「『必殺』とか何か怪しいからパスね」
中級だが報酬が50万と言う辺り余計に怪しい。
「うーん、それじゃあクランチダイルの討伐でもまたやっておくか?」
また増えてるんだ、あのワニ……ていうかワニ好きねこの人。
何かしらこだわりがあるのかな?
まあ、あのワニ見た目より弱かったし報酬もそこそこだから丁度いいかもしれない。
あたしはリゼットとメイシーへ目をやる。
二人共『これならいいよ』と言った感じで首を縦に振る。
「よし、決定だな。それじゃあ……」
だが、彼が手を伸ばした依頼書は横から伸びて来た別の手によって剥がされる。
「悪いね、おっさん。このクエストは俺らが貰うぜ」
依頼書を横取りしたのは若い男だった。
イケメンだが何というか……あんまり好きになれなさそうなタイプの顔。
男は二人の女性を連れていた。
銀髪の少女でローブを着ていることから恐らくは魔法使い。
皮の鎧と槍を装備している少女は戦士系の職業だろう。
「ちょっと、そのクエストはボク達が受けようとしていたものだよ」
「横から奪って行くというのは失礼ですね。それに彼をおっさん呼びとは……」
リゼットとメイシーが抗議する。
「えー、俺からしたらおっさんだけれどなぁ。それに。クエスト受注は早い者勝ちだろ?」
彼の言っていることはある意味正しい。
ナナシさんの実際の年齢は元居た世界の記憶によると40近いらしい。
ただ肉体的には結構若いので書類上、彼は28歳となっている。
それを考慮しても目の前の男は彼よりも明らかに若い。
まあ、悪く言えば子ども、なのだけれど。
そして、確かにクエスト受注は早い者勝ちである。
とは言え、やはりマナーというものがある。この男のしていることはあまり褒められたものでは無いだろう。
「リズもメイも落ち着いてくれ。彼は『悪いね』って一言断りを入れているわけだしここは別に譲ったらいいじゃあないか」
うんうん、大人の対応って奴ね。
ただ二人は少し納得いっていない様子だ。
まあ、多分原因は……
「まあ、そういう事でこれは貰っていくぜ。ありがとな、おっさん」
これだよね……まあ、
「ああ、気を付けて行けよ」
「大丈夫だって。俺、こう見えても上級職のブレイブソードだからね。あんたみたいに訳の分からない下級職とは違うぜ」
流石にこの言葉には静観していようと思ったあたしも口を挟むことにした。
「ちょっとあなた、さっきから聞いていたらいくら何でも礼儀知らずにも程があるんじゃあないの?」
「すいません。彼にはちゃんと言っておくので許してください」
銀髪の子が申し訳なさそうに頭を下げる。
「ティニア、何で謝るんだよ。言っとくが俺は初心者さんが無駄死にしない様にってこうやって代わりに受けてやってるんだぜ。なぁ、ソニア」
「そうね、厚意でしていることなのに頭を下げるのはおかしなことだわね」
ソニアと呼ばれた戦士風の子が侮蔑の視線をパーティメンバーである魔法使いに送る。
「全く、お前みたいな馬鹿が居ると気分も盛り下がるぜ。もういい、お前はクビだ。もっと役に立つ奴を探す」
「えぇっ、そんな。ユーゴ!だって、ウチ今までずっと一緒に……」
だがユーゴという男は冷徹に言い放つ。
「五月蠅い女だな。はっきり言ってウザイぞお前」
その言葉にティニアは足元をふらつかせへたり込む。
「行こうぜ、ソニア」
傍若無人な振る舞いをした男が去ろうとした時、その腕を取った人が居た。
「何だよ、おっさん?」
ナナシさんだった。
先ほどまでの穏やか寝顔とは違いその表情には怒りが見て取れた。
「恥ずかしいと思わないのか?」
「使えない奴をクビにして何が悪い?格好つけてんじゃねぇぞ」
「ダサい男だな、お前……」
ナナシさんの言葉にユーゴの顔に怒りの表情が浮かぶ、
「てめえ、ふざけるなよ。言っとくが俺には『魔剣フッケバイン』があるんだ。お前みたいなザコ、簡単に斬り捨てられるぜ?」
一触即発の空気だ。
「そこまでですよ。二人共。ギルド内でのそういった争いは許しませんよ」
騒ぎを聞きつけたセドリックさんが仲裁にやってきた。
「ああ、そうだな」
ナナシさんはユーゴの腕を離す。
ユーゴは気にくわないといった表情でナナシさんを睨みつけながらセドリックさんに依頼書を突きつけた。
「もう少し行儀良くしてもらいたいものですな」
セドリックさんは依頼書を持って無言で受付へと引っ込んでいく。
ユーゴはソニアを伴い受付へ。
座り込んだまま放心するティニアにはメイシーが寄り添っていた。
一方でリゼットは不安げな表情でクエストを受注して出ていく傍若無人な二人を視線で追っていた。
怒りでなく、不安?
「リゼット、どうしたの?」
「わからない……わからないけれど、今、凄く怖い『悪意』を感じた」
「悪意?まあ、確かに嫌な連中だったけれど……」
「違う。何ていうか、あの時に似ている。結婚する前に未来から来たイシダ・シラベから感じたもの。あれに似ているんだ……」
「イシダか……何となくわかる気がするな。確かにあいつも強烈な『悪意』の持ち主だった。リゼットが感じた悪意も気になるが、今はとりあえずあの子だな……」
ナナシさんは放心するティニアに目をやった。
確かに、これは放っておけない。
◇ナナシ視点◇
あれから半時間。
俺達は泣きはらすティニアを連れギルドの一角にある酒場に来ていた。
「落ち着いた?」
リゼットから渡された水を飲み一息つく。
「…………ありがとうございます。そのすいませんでした……」
「それにしても酷いですね。まさかちょっと気にくわないというだけでパーティから追放するとは」
「彼、昔はあんな感じじゃなかったんですよ……だけど最近段々色々な人に横暴になっていって……」
昔はあんな感じでは無かった。
その言葉と彼が持っていた剣、そしてリゼットが言う『悪意』がさっきから引っかかっていた。
そして彼の持つ雰囲気。俺は彼に対しある仮説があった。
「ティニア。彼は『転生者』だな?」
「!?」
ティニアの表情で理解した。
やはり彼は転生者だったのか。
「ちょ、ナナシさん。どういう事?」
アンジェラが首を傾げ説明を求めてきた。
「いや、彼の名前。ユーゴだったな。ああ言う名前は俺が元居た世界でもよく見られたものでな」
「あの、それじゃああなたも『転生者』?」
ティニアの言葉にうなずく。
「ああ、俺は七枝良哉。恐らく彼は俺と同じ国の出身者だろう」
見たところ、彼は高校生くらいだろう。
「……彼と出会ったのは2年前。ウチが以前別のパーティーでゴブリンと戦っている所に急に現れて、あの魔剣フッケバインで敵を簡単に斬り伏せて……そこから一緒にパーティーを組んでいたの。彼、トラックとかいう鉄の獣に轢かれたとか言っていた。あなたもそうなんですか?」
なるほど。理想的な異世界転生方法だ。
「ああ、俺の場合は何か焼けて気がついたら森の中に居た」
「ちょっと雑い!だから説明雑いって!」
アンジェラに叱られた。
何か雑な事をするとよくこうして叱られる。
まあ、結婚前から『雑い』は彼女の口癖だったが……
とは言ってもなぁ……大分いろいろ思い出して来てはいるのだがそれでもまだ不鮮明な部分は多い。
「彼はどうやら火事にあったらしくてそこで一度死んで記憶を無くした状態でこの世界に転生してきたらしいの」
そうそう、それ。
「い、色々大変ですね……」
「まあ、今はこっちの世界で結婚もして楽しくやっているよ」
「結婚……ええと……」
ティニアは3人をチラチラ見る。
誰が俺の妻かと考えているのだろう。
それに気づくと3人はそれぞれ指にはめたリングを見せる。
「あっ、そう来たか……」
「ところで彼についてもう一つ気になる事がある。あの剣だが魔剣と言っていたな。もしかして彼の性格が変わったってあれが影響しているとかないか?」
魔剣というものは強大な力を持つ代わりに何かしらのデメリットがある。
その辺は俺やリゼットにかかっている『悪魔の呪い』にも通じるものがある。
『ヴァッサーゴの瞳』による未来視は自分では制御できないうえ、かつてはリゼットの心を蝕んでいた。
『バルバトスの憤怒』にしても強大な力の代償が怒りによる暴走リスクがある。
「フッケバインとは不幸をもたらす凶鳥の事だ。強大な力の代償として性格が歪んでいった可能性があるんじゃあないか?」
「そんな……あの剣がユーゴを」
「あのままだと待つのは破滅だ。それにパーティに残ったソニアってプリーストの子も気になる」
「え?」
アンジェラが声を上げた。
「何を言ってるの?もうひとりの子、どう見ても戦士だったじゃない」
「二人とも待って。ボクにはその子、盗賊系に見えたよ!?」
リゼットがメイシーの方を見る。
「私は重騎士タイプと見ていましたが……」
そして最後に困惑しているティニアを見る。
「みんな何を言っているの?ソニアは弓使いよ?」
どういう事だ?
見る人によって認識が違う?
「リズが感じた悪意の正体ってもしかして……」
これは、本当にヤバイやつかもしれない。
読んでくださりありがとうございます。
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