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第8話 驚愕の武器適性が判明した件

「おーい、お兄さーん。朝ですよー」


「んぐぐぐ……」


 翌日、またしてもリゼットの声で目を覚ましベッドでぐぐっと身を伸ばした。どうも俺は自分で起きるのが苦手な種類の人間なのかもしれない。

 昨夜に続きキノコを中心とした朝食が食卓に並ぶ。

 玉子焼きの様なものに入っていたコロロダケというキノコがまた絶品であった。


 うん、キノコは美味い。これは絶対的な正義である。

 リゼットが朝方、外に出たら窓の傍で大量の血痕を発見してちょっと怖かったと言っていた。


 何だろうか。その辺で小動物、例えば猫とかの喧嘩があったのかもしれない。

 この世界にもネコくらいはいるだろう。

 朝食を終えるとしばらく紅茶の様なものを飲みながらゆっくり過ごす。


 どうやらリゼットは甘党らしく砂糖を多めに入れていた。

 店が開くころになると簡単な身支度を整え、リゼットは俺を武器屋へと連れて行ってくれた。


 大通からは少し離れた場所にある「ガストレ商店」という小さな店だった。


「こんにちはー、おじさん……」


 リゼットが軽く声をかけながら店に入る。

 カウンターには立派な髭を蓄えた大柄な男が立っており鋭い視線をこちらに向けた。

 このおじさんが店主とみた。


「応、いらっしゃい……って」 


 店主はリゼットと俺を何度か見比べると目を見開き声を張り上げた。


「てぇへんだ。母ちゃん、本当だったぞ。リゼットちゃんが男を連れてきたあああ!!」


 江戸っ子口調?

 ここは異世界なので訛みたいなものだろうか。


「うえええ!?」


 奥から「何だって!」と某辛口がウリの女装タレントを彷彿とさせるデラックスな女性がすごい音を立てながら飛び出してきた。


「えぇっ、ちょっともう噂広まってるの!?セドリックさん、あの人はぁぁぁ!!」


 どうやらあのセドリックという男は噂話が好きらしい。

 この様子だとあちこちで噂されてるのではなかろうか。

 あの時間からだと酒場とかそういうところで拡散させたのだろうか。

 大した拡散力だ。ちょっとしたインフルエンサーという感じだね。


「へぇへぇ、彼が噂のねぇ……」


 おかみさんは俺を値踏みするようにじろじろ見ている。


「あ、あのねおかみさん。説明させて」


「リゼットちゃん。いい男を見つけたじゃあないか」


「え?えぇ?あうっ……だからねこれは誤解なんだよ」


「何だよ、母ちゃん。この若僧がそんなにいい男か?俺よりも?」

 

 店主がムッとした表情を見せる。子どもか!

 というかこの店主、奥さんの事大好きすぎるタイプだな。何となくわかるぞ。


「やだねぇ。幾ら男前といったってあんたには負けるに決まってるじゃないか。なんたってあたしが見初めて求婚した男なんだよ」


 おかみさんが笑いながら店主の背中をダイナミックに叩く。

 店主は照れくさそうに頬を掻いていた。

 何ですかこの茶番……


「あぅ、だからねガストレさん、何か色々勘違いをしてるみたいなんだけどボクとお兄さんはそういう関係じゃないからね!」


「そりゃそうだ。物事には順序ってぇもんがある。まだそういう関係ではないのは当然だろう。流石にあってその日にってのは慌て過ぎだ。


 さりげなく「まだ」をつけるな。


「あたしは出会って1秒でプロポーズしたけどね」


「がはは、そうだったな」 


 出会って1秒でとはまた凄いな。

 とりあえず俺はリゼットにつけてもらったナナシという名前を名乗った。


「なるほど、ナナシかぁ。いい面構えだ。リゼットちゃん、いい拾い物をしたな。」


 ああ、昨日リゼットが口走った「拾った」がそのまま伝わってるんだな。 

 そしてどうあってもそっちの方面に話が戻る。

 この町の人は噂好きなんだろうかな。

 だが温かいものも感じる。リゼットが町の人達に愛されてるんだな、というのがわかる。

 まあ、小動物みたいでかわいいしな。後、いい尻だし。




「だからぁ……はぁ、もういいや。あの、今日来たのはお兄さんの武器適性を調べたいからなんだ。」


「何だ、この兄ちゃん自分の適性も知らねぇのか。ってことは冒険者初心者か。」


 まあ、初心者だな。この世界の。

 正直知らないことだらけだ。

 言葉が通じてるという奇跡に感謝のし通しだ。


「よし、ちょっと待ってろよ。」


 店主はカウンターの下から紫色の水晶玉がはめ込まれた燭台のようなものを取り出した。

 これが適性を調べる道具というわけか。


「こいつは魔道具でな。手をかざせば簡単ではあるが武器の適性を調べることができるんだ。まあ、やってみろ。それでわかる。」


 シンプル・イズ・ベスト。

 とてもわかりやすくて助かる。

 血を採るとかそんなのだったらちょっと面倒だったがかざすだけというのは楽でいい。

 

「それじゃあ……」


 言われた通り手をかざしてみる。

 水晶玉が淡い光を放ち、空中に数種類の武器マークが浮かび上がる。

 結構種類があるようだ。


「うおっ、何じゃこりゃ!?」



 店主が素っ頓狂な声を上げる。

 おかみさんやリゼットも唖然としてそれを見ていた。

 空中に浮かび上がった俺の武器適性が原因だ。

 それは、俺も予想しなかった結果であった。



 剣・・・X

 短剣・・・X

 刀・・・X

 槍・・・X

 弓・・・X

 斧・・・X

 杖・・・X

 魔・・・X



 は?

 何だこれ?エックス?

 未知数?


「故障か?こんなものは見たことない。どれも×だなんて。」


「いやいや、あんたこれXエックスだよ。」


「ああ、エックスか。どっちにしろ見たことねぇな。まさか……ちょっとお前さん、こいつを振るってみろ。」


 そう言うと店主は壁にかかっていた木製の剣を差し出してきた。


「は、はぁ。それでは……」


 言われた通り軽く素振りしてみると……すぽっと音を立て剣がすっぽ抜け店主の頬をかすめ後ろの壁に突き刺さった。

 あれ、何だこのコントみたいな展開は?

 すっぽ抜けて、え?

 

「えっと……ガストレさん、これってどういう……」


「そ、そうだな。うーんとなぁ。」


 店主が苦虫を噛み潰したような表情になる。


「すっごく言いにくいんだがな。この兄ちゃん、武器の扱いに関しては最低適性と言われるEをはるかに超えててどうしようもない、武器を持たせると色々危険ってことみたいだ。」


「うえぇぇぇぇっ!?」


「そうだね。こりゃあんたの言う通り実質×だねぇ。」


 おかみさんも不憫でならないといった目で俺を見る。

 どうやら俺は武器を扱うことができない体質らしい。

 武器に嫌われた男、みたいな感じだな。

 何じゃそら……


「まあ、武器が使えなくとも俺にはこれがあるから何とかなるんじゃ。」


 こぶしを握り締めアピールする。

 コープスウルフを一撃で倒し、マッチョベアーと渡り合った格闘能力。

 何が由来かわからないがこれが俺の武器になるのではないだろうか。

 RPGで言うならば武闘家だ。


「あのな、兄ちゃん、少しは腕っぷしに自信があるようだが武器無しで触れるのが危険なモンスターだっているんだぞ。」


「そうさね。この辺だとエスピーテとか殴ろうものなら棘が刺さって大変よね。」


 エスピーテというのは話を聞いていると小型の初級モンスターで背中に鋭い棘が無数に生えているらしい。

 要するにヤマアラシとかそういう系統か。

 他にも皮膚から毒液を出すモンスターとかもいるらしい。


「ボクもあれ昔うっかり踏んじゃった時は棘ぬくの大変だったなぁ……」


 リゼットが身を震わせる。

 これはもしかして冒険者としては絶望的ということか。


「せめてどれかEなら良かったんだが……」


 店全体に諦めモードが漂っていた。

 まるでお通夜みたいな雰囲気だ。


「で、でも……」


 リゼットが口を開く。


「お兄さんならいけそうな気がするかも。一緒に組めば殴れないやつとかボクが何とかするし……その、初級くらいまでなら大丈夫なんじゃないかな。」


 リゼットの言葉に店主とおかみさんも目に涙を浮かべている。

 何だろうこの健気な生き物は。

 拾われたのがリゼットで良かった……否、拾われたわけではない。


「愛ってやつだねぇ。」

 いや、それは勘違いだと思うのだが……

 それから半時間後、店主夫婦に別れを告げた俺はリゼットに連れられ冒険者ギルドへと足を踏み入れた。

 ギルドに居た冒険者や職員たちは俺を見るとひそひそと何か噂している。

 まあ、もうどういうことかはわかった。

 セドリックの仕業だな。間違いない。

 どれだけ噂を広めたんだろうか……


「あの人、絶対許さない……」


 リゼットがギリギリと歯をかみしめている。

 流石に堪忍袋の緒が切れたか。少し怖い。


「あらあら、リゼットちゃん。その人が例の?」


 入り口で突っ立っているとベレー帽に似た帽子をかぶった軽装の女性が寄ってきた。

 腰には一振りの刀を差している。

 先ほどの武器適性チェックでもあったが刀という武器種があるそうだ。

 リーチが長く切れ味に長けた武器らしい。

 東方より伝来した武器と言うことだがそこは日本に似た国なのかもしれないな。


「はぁ、サーシャさん。最初に言っとくけど。ボクは……」


「わかってるわよ。リゼットちゃん奥手だから色んな段階すっ飛ばしてそんな大胆な事しないわよねぇ。でも……」


 サーシャは俺の事をじっと見つめる。

 またしても値踏みされているようだ。


「な、何か?」


「ううん。ごめんなさい。何か感じるところはあるわね。何かやらかしそうな、ね。」


「やらかす!?あ、いや、意外と当たってるかもしれない……お兄さんやらかしそうな人だもん。」



 コープスウルフの討伐。

 マッチョベア―と友情を深める。

 いや、大してやらかしてはないと思うが……


「ねぇ、あなたは何級の冒険者かしら?この辺では見ない顔よね。」


 ゆっくりとサーシャが俺に近づいてくる。

 近いな。そして胸がある。


「いや、実のところ俺はまだ登録していない駆け出しなんだ。今日は試験を受けさせてもらいに来た。」


「そうなの?何だかそうは見えないオーラが出てたからてっきり……それならその内、組むこともあるかもね。私は4等中級冒険者なの。」


 なるほど、リゼットより2ランク上か。胸は3ランクほど上だろうか。

 とか考えているがさっきからリゼットがジト目で俺を見ている。

 まさか心を読まれたか!?


「それじゃあね、私は今から台地の方へ行くから。」


 サーシャはそう言うと俺から離れ、建物から出て行った。 

 リゼットは相変わらずジト目でこっちを見ている。

 というか睨んでいるよな。やはり心を読まれているのか。

 リゼット、やはり只者ではないな。

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