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第83話 絆の鎧

――ベリアーノ市・第2区聖オルレアン病院――

◇イシダ・シラベ視点◇


 屋上から魔獣オルゴが暴れる様を見物していた私は信じられない光景を目にした。

 皆が魔獣から逃げる中、明らかに逆方向へ走る……即ち立ち向かおうとする男が居たのだ。

 彼は迷いなく魔獣目掛け飛びかかり顔面に拳を叩き込んだ。

 私はその男を知っている。あの姿は……


「七枝良哉!?なるほど、未来の『私』の言う通りこっちに来ていたのね

……」


 あの男が死に至る程の傷を与えた。

 そして炎に包まれる老人ホームにあの刑事共々置き去りにしてやった。

 だから命を落とし同じ様にこの世界に転生してきたという事だ。

 七枝がこの世界にやってきて私と敵対する未来については聞いていた。

 未来の『私』は私に残った自分の力を与えて消滅していった。


「それにしても……そうか、本当にまた会えるなんてねぇ。それに……」


 彼の傍に立つ女性。ああ、引きこもりの娘だ。

 名前は確か……騎士の娘メイシー。

 時代遅れの古臭い騎士、ミアガラッハ・メイシーだったか。

 確か家宝の大楯が面白い代物だったから城に通って色々弄っていた記憶はある。

 ある程度の所で飽きたからそこからは会っていないがそうか、七枝の隣に立つ様になったか。

 これまた奇妙な縁というわけだ。


「面白い事になったわね」

 

 心が躍る。

 楽しいおもちゃが出来た。

 これでこのくだらない世界でしばらくは退屈しない。


◇ナナシ視点◇


 開幕一発。

 俺はクマ型魔獣の顔面にパンチを叩き込んでやった。

 だが少しぐらついただけであまり効果的ではなかったようだ。

 こいつ、硬いな。

 腕を振り上げる魔獣の足元にエネルギー弾が撃ち込まれる。

 携帯用の小盾型デバイス……俺はそう呼んでいるが要するにそういうものにメイシーが『アローママンティス』のプレートをセットしてエネルギー弾で援護射撃をしてくれているのだ。

 俺は少しバックし振り降ろされた腕を避ける。

 そして再度飛び込むとクマに組み付く……が!


「うおおおっ!?」


 クマのパワーは予想以上だった。

 俺の身体は軽々と持ち上げられ振り回された挙句地面に叩きつけられた。


「嘘でしょ……ナナシさんがパワー負けした!?」


 くそっ、何て馬鹿力だ。

 確かにマッチョベアーより数段体が大きい。

 それにこのパワー……もしかして上級相当の実力か?

 ならば!!

 腕にエネルギーを貯める。そう、ナナシビームを使う。

 実の所、結構エネルギーを使うので乱射は出来ないがこいつで一気に決めてやる。

 だが、チャージ中に気づく。

 クマの額に埋め込まれた宝石に同じようにエネルギーがチャージされている事に。


「えぇい、ままよ!ナナシィィ、ビィィィィィィィムッ!!」


 俺の超必殺技が腕から放たれる。

 同時に魔獣の額から紫色のエネルギー光線が発射されナナシビームと激突、相殺した。


「何だと!?」


 しまった。

 必殺光線をほぼ開幕で撃つのはほぼフラグじゃないか。

 そういうのはかなりの確率で避けられてしまったり防御されてピンチに陥るパターンだ。

 そんな事を考えている俺に魔獣のショルダータックルが直撃し俺は地面を転がる。

 くそっ、頭がくらくらする。風邪をひいていて体調が悪い事がしっかり影響していやがる。

 そう言っている内に突撃してきたクマが両手を振り上げ胸元に張り手を打ち込まれる。

 衝撃で膝をついた後かちあげられ吹き飛ばされる。

 そして再度額の宝石にエネルギーを貯め始めた。


「や、やべぇ!!」


 エネルギー光線が発射された瞬間、俺の前に小盾を構えたメイシーが立ちふさがり攻撃を受け止める。


「ああっ!!」


 直撃を受け爆発が起き、メイシーが吹き飛ばされた。


「メイシー!?何て無茶を!!」


 慌てて駆け寄ると盾で防御した腕周辺から血が流れ出ている。

 盾で防御したとはいえ大楯の時とはわけが違う。

 頭も打っているかもしれない。

 くそっ、俺が情けないばかりに!

 ドクン!

 怒りと共に体の奥で何かが鼓動する。

 この感覚は……そうだ、4年前のオーガスと同じ。

 密かに俺が依り代となった『バルバトスの憤怒』。あの呪いが鎌首をもたげている感覚だ。

 この力、この力を開放すればあればあいつを倒して皆を、メイシーを助けられる。

 この力さえ……ならば呪いに身をゆだねれば。


「だ、ダメですよ……怒っちゃあダメです」


 不意に俺の裾を掴む手に我を取り戻す。

 メイシーの手だった。


「あなたを守りたいと思ったから体が動いたんです。だから自分を責めないで。怒りに飲まれないでください。またあなたが居なくなるなんて絶対にごめんです……あなたの持っている優しい心を忘れないでください」


 そうだ。怒りの飲み込まれていては何も救えない。

 かつては世間を恨んでいたこともあった。

 一歩間違えれば俺もあいつの側に……石田調と同じ側に居たかもしれない。

 北條刑事が俺を救ってくれ、そしてこの世界ではメイシー達が……


「大丈夫だ。もういなくならないから」


 俺はメイシーの手を強く握りしめた。

 その瞬間だった。

 金色の光が俺とメイシーから沸き上がり狼の様なエネルギーとなり俺に覆いかぶさった。


「これは……」


 体の各部の鎧の様なものが装着されていき、全身に力が漲るのを感じた。

 これは彼女の最大装備『マーナガルム』の一部だ。

 ついでに何だか筋肉もゴリゴリに肥大している気がする。

 この力、これならもしかして……


「ありがとう。この力なら、皆を救える。行ってくるよ…………メイ!!」


 魔獣目掛け走り出した。

いつもよりスピードが遅い。恐らくこれは防御力が上がっていることが影響しているのだろう。

 迎撃しようと宝石から光線が放たれる。

 脳内に浮かぶ。これの対処法。それは……


「正面から受ける!!」


 俺は本能的にボディボイルで言うアブドミナルアンドサイのポーズを取る。

 本来なら攻撃を受け止めるのにこれは無いだろうというポーズなのだが……


「弾いた!?」


 メイシーのツッコミ通り俺のポージングは敵の光線を弾いたのだ。

 恐らく通常モードの防御姿勢と似たような原理だろう。

 要するによくわからないが綺麗にポーズを決めると防御力が増す、という事だ。


「おりゃぁぁぁ!!」


 唖然としている魔獣に組み付く。今度は力負けすることなく逆に敵を持ち上げそのままブレーンバスターで地面に叩きつけた。

 更にそこへ倒れこみ額の宝石目掛けエルボー。宝石を粉砕する。

 

「トドメと行かせてもらうぞ!!」


 俺は敵から離れると両手を大きく広げて力を貯めた。

 胸の前に金色のエネルギー球体が出来る。

 これは……新しい必殺技だ。名前を、名前を考えないと……


「ナナシさん、ガルムレッキングフィストです!!」


 何それイケてるネーミングじゃねぇか!!

 センスあるなぁ!

 その名前、貰おう!!


「ガルムレッキングゥゥゥゥゥ!フィストォォォォォォォ!!!」


 咆哮と共に球体を全力で殴る。

 勢いよく射出された球体は牙を剥く狼の形へと姿を変え起き上がった魔獣に食らいつき炸裂した。

 魔物が衝撃で口から血を吐きゆっくりと倒れていき、動かなくなった。


◇イシダ・シラベ視点◇


「何あの姿…………あんなのズルいじゃん!!」


 意味が分からない。明らかにこっちが勝つ流れだったのに。

 こみ上げて来た怒りに任せ屋上のフェンスを殴りつける。

 痛みが全身に奔り、手には傷が出来き、血が滴る。


「まあ、いいか。もうしばらく楽しめるって事だよね……」


 とりあえずついでだから医者に手を診てもらおう。

 そう思い、私は屋上を後にした。


◇ナナシ視点◇


 戦闘後、俺の身体は元の姿に戻ってくれた。

 流石にあのゴリマッチョ鎧モードで帰ったらアンとリゼットに何を言われるか分かったものではない。

 結局あの後、かけつけた警備隊に事情を話したり医者に薬を出されたり、メイの傷を治療してもらったりでかなりの時間がかかってしまった。

 何よりもあの医者、薬をくれるだけかと思ったら『注射しときますね』ってブスッ」としてくれた。絶対ヤブ医者だ!

 無茶苦茶痛くて叫んでしまったし、恥ずかしかった。

 あっ、でも鼻水は止まったなぁ……

 そしてそんな帰り際……


「あ、あの……」


 病院から出る時、メイシーの妹、エミィが声をかけて来た。


「あの……病院を、皆を守っていただきありがとうございます……その、姉さん。えっと……結婚したんですよね?」


「ええ。私はこの人の2番目の妻です」


 エミィが顔を曇らせる。

 そりゃそうだ。自分達の親父は同じ様に複数の妻を持ちながら浮気して家族を離散させたのだ。

 その事で傷ついたであろう姉が一夫多妻で結婚しているのだ。心配しないわけがない。


「大丈夫ですよ。この人は父様みたいなことにはなりませんから」


 そう言うとメイは腕を絡めて来た。


「……ええと、お義兄さん……姉を泣かせたら許しませんからね」


「ああ、勿論だとも」


「この人、注射が嫌いみたいだから何かやらかしたら注射してもらいに引っ張って来ますね」


 あらヤダ怖い。

 何て物騒な事を言うんだよこの妻は。


「そうですね。その時は是非私に声をかけてください。先生に一番痛い注射を用意してもらいます」


 ちょ、この姉妹怖いよ。

 義理のお兄さんは大変恐怖しているよ!!

 まあ、そんな事にはならないだろうから心配は無用だな。

 俺とメイシーは腕を組みながら家路を急いだ。

 因みに帰った後、彼女の呼び方が『メイ』に変わっていることに気づいたリゼットが少し膨れていた。


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