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第82話 メイシーの妹

 アンジェラです。

 最近、パーティメンバーだったリゼット、メイシーを誘って家族になりました。

 現在の私は4人家族の家長です。

 今後、それぞれが女の子を産む事が未来からやって来た娘の言葉で確定したので頑張りたいと思います。

 それで本日なのですが……夫が風邪をひきました。


――ベリアーノ市・第3区レム屋敷――


「ぶへぁくしょんっ!!」


 中々に派手なくしゃみと共に彼が鼻水をすすった。


「こりゃ完全に風邪をひいたな……」


「大丈夫ですか?それにしても何で風邪なんか……あっ、確か昨夜はアンジェラと寝ていましたよね。ハッ!まさかアンジェラと外でお楽しみを……!!」


「うぇぇっ!?アンジェラそんな大胆な事を!?」


「待ちなさいな。あたしら外でしたことは無い……って何を言わせているのよ!」


 しかも昨夜は大変寒い夜だった。

 そんな夜に外でなど正気の沙汰ではない。


「いや、昨日寒かっただろ?それでアンが布団の中でゴロゴロして毛布とか全部体に巻き付けてたんだよ」


 あら、あたしのせいだった。


「寒いならボクのトコに来たら良かったのに……」


「あれ、さり気なく抜け駆けしようとしていませんか?一緒に過ごす日ってのは輪番制でしょう?ねぇ、アンジェラさん」


「まあ、そうね。一応取り決めとして決めているからね。ていうか起こしてくれればいいのに」


「いや、そうなんだけどな。寝顔がかわいかったのでちょっと起こすの勿体ないなってみてたら……これだ」


 夫の言葉に顔が熱くなるのを感じた。

 何恥ずかしい事言ってくれているのよこの人。


「とりあえず薬でも飲んで寝ていたら治ると思うからさ……」


 彼はそう言うが風邪ひきの元凶となった身としてはちょっと……


「そうね、医者に行くべきね」


「マジかよ。医者は嫌いなんだ。もし注射されたらどうするんだよ」


「えぇ……お兄さん、子どもみたいなこと言って……まあ、確かにひどくなる前にお医者さんから薬を貰っておいた方がいいよね」


「でもこれ多分、誰かが連れて行かないとダメな奴ですね」


 いつもなら中級クラスのモンスターに勇ましく立ち向かう夫だが今は椅子の背もたれにしがみついて「嫌だ。行きたくない」とかやっている。

 何そのギャップ……新たな魅力発見だわ。


「仕方無いわね……今日はあたし、ちょっと行く所があるから……」


「あ、ボクもちょっと用事が……」


 となると行けるのは……


「メイシー、お願いできる?」


「仕方ありませんね……」


「いや、本当に大丈夫だから。寝てたらどうにかなるから!!!」


 仕方が無いので駄々をこねる夫を3人で椅子から引きはがし台車にぐるぐる巻きにしてメイシーに引っ張っていってもらうことになった。


――ベリアーノ市・第2区聖オルレアン病院――

◇ナナシ視点◇


 俺は本当に昔から病院が苦手だった。

 あの独特の雰囲気、そして何より『注射』が嫌いだ。

 別に尖端恐怖症というわけではない。

 注射恐怖症なのだ。なのでオーガスでサソリ型モンスターの針で刺された時は精神的に参った。というかあの無茶苦茶痛い一撃が注射嫌いに拍車をかけた気がする。

 くそっ、こんな事ならアンの可愛い寝顔を堪能せずに起こしておくべきだった。

 それに元々彼女は少し寝相が悪いところがあったのだが失念していた。

 

 リゼットとメイシーの二人が妻になってからはアンジェラと寝る機会が減っていた。

 現在の家は2階建てで1回に俺の私室、2階に3人が部屋を持っている。

 新婚という事もあり1週間の内6日を使い俺は3人の部屋を回って一緒に過ごしているのだが今週はアンが自分の2日分を他の2人に譲っていたので彼女の横で寝るのは久々となったわけだ。

 リゼットにしてもメイシーにしても寝相がいいので本当にアンジェラの寝相の悪さを忘れていた。今後は気を付けよう。


「なあ、メイシー。流石にもう逃げないから台車から解放してくれないかな。お互い恥ずかしいだろう」


 台車にくくりつけられたま現れた俺を引っ張るメイシーに注目が集まる。


「受付を終わらせたら解放します……というかそろそろ私も愛称で呼んで欲しいなって思う今日この頃なのですが……」


 少し拗ねたような顔で小さく呟きながらメイシーは受付表に名前を記入している。

 まあ、そうなんだけどさ。どのタイミングで呼ぼうかとか色々図りかねているわけなんだよな……呼ぶとしたら『メイ』だと思うのだが……


「ねぇ、ママあれ何?」


「見ちゃダメよ!!」


 受付を終えた後、俺は台車から解放されメイシーと並んで長椅子に座っていた。

 相変わらずずるずると鼻水が出ている。

 マスクとかが欲しいがこの世界には未だマスクで感染症対策という文化が無いらしい。


 あれ、これってマスクを普及させたらちょっとしたビジネスチャンスになるのでは?

 そんな事を考えていると看護師がやってきた。

 この世界で『シャイナス』という名の光の加護を受けた職業らしいが要するには看護師だ。というわけで俺は看護師と呼称することにした。


「えーと、レム・ナナシさん、ですね。診察前に症状についてお聞きしたいことがありますが………え?」


 金色のストレートヘアをした看護師がこちらを見て固まっている。

 はて、俺また何かしてしまっているかな?

 いや、違うな。横にいるメイシーに目をやって理解した。

 何故なら彼女の表情も固まっている。


「メイシー、知り合い?」


「エミィ……あの、あなたエミィ……ですよね?」


 看護師が付けている名札には『ワーズ・エミリー』と刻印されている。


「…………えぇと、症状についてですがいつ頃からでしょうか?」


 エミィはメイシーの事を完全に無視して俺に軽い聞き取りをしていた。


「それでは……先生がお呼びになるまでお待ちください」


「あの、エミィ……私です。メイシーです」


「失礼します」


 全てを拒否する様な冷たい表情でエミィは踵を返すと去っていった。

 後にはしゅんとうつむくメイシーの姿。

 重々しい沈黙が流れる。


「えっと……誰なのか聞いても?」


 メイシーは小さくうなずく。


「……妹です。今住んでいる家の持ち主だった人と父の間に生まれた子で……」


「ああ、なるほど……」


 父親の浮気が原因で3番目の母親と一緒に出て行ってしまった妹がいると言っていた。

 メイシーの両親は既に他界している。

 そして、かつて母と慕った女性からは屋敷を譲り受ける代わりに『二度と関わらないで欲しい』と突き放された。


「君が悪いわけじゃあないのにな……」


 悪いのは父親だ。

 だが3番目の母親とエミィはメイシーの事も拒絶している。


「罪人は裁かれるべきだ。だがその子は罪人じゃあない」


「その言葉……」


 俺の親は些細な諍いから人を死なせた。

 そのせいで俺は犯罪者の子どもとして皆からいじめられていた。

ネットに色々と晒され、世間からは後ろ指を指され生きていた。

そんな記憶が戻った時、俺は皆の前から消える事を決意したのだが……


「君のその言葉、本当にうれしかった」


 あの時、メイシー達は俺に優しい言葉をかけてくれた。

 あれで、俺の心は救われた気がする。


「だから君は悪くない。今は感情が整理できてないだけさ。いつか、妹さんもわかってくれる」


「そう……ですね。フフッ、私が看病しなければならない立場なのに元気づけられてしまいましたね。」


「どういたしまして」


 そりゃあ、これでも夫だからな。

 さて、そろそろ診察に呼ばれるかな。

 そんな事を考えていると外から爆発音が響き、間もなく悲鳴が響き渡る。


「病院の敷地内にモンスターが出現しました!警備隊を呼びますので安全な場所まで避難してください!こちらで誘導します!!」


 先ほどのエミィが戻って来る。

 流石そこは職務に忠実な子だな。メイシーと似ている。


「チッ、この前のトカゲ野郎もそうだが都会ってのはスペシャルにヤバイとこだな!行くぞ、メイシー」


「はぁ……そう言うと思っていました……盾は持ってきていませんが出来る限りサポートします!」


「いや、あなた達何を言っているのですか!?」


「エミィ。この人は自分が病気でも誰かを守るために手を伸ばしに行こうとする。そんな人なんです。それが私の夫。そして私はその妻、レム・ミアガラッハ・メイシーです!!」


「姉……さん?」


 俺達は他の看護師の静止も振り切り爆音のした方向目掛け、走り出した。



◇イシダ・シラベ視点◇


 庭に放ったモンスターを病院の屋上から眺める。

 私の『能力』を利用し額に魔道具を埋め込み各種あ身体能力も強化した熊型モンスター。

 この前、実験で街中に出したトカゲ型のモンスターは大した被害を出さないまま冒険者に倒されてしまった。


「今度はそうはいかない。名をつけるなら、そうね……地鳴魔獣オルゴ!!さぁ、暴れなさい。このくだらない世界に絶望を!!」

本日予定があるので早めの投稿です。

面白いなと思っていただけたらブクマと高評価よろしくお願いします。

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