第81話 世界に一人の『タフガイ』
リゼットです。最近結婚しました。
本名はイリシア・リーゼロッテと元はイリス王国の第5王女でしたが今は色々あってレム・リゼットと名乗っています。
現在は同じく結婚仲間?で家族になったメイシーの活躍によりベリアーノ市第3区にあるお屋敷に引っ越し家族4人で暮らしています。
それで本日なのですが……庭の掃除に出ると夫が変な事をしていました。
――ベリアーノ市・第3区レム屋敷――
「お兄さん、何で家の壁に野菜を吊るしているのさ……」
梯子に登って彼が吊るしているのはラディヴァナという白くて太い野菜だ。
本体は煮物にすると味がしみ込んで美味しいし葉の部分は薬草になる。
「いや、『たくあん』を作ろうと思ってな」
出た、異世界ワード。
とりあえずこの人は『たくあん』なるものを作るためにラディヴァナを住宅街にある屋敷の壁に吊るしているという事ですか、はい。
そう言えばサートス村の家にもあんな風に吊るされていたっけ。
「ああ、タクワーンね。ここでも作るのね」
洗濯物を干しに来たアンジェラがその様子を見て言う。
「あれよ、ライスの時に壺から出して乗っけている野菜の塩漬け」
「ああ、あのちょっと臭い奴か……そう言えばお兄さん好きだよね」
「何か以前いた世界ではライスと言えばタクワーンだったんですって。サートス村でも急にラディヴァナを干しだすから最初は頭がおかしくなっちゃったのかと思ったわ……」
ボクは洗濯物干しを手伝いながら話を聞いていた、
「まあ、楽しそうだからいいかって思うから特に何も言ってないわ」
そうか、お兄さんは元々こことは違う文化の世界の住人だったんだ。
こうやって前いた世界を思い出すことをしていると楽しいんだろうな。
◇ナナシ視点◇
「それじゃあ、改めて俺達の現状を確認しよう」
という事で冒険者としてギルドカードに登録されている現状をまとめることにした。
ナナシ
5等中級等冒険者
クラス:冒険者→タフガイ(特殊初級職)
アンジェラ
5等中級等冒険者
クラス:マジシャン→ウィザード(魔法使い系中級職)
メイシー
2等中級冒険者
クラス:冒険者→シールドナイト→ガーディアン(防御系中級職)
リゼット
2等中級冒険者
クラス:冒険者→クエスター(冒険者系中級職)
「あたしとナナシさんは4年間ブランクがあるからね。オーガスの時から等級は変わっていないわね」
「私とリゼットさんはそこから4年間旅をしていたので等級は二人より上になっていますね。一応、また組めるように、と等級は無駄に上げていませんが」
そう、冒険者は等級に5以上差があるとパーティが組めないルールがある。
一応抜け道はあるのだが……
まあ、その辺を見越してくれていたのはありがたい。
「みんな、中級職になっているんだよね……あっ!」
そこまで言ってリゼットが気づき申し訳なさそうな表情になる。
そう、俺は初級職だ。
というか何だよ『タフガイ』って……
どうやら格闘タイプの職業自体があまりなくて俺のスタイルが既存のものに当てはまらずギルドの職員も大いに困惑していた。
そこで3人が俺の戦闘スタイルを細かく説明してくれて結果として俺専用の『タフガイ』なる職業が誕生した。
つまり、世界にたった一人の『タフガイ』というわけだ。
「まあ、初級扱いだけど専門職みたいなものだからな。気にしなくてもいい。というわけでパーティを組むことは今まで通り問題が無い。それで、今後だが今まで通りパーティで活動をするかどこかの猟団に所属するか、ということだ」
猟団というのは要するには冒険者の組織である。
組織が受けてきた依頼をメンバー同士で協力し合い解決していくものだ。
報酬は組織とチームメンバーで山分けになるのだがその分、選べる仕事の幅は広がる。
今の状態だと依頼によっては高収入が見込めるが依頼が少ない時にはネコ探しや山菜採りなどが続く可能性もある。
今後、子どもが産まれることを考えると俺だけでもそういった仕事に就いた方がいいのではと考えてしまう。
一応中級モンスター絡みの依頼をこなせば1件につき10万前後は報酬が入る。
凶暴魔獣クレストロンの依頼では16万程であり、これはリゼットとメイシーが俺とアンジェラを探すための旅費になった。
物価にもよるが4人家族で生活するなら1か月30万程あれば不自由はない。
ただ、各種サポートや保険を考えるとやはり猟団に所属するべきだろうか……
「でも猟団に入ると遠くに出張へ行ってしまう事もあるのですよね」
メイシーが不安げな表情を見せる。
実のところ彼女は寂しがり屋だ。
幼い頃に家族が離散した経験と4年前に俺とアンが居なくなった経験がそれを加速させている。
「まあ、だからあたし達は一緒に住んでいるのだし、場合によっては一緒について行くのもアリなんじゃないかな?」
「そうだね。でも、お兄さんも無理して今決めなくていいんじゃないかな?お兄さんが『ここに入りたい』ってところを見つけたらそこに入ればいいし。ボクらもサポートするからさ」
俺は妻達に恵まれたようだ。
「そうだな。それじゃあ、しばらくは今まで通りやっていくか」
そして数時間後……
――メール湿地帯――
「お兄さぁぁぁぁぁんっ!」
「もうっ!あなたって人は本当に!!!」
「はっはっはっ、何を怒っているんだい?」
ベリアーノから少し離れたメール湿地帯で俺達はクランチダイルなる二足歩行の中級ワニ型モンスターの『群れ』と対峙していた。
何でもクランチダイルの数が多くなったので少し間引いてくれという事らしい。
まあ、10匹程度かな。報酬は14万。
いつものノリで受注したらこいつがまた硬い硬い、見た目がイカつくて怖いがカッコいい。
というわけで俺は相変わらず悲鳴を上げる妻達に怒られているわけだ。
「まあ、いつもの事じゃあないですか。ところでリゼットさんは相変わらず『お兄さん』呼びなんですね」
口から発射される泥爆弾を盾で防ぎながらメイシーは楽しそうに話す。
「だって、やっぱりちょっと照れくさいって言うか……」
ぽそぽそ呟きながらリゼットは俺が投げ飛ばした1体のクランチダイルの喉を掻っ切って止めを刺しているしアンジェラはメイシーの後ろから魔法矢を連続で放ち敵をハチの巣にしている。逞しい。
「残り1体よ。決めちゃって!!」
「ナナシィィ、ビィィィィィィィムッ!!」
ラスト一匹は俺の超必殺技(願望)で止めを刺す。
うん、絶好調だな家族パーティ。
――ベリアーノ市第4区・冒険者ギルド――
「おやおや、お久素振りですな。ナナシ殿」
依頼達成の報告に戻ってきた俺達を待っていたのは陰気臭くそして懐かしい男であった。
かつてコランチェのギルドに通っていた時によく顔を合わせたギルド職員……
「お前……」
「黒っぽいセバスチャンさん!」
「違うぞアン。こいつはセオドールだ。真っ黒なセオドール」
「二人とも違うよ。漆黒のセドリックさんだよ!」
ああ、そうだった。
「ふふふ、ありがとうございます。リゼット嬢。実は妻がこちらの方に転勤になりまして私もそれについて来たわけです。また皆様にお会いできて嬉しいです」
そう言った彼の左目には十字架の模様が刻まれた眼帯が……
「この『漆黒のセドリック』。再び皆様のサポートをさせていただきましょう!!」
漆黒はそう言うと派手にマントをはためかせ宣言した。
いや、注目を浴びすぎて恥ずかしいのだが……
「ふふ、それにしてもまさか皆様全員と結婚するとはナナシ殿も夜は熱々で中々お盛んなようで……ってああっ、止めて!眼帯を、眼帯を引っ張らないでっ!あああっ!!」
とりあえず何か腹が立ったので俺は厨二病眼帯を引っ張り静かに手を放した。
「ぬぁぁぁぁ!?や、やりますなナナシ殿。流石は我が永遠のライバル」
いや、いつからお前とライバル関係になった?
まあ、それでも懐かしい顔に会えてうれしいよ。
「またよろしく頼むな、セドリック」




