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第80話 異世界にもプチぼったくりがある件

――ベリアーノ市第6区歓楽街――


 我が名はイリス王国第1王子イリスタリア・ラムアジン。

 この度、特別名誉大使としてこのイリス王国からの輸出品に関する関税の軽減を進言しにナダ共和国へやってきた。

 だが私がこの国へやってきた理由はもう一つある。

 数年前に行方不明になった妹、リーゼロッテがこの国で目撃されたという情報を得たからである。 


 リーゼロッテは現在生き残っているキョウダイで一番の年下だ。

 かつてはその下にアリシアーヌという妹とアルノエルという弟がいた。

 ただ、アルノエルは2歳の時に入浴中の事故で亡くなり、アリシアーヌは乳母と共に賊の手にかかり命を落としている。

恐らくは王位をめぐる争いの犠牲となったのだろう。

 手を引いたのは妹達の誰か。その中でリーゼロッテについてはおそらくは違う。あの子は心の優しい子だ。

 だからこそ王位争いには向いていないと思うし次に蹴落とされるとしたらあの子だろうと思っていた。


 行方不明になったと聞いた時『やられてしまったか』と思った。

 だがそれから数年、生存の可能性があると報告を受けた時、私は緘口令を敷きこの国へと来たのだ。

 彼女を捕らえるために……


「それにしても、この国は恐ろしいな」


「押忍!ナダ共和国、恐ろしい所ッス!」


 私のつぶやいた言葉に王国から連れて来た従者、ロッシが同意する。

 先ほど入った飲食店での領収書に目をやる。

 腹が空いたと思っていると人が良さそうな若い男が「美味しい料理がありますよ」と呼び掛けており店へ案内してもらうことになった。

 中々商魂たくましい、仕事熱心な男だと思う。


 そこで私達はディナーを頂いたわけだが会計の時の金額に目を剥いた。

 何と二人合わせて3万である。どうやら隠れた名店だったようだ。

 ただ、いくらなんでも高いのではないかと思い内訳を教えてもらうと座席料金、週末料金、時間料金などもかかっているので高めになってしまうとの事であった。


 果たしてこの様な恐ろしい国であの妹は生きていけるのだろうか?

うっかり騙されて奴隷商人などに捕まりその辺の娼館に売られてしまっていやしないか心配だ。

 今頃何処でどうしているのだろうか。


――ベリアーノ市第3区住宅街――


「ふふっ!どうですか、この家!!」


 新居を探し始めて1週間、突然メイシーが『案内したい場所がある』と言い出した。

 因みにメイシーとリゼットの呼び方について。

 アンジェラの事を俺は『アン』と本来の愛称に加えさらに縮めて呼んでいるのだが二人に関してはもうしばらく昔通りの呼び方にしようと思う。


 実際、『アン』と呼び始めるようになったのも結婚して1ヶ月くらいしてからだ。

 はっきり言うと、少し気恥しいのだ。わかって欲しい。

 さて、メイシーが俺達を連れて来たのは2階建ての屋敷だった。

一般的な日本の住宅の数倍程の広さがあるのではなかろうか?


「うわぁ、こりゃすごい……」 


「うぇええ……」


「うん、何というか大きいわね……」


 俺もアンジェラもリゼットも揃って口を開けて呆けた。


「はい。元々は商人の屋敷だったらしいのですが色々手放した後、ミアガラッハの演者が管理していた物件です。私が会いに行って事情を話したら格安で譲っていただきました」


「うわぁ、凄いよメイシー。これなら大家族で住めるね」


 リゼットが興奮して跳ねている。何だこの可愛い生き物は。

 ただ、確かにこれだけ広ければ4人で住んでその後、子ども達が生まれたても狭さは感じない。

 ただ……

 俺はアンジェラの方を見る。難しい表情だ。


「メイシー、何かあんた手際が良すぎない?」


「え?」


 腰に手を当て自慢げな表情であったメイシーの動きが止まる。


「あんたとリゼットがナナシさんに求婚したのが1週間前、次の日から役所に書類なんか色々出して、そこから数日は皆で家を探しに不動産屋を回ったりギルドで依頼を受けてお金を稼いだりしていた……あんたがあたし達から離れたのって3日前にベリアーノに来た時の数時間なのよね……」


「う、運が良かったのですね。たまたまミアガラッハの縁者が見つかりましたから……ハハッ!」


 下手な嘘だな。不自然な笑顔がそれを物語っている。

 多分、ある特定の段階でこの屋敷の存在を知っておりそれをもとに動いたのだろう。


「リリィか……」


 俺の口から出た、未来の娘の名前にメイシーがびくっと身を震わせた。

 わかりやすい……

 恐らく1週間前のあの夜、メイシーはリリィにこっそりと将来俺達が住む家について情報を聞き出していたのだろう。


「そ、その……最初の家はリゼットさんの家でしたし、次はアンジェラさんの……だから今度は私が頑張るべきなのではと思いまして、それでリリィから話を聞いたらこういう事だったので……」


 まあ、メイシーなりに皆の役に立とうとしたわけだな。

 実のところ、彼女は気づかいの塊だ。

 4年前の段階でもぐーたらしていながら全員分の味付け好みなどを的確に覚えていた。

 自分が先にプロポーズを行い2番目の妻になっていながら最初の夜についてはリゼットに『お先に』と譲っていた。


「ねぇ、メイシー。それで格安とは言ったけれどお家賃はいくらくらいだったの?」


 メイシーが視線をそらしながら小さくつぶやく。


「家賃とかは……無いです。譲渡でしたから」


 という事はメイシーのもの、ということか。

 税金とか大丈夫だろうか?この国の税制についてはよく知らないが相続税とか固定資産税とかかからないのだろうか?


「という事は何か条件があったのよね?」


「えっと……その縁者から言われたのは二度と関わらないで欲しい、と……」


「メイシー、その縁者ってもしかしてさ……」


 リゼットの問いにメイシーが静かにうなずく。


「私の母です。生んでくれた母では無く、父親の3番目の妻だった女性……父が外部に愛人を作ったせいで妹と一緒に出て行ってしまった人です。離婚の際にあの屋敷を手に入れたらしいけれど『こんなもの欲しくない。売りたくとも事情があって売れない』と押し付けられました。私を見ると、父の事を思い出すらしくて……」


 おい待て。思った以上にヘヴィーな事情が出て来たぞ。

 こういう時どういった言葉を懸ければよいか、いいものが思いつかない。

 俺はメイシーをそっと抱き寄せることにした。

 流石に他の2人もこれには文句は言わないだろう。


「大丈夫。俺は君達を裏切らないから……」


 アンジェラとリゼットも俺が抱いていない方の肩にそっと手を置いていた。

 こうして苦い経験をしながらも俺達は家を手に入れることが出来た。


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