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第79話 伝説となったプロポーズ

――ベリアーノ市・第3区商業街――


 戦いの後、俺達はとりあえず市内にある飲食店にやってきて大テーブルを囲んでいた。

 片側にはアンジェラ、メイシー、リゼット。

 もう片側には未来から来たという俺の娘が3人。 

 それぞれの目の前にはこひーの様な飲み物が置いてある。

 ホットだったりアイスだったり、ブラックで飲むものもいた。

 ちなみにリゼットとの間に生まれるというアリスは砂糖を何杯も入れ姉たちにたしなめられていた。


「えーと、つまり未来の世界でのイシダ・シラベがリゼットを狙ってこの時代にやってきたが何やあって倒せた、ということか」


 大体の事情は分かった。

 あの怪しい悪魔みたいなやつは未来のイシダ・シラベだったのか。

 どうも彼女はこっちの世界に来てもロクな事をしていないようだ。


「それで……次はこれについてだが……」


 テーブルの上に役所で貰った冊子を置く。

 親世代3人の表情が険しくなる。


「えっと、これはその、あのね……ナナシさん」


 なるほど。

 濃さの反応から見るにわかりきっていた事だがやはり……


「発案者はアンか……」


「う、うん……」


 一夫多妻か……元居た世界ではギャルゲーなどでよくあるハーレムルートというわけだな。

 いや、やってないですよギャルゲー。どちらかというと俺はRPG派です。

 異世界転生でもよくあるパターンだった気がするがまさか自分がそれを目の前にすることになるとは……

 何せアンジェラを愛しているし、彼女と結婚できたこと自体が俺にとって奇跡の御業だ。


「……あのさ、俺の居た世界は一夫一妻だった」


「う、うん……わかっています。その……ごめんなさい」


 いや、怒っているわけじゃないんだけどな……何というか戸惑っている。

 ほら、娘達なんか緊張した面持ちでこっちを見ている。

 だから怒ってないって。

 ていうか子ども達が未来から来るのもある種お約束か?


「ナナシさん、ごめんなさい。私達、お二人と離れたくなくて……」


 メイシー、申請書を君が書いて素早く出したのはそういう事だったのか。

 ただ聞いたところどうも想定にない申請ミスがあったみたいだが……


「いや、別に怒っていない。それに君達と離れたくないのは俺も同じだ。何というか、確かに俺にとって特別な存在だと思う。ただ……出来れば相談して欲しかった」


 親世代3人がしゅんとなる。


「元々、一夫多妻の発想が俺には無かったけど、実際資格を取ってしまっているし……それに、確かに結婚したら上手くいかなくならない限りは一緒に居られるよな」


 その言葉に皆の顔が明るくなる。

 というか俺がリゼットやメイシーを振ったらそこに座っている3人の内ふたりの存在が危うくなる。

 郷に入れば郷に従えとも言う。


「いいよ。俺も君達と一緒に居たい。この結果を受け入れるよ」


 おお、と歓声が上がる。

 

 因みにここで俺がふたりに対しプロポーズの言葉を述べないのには理由がある。

 この世界の結婚観では男性から女性に求婚するのはダサい事なのだ。女性にとってプロポーズをするというのは超重要イベントだ。

 俺もアンジェラに求婚しようとして周囲から止められた。

 この場で俺がすべきは一夫多妻を受け入れるという宣言のみだ。


「お兄さん。ありがとう。それにアンジェラもメイシーも!ボク、ずっと罪悪感に悩まされていたんだ。だから、皆といる資格は無いって思っていた。でもやっぱりボクもみんなと一緒に居たいし、それにお兄さんのことが好きだから……」


 はい、来ました。プロポーズタイム。それにしても面と向かって好きと言われるとやはり照れくさい。

 今後産まれてくる予定の娘たちの前でのプロポーズかぁ。

 中々エモい事を考えますな。得点が高い。


 男連中の間ではどんなプロポーズを受けたとかそういう話題で盛り上がったりするし、結婚情報誌とかにも『男がされたい想い出に残るプロポーズ』とかいう特集が組まれていたりする。俺も読んでいてちょっとしたプロポーズソムリエだ。


 うん、世界変われば常識も変わるものだねぇ。俺もすっかり適応してきたよ。

 思えば異世界での歩みはリゼットと共に始まったんだな。

 あの時はこういう事になるとは考えてもみなかった。


「アリス、君のおかげでボクも覚悟が出来たよ。ありがとうね」


「お母さん……」


 よし、そら来い!!

 構えた瞬間だった。


「ナナシさん、あなたを一生愛すると誓います。この私、ミアガラッハ・メイシーと結婚してください」


「「「「「「え!?」」」」」」」


 横から割り込んで来たメイシーが跪き俺に手を差し出してきたのだ。

余りの衝撃に俺を含め皆が絶句した。


「メ、メイシー!?ちょっと待って。今のどう考えてもボクがプロポーズする流れだったよね!?」


 うん。どう考えてもそうだ。


「ふふ、油断しているリゼットさんが悪いですよ。私はね、実のところ結構強欲なところがあるなって気づいてしまいました。だから2番目の座はいただきますよ」


「うっ……だ、だけどさぁ……」


 メイシー……君は凄いよ。

 これは『割り込みプロポーズ』と言ってAがプロポーズすると見せかけBが割り込むという高等テクニックだ。

本来はAはただの囮であるという事が多いが俺達の場合はAとB両方が結婚する気という事で芸術点が加算されるわけだ。


「さあ、ナナシさん。どうします?私と結婚してくれますか?」


「ああ、も勿論だ……その、よろしく頼む」


 俺はメイシーの手を取り立たせる。

 この瞬間。プロポーズは成立したわけだ・

 戸惑いながらも皆が拍手してくれる。

 ついでに言えば遠くからその様子を見ていた周りの客も拍手をしてくれていた。

 そりゃなぁ、これは滅多に見られないレベルのプロポーズだ。


「ふふっ、これでアンジェラさんと同じですね。これからは『あなた』という呼び方にも違う意味が付加されます」


「そうだな。よろしくな、メイシー……」


 メイシーとの出会いは立小便と散々だった。

 一緒に住むことになった経緯もなし崩し的だし……いや、よく考えれば全員そうか。


「メイシー、あんたって本当ナナシさん並みに読めない人ね……何というかちゃっかりしている……」


 アンジェラが頬杖をつきながら肩をすくめリゼットを見る。


「ま、まさか最大の見せ場でメイシーに先を越されるなんて……」


「あたしも驚きだわ……今日の所はメイシーのお祝いを……」


「いや、君がそう来るならボクだって!」


 そう言うとリゼットが俺とメイシーの間に割って入り俺の手を取るとぐっと身体を寄せてきた。

 え、嘘?何この積極性。

 リゼットは俺の顔をじっと見つめている。いつもの彼女ならこんな距離まで接近したら目が反復横跳びでもしているのかと思うほど動き回るのだが……


「お兄さん、いえ『ナナシさん』!!」


「は、はい!!」


 何気に名前で呼ばれたのは初めてだ。


「頼りないボクだけど、一生大切にするから……だからボクと、結婚してください!!」


 リゼットの言葉に更に歓声があがる。

 こ、これはまさかのWプロポーズ!?

 普通ならこのタイミングは女性側にとって『かっこ悪い』と避けようとするもの。

 そこへ敢えて突撃してくるアタック性。

 しかも『一生大切にするから』というパワーワードだ。

 転生前の世界では普通は男が言うセリフをあのリゼットが口にしたという事も個人的に高評価だ。

 そして初めての名前呼び。何だよこのウルトラテクニックは!?


「ありがとう。よろしく頼むよ、リゼット」


 そう言うと既に大分密着していた彼女を抱きしめた。

俺の行動に更に大きな歓声が店を包み込んだ。

出会った時は俺が誰かに好意を抱かれるとなんか思いもしなかった。


「ふふ、流石はリゼットさん。あの状況から更なるプロポーズに持ち込むとは侮っていました。ちょっと感動しましたよ」


 メイシーから賞賛の言葉が贈られる。

 ちなみに少しうらやましそうにしていたので後でこっちも抱きしめないといけないだろう


「今のプロポーズには流石のあたしもびっくりしたわ……でも、超かっこいい。メイシー、リゼット……おめでとう。これからもよろしくね」


 アンジェラもリゼットの予想外の行動に驚きながらも笑顔で祝福をしてくれた。


 こうして俺は今日、メイシーを二番目、リゼットを三番目の妻として迎えることになった。

そして二人は正式に俺と同じアンジェラの籍に入る事となった。

ちなみにこのWプロポーズは後世にも語り継がれる伝説となったという事はちょっとした余談だ。

それから俺達は店に居た人達からたくさんの祝福を受け続けた。

 こうして俺達4人は家族となった

 


レム・アンジェリーナ(家長)

レム・ナナシ(七枝良哉)

レム・ミアガラッハ・メイシー(二次妻)

レム・リゼット(三次妻)


 メイシーはミアガラッハの家を存続させたいのでミドルネームにミアガラッハを残すらしい。一方、リゼットに関しては本名がイリシア・リーゼロッテであるがイリス王国と関わる事も無いだろうし『イリシア』という名前が残る事で不都合も生じる。その為、彼女はリゼットを正式な名前とすることにし、レム・リゼットになった。

 俺も今までの通りナナシを名乗る事にした。親が付けてくれた良哉の名を捨てる事になるのは申し訳ないが俺は既に『ナナシ』だから。

 これからの世界をナナシとして大切な人達と生きていく事が出来る。今から楽しみで仕方がない。


――数時間後――


 俺達は店を後にし、サートス村に帰る事となった。


「これで4人家族。そして将来生まれる子ども達の事を考えると7人以上の大家族という事になりますね。こうなると探す家もそれなりの大きさになりますね」


「確かに。ねぇ、アリス。ボク達がこの先済む家ってどんなところなの?」


 未来から来た娘達なら自分達の生家がどこか知っているはずだ。


「えっとね……ぐむぅむぅ!!」


 アリスが答えようとするとリリィが慌てて口を押える。


「ダメよ。あんまり未来の情報教えすぎないで!!」


「そうね。下手に教えてしまってそのせいで未来が変わる可能性もあるわ。元の時代に戻ったら家が別の場所になっていたとか嫌じゃない?」


 ケイトの言う事はもっともだ。

 もし情報を俺達が知った事で何かしら未来が変わるようなことがあってはならない。

 タイムマシンで宝くじの当たり番号を調べに行くような事はしてはいけないのだ。


「ふふっ、これから忙しくなるわ。ナナシさん、メイシー、リゼット。頑張って家を探しましょうね!」


 流石だな、アンジェラ。しっかりと皆をまとめてくれている。


「それじゃあ、あたし達は元居た時代に帰りますね」


長女のケイトがそう告げた。


「えー、いいじゃん。ボク、もう少しお母さん達と一緒に居たいよ!!」


 三女のアリスが口をとがらせる。


「ダメよ。あんまり長くいたら歴史にいらぬ影響を与えかねないわ。目的を達成したのだから早く戻らないと」


うん、一番上だけあってしっかりさんだ。


「当初の目的は達成したからね。それにあのヒスおばさんは父様が倒してくれちゃったじゃない?これって敵の幹部がひとり消えたって事よね。ラッキーじゃない。」


 リリィはそう言うとメイシーの方を見る。


「それに超イケてるプロポーズを見せてもらったからね。私も興奮しちゃった。あたしもいつかあんなプロポーズしたいな」


「ええ、あなたなら出来るわ。精進しなさい」


 ちょっと待て。父親の立場からするとちょっとそれは複雑だぞ?

 相手がいるのか?ちょっと詳しく聞かせてもらいたい。

 


「よし、それじゃあ帰りのゲートを出すわよ」


 そう言ってケイトが魔道具を起動させる。

 紫色の渦が発生し、ケイト、リリィ、アリスを包み込む。


「それじゃあ、お父さん達、未来でまた会いましょう」


 互いに手を振り合い、娘たちはゆっくりと渦の中に姿を消していった。



――ベリアーノ市・第2区学校の裏山――

◇老シラベ視点◇


 ああ、憎い。

 七枝の血が憎い。

 あの男さえいなければこんな世界に転生する事も無かった。

 あの男さえいなければこの世界を無茶苦茶に出来たのに。

 どの世界でも、いつの時代でも、あの男が邪魔をする。

 私は今、半分の頭部でかろうじて生きている。

 魔人化した影響だがそれでも直に命を終えることになるだろう。

 正に完全な消滅を迎えようとしているわけだ。

 折角、賢者の研究から時を超える術を発明したというのにまさか七枝の血が追いかけてくるとは。

 そしてまたもやあの男に阻まれるとは……

 

「やぁ、私を呼んだのはあなたね?」


「ああ……来てくれたようだな、『私』」


 念を送り呼びかけ続けた甲斐があった・

 私を見下ろすのは、この時代を生きるもうひとりの『私』だった。


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