第78話 親と子は似たところがある件
――ベリアーノ市・第2区――
「くそっ、リゼット、メイシー。どこに行った!?」
ベリアーノには何度か来たことがあるが道などわからない。
東西に細長い市街地を持ち南側には港まである巨大都市だ。
サートス村で人を探すのとはわけが違う。
『あっちだよ。迎えに行ってあげて』
声が聞こえる。
視線をやると北條刑事の娘さん、丈里奈ちゃんの霊がある方向を指さしている。
「そうか、ありがたい!」
彼女が指さす方向にかけ出そうとした時、悲鳴が聞こえた。
見れば3m程はあるエリマキトカゲみたいなモンスターが街中を徘徊して人を襲っている。
いやいや、都会って街中でもモンスター出るんですか!?
うわ、都会怖っ!
街中だしすぐに警備隊が駆けつけるだろう。ここはリゼット達を……………
「ああもうっ!!」
やはり放っておくわけには行けない。目の前で助けを求めている人がいるなら俺は手を伸ばす。
「待ってろ。秒で終わらせてやる!!」
モンスター目掛け、俺は飛び込んでいく。
◇メイシー視点◇
……ああ手が痛い。
未来から来たという老シラベさんの発言でつい頭に血が上ってしまい思いっきり殴ってしまった。自分にこのような熱い一面があったのは驚きです。
手加減とか考えてなかったからこっちも少し手を痛めてしまっている。
現在、私はリゼットさん、そして未来から来たという彼女の娘であるアリスと共に逃げている。
路地裏で戦ったのでは周りに被害が及ぶ。場所を移す必要があるという事だ。
それにしても未来から来た娘か……
個人的には私の子どもはどんな子なのかを聞いてみたいのだがそんな空気ではない。
そうしている内に私達は市内にある学校近くの小さな裏山にたどり着いた。
「よし、ここなら大丈夫。ここは旧校舎とかがあるけれど人はほとんど来ない。ここでならちょっとくらい暴れられるよ」
「詳しいんだね。アリス」
「ボクや姉さんたちは未来でここの学校に通っているからね。裏山の事はよく知っているんだ」
「……もしかして授業をサボってここで過ごしたりした事があるとか?」
アリスの身体がビクッとなる。
なるほど。将来先生方にこの点は忠告するようにしましょう
「ところで気になるのですが、あなたにはお姉さんがいるのですよね。もしかして私の子どもというのは……その……」
「うーん、あんまり言わない方がいいって言われているんだけどなぁ……リリィ姉って人がメイママの子どもだよ」
「そうですか……女の子が……私に女の子が」
心の中でこぶしを握り締め大きく掲げ叫ぶ。「いよしゃぁぁぁ」と。
男の子も祝福されるが一般的に家を継ぐのは女の子。その子はミアガラッハの後継者というわけですね。
「姉さん達と、交戦状態になったらここに集合しようって打ち合わせをしたんだ。だからもうすぐ応援が来ると思う。それまで何とか…………来た!!」
魔法陣が出現し光の中から、老シラベが出て来た。
「メイシー、貴様よくも引きこもりの分際で!!」
「見ての通り、今の私は引きこもっていませんよ。4年間も旅を続けここに至ったのですからね」
老シラベは私の言葉に眉を吊り上げる。
同時に複数の魔法陣が現れひとつ目の鎧人形が10体ほど出現した。
皆一様に右手に剣を持っている。
「あれは自動戦闘人形ターロス。連中が使う尖兵戦力だよ。1体1体が下の上くらいの戦闘力を持ってる。あのタイプは接近型……それなら」
そう言うとアリスが背中に腰に差していた刀を構え一歩踏み出す。
「ボクの得意分野だね。今回はリリィ姉からこれを借りて来たからね!!」
アリスは片手に小さな彫像を握っていた。
「リゼットさん、あれはもしかして」
「多分魔道具だと思う。恐らく、ボクらが持ってるような特殊タイプだと思うけど……」
そう言えば最近使ってないですね、あれ。
基本、盾で味方を守る戦法に徹しているので……
「これさえあればあんな連中、瞬殺だよ。さぁ、お母さん達にボクの超かっこいいところを見せてあげる。行くよ、『獣纏!!』」
そう叫び彫像を刀の柄に当てるが……
「…………あれ?」
何も起きない。
「うぇっ!?な、何で何で!?リリィ姉はいっつも普通に使ってるよ!?あれ!?あれぇぇぇ!?」
「えっと……ちょっとアリス。君もしかしてそれ使い方聞いてないの!?」
「うっ……そう言えば聞いてなかった」
うわぁ……すんごいドジですよこの子。
「うわぁ……えぇ……ど、どうしようか……アリス、とりあえず落ち着こう。ボクもどうすればいいか考えてみるから」
リゼットさんも困惑して隣に立って魔道具を見つめていた。
敵さんたちも何だか空気を読んでくれているようで待ってくれている。
「あの……その魔道具、よく見たら上の方に窪みがありませんか?」
「あ、ホントだ。アリス、アリス!ここ見て。何か押ボタンみたいなものがあるよ」
「えっ……?」
「そこ!それそれ!押せるんじゃないのそれ!」
リゼットさんに促されアリスが魔道具の上部のくぼみを押すと魔道具が光を放ち始める。
「やった!やったよお母さん!!」
あらやだ微笑ましい。
「それでは改めまして………『獣纏』!」
魔道具の彫像から三つ首の獣の影が出て来てアリスの全身にまとわりつく。
「それじゃあ、行ってきまーす!!」
獣の影を纏いながらアリスは刀を手に戦場を縦横無尽に駆け回る。
ターロス兵の振り回す件を避け同時にひと振りで3連撃を叩き込みあっという間に10体の戦闘人形を屑鉄に変えていった。
「まだだ!それならばこれはどうだ?」
さらに3体の戦闘人形が召喚される。
その左腕は先ほどのものと違い大砲のような形になっている。
3体の人形の腕から火砲が放たれていく。
「うげっ!!」
それを見たアリスは慌てて私達の傍まで交代する。
「二人とも私の後ろに!!」
マーナガルムの大楯で敵の砲撃を防ぐ壁となる。
この子、見た目からして完全な接近戦型。
そして……
「あ、時間切れ……効果が……」
魔道具の使用時間も制限がある?もしくはこの子、適性が低いのかも?
アンジェラさんのスピードアップに似ている。あの魔道具についてはもう壊れてしまったようだけど。
「さて、どうしたものでしょう……」
この程度でマーナガルムの防御力を抜くことは出来ないでしょうがこちらは反撃が出来ない状態です。
「大丈夫、来てくれた!!」
アリスが言った瞬間、何処からか短剣が2本飛んできて2体の戦闘人形に突き刺さる。
「下がりなさいよ!命令されるだけの戦闘人形は!!」
暗褐色をしたストレートヘアの少女が躍り出て短剣を引き抜くと素早く振りぬいて2体の首を撥ね飛ばす。更にどこからか弓を取り出すと至近距離で残る1体に対し矢を放ち顔面を撃ち抜いた。
更に老シラベに向かい矢を射る。
「あんたみたいなのが居るから……戦いが終わらないのよっ!!」
少女の放った数発の矢は老シラベが張った障壁に阻まれる。
『チッ』と舌打ちをすると老シラベが放った魔法矢に対し空中で細かい制動をかけながら回避。距離を取り私達の傍にやってきた。
恐らく彼女は身体のあちこちから魔力を放出して姿勢制御を行っている。
「アリス、無事?」
「リリィ姉!うん、大丈夫だよ!!」
リリィ?
つまりこの子が私の……
「この子が私の……、な、何て素敵な子!!」
感情が高ぶってしまい気づけば私は後ろからリリィに抱きついていた。
「えぇ!?ちょ、母様!?」
「うぇぇぇ!?ちょ、メイシー!?このタイミングで何を!?」
「ああ、何て綺麗な髪!色はナナシさんに似ていますね。髪質は私に近いでしょうか?ああっ何て可愛い!!!」
「母様、戦闘中だから!今敵が前に居るから!!」
そうは言われても可愛すぎる!この子が私の娘…
ついでに才能の塊!!
「母様〜っ!!」
その時、老メイシーめがけ水の矢が降り注ぐ。
「大丈夫、みんな!?」
見上げれば失われたはずの『魔法の絨毯』にアンジェラさんともうひとり、少女が乗っている。
流れ的にあの子がアンジェラさんの……
「レムの長姉!貴様も合流したか!!」
老シラベが雷属性の魔法矢を連続して放つ。
二人は魔法の絨毯で素早くそれを回避していく。
結構スピードがついているのでアンジェラさんが喜んでいるのがわかります。
「このあたしがいつまでも同じところにいると思わない事よ!ヒスおばさんはさっさと退場願願いましょうか!!」
赤髪の少女が両腕を掲げると胸の前で魔力が高まり空間がゆがむのが見えた。
彼女はアンジェラさんと同じ魔法使いタイプという事でしょうか。
「エクスプロードォォ、ブラスタァァァァ!!!」
凄まじい爆発のエネルギーが老シラベ目掛け発射され彼女を飲み込んだ。
「何て派手な攻撃……技の名前を叫ぶノリは完全にナナシさんのそれですね」
「あ、うん。母様正解……ケイトは父様にノリが似ている所があるから……」
二人も私達の傍に降り立つ。
「あんたは何をやっているのよ。リリィ、遊んでいる場合じゃないでしょう」
「うっさいわねケイト!あんたの方こそ遅いのよ!!」
なるほど、赤髪の子はケイトという名前か。いい名前です。
「あのねぇ、言っとくけどあたし、一番移動距離が長いのよ?時間だってそれなりにかかるわよ!!」
「とか言ってどうせ途中で道に迷っていたんでしょう?あんた昔っから方向音痴じゃない。あんたのせいで何回迷子になったと思ってるのよ」
「何ですって!生意気なのよ、このへちゃむくれ!!」
「誰がへちゃむくれよ!この年増!!」
「はぁ!?あんたとは少しも年が違わないでしょうが!!」
目の前で未来から来た姉妹が取っ組み合いを始めた。
ああ、これが姉妹喧嘩というものか……
リゼットさん達が慌てて仲裁に入ろうとしていますが私はこの微笑ましい光景をもう少し眺めていたいから放っておくことにしようと思う。
「ちょっとメイシー!あんたも止めなさいよ!!こっちの子は自分の娘でしょ!?」
「いえいえ、私としてはもう少し微笑ましく見守りたいのですが」
「あんたさぁ、この状況でぐーたらな事言わないでよね!!」
カチン。
ぐーたらですって?
「誰がぐーたらですか!もうここ4年以上ぐーたらな生活はしてないですからね!!」
何て失礼な。この4年間あなた達を探してどれだけ歩き回ったと思っているの。
「ぎゃー、おかあさーん。ママ達も喧嘩を始めたよーーー!?」
「ちょっと、親子そろって何をやっているのーー!?」
親世代、子世代で言い合いをしていたがそれは突然終わりを告げた。
急激な魔力の上昇を感じ、全員の動きが止まったのだ。
見れば老シラベからオーラが噴き出している。
「おのれ貴様ら私を無視して幸せそうにはしゃいで……あぁ、憎い。憎いぃぃぃ!!」
老シラベが翼の生えた悪魔のような姿に変わっていく。
「うぇぇっ!?ケイト姉、リリィ姉、あいつ魔人化したよ!!!」
「これは喧嘩している場合じゃないわね。リリィ!」
「言われなくたってわかっている!せっかくだから母様達にいいとこ見せないとね!!」
3姉妹が想いをひとつにして陣形を組む。
「リゼット、メイシー。あたし達もやるわよ!!」
「わかったよ」
「そうですね。子どもに格好悪いところは見せられません」
私達も陣形を組む。
「ククク、魔人化した私に貴様らの様な雑魚が勝とうなど100年早いと教えてやろう!!」
何だか盛り上がってくる展開の中、私は見た。
魔人シラベの頭上を飛び回転する人影を。
「あ……」
人影はそのまま魔人シラベの頭にかかと落としを叩き込む。
「なっ!?」
そう、その人影は……
「「ナナシさん!?」」
「お兄さん!?」
「「お父さん!?」」
「父様!?」
多種多様な呼び方をされた男、ナナシさんだった。
彼はそのまま悶絶する魔人シラベに組み付くと持ち上げ捻りながら地面に叩きつけた。
「ちょっ!貴様、七枝か!?いつの時代でも私の邪魔をするかぁ!!」
激昂し立ち上がった魔人に対し距離を取り腕を向けた彼は……
「ナナシィィ、ビィィィィィィィムッ!!」
腕から迸る必殺技を放った。
結局名前はそのままにしていたようです。
そしてナナシビームの直撃を受けた魔人シラベの身体にひびが入っていき……
「そ、そんな。うわぁぁぁっ!!」
大爆発を起こした。
「「「宿敵が瞬殺されたぁーーーー!?」」」
娘たちの叫びがこだまする。
「え?こいつ倒して良かったよな?あれ……俺、もしかして何かまずいことしてしまったか?え、まさかこいつ味方だったとか?」
困惑した様子で彼が私達を見回す。
ああ、そうだった。この人ってこういう人でした……




